第56話 アビリティの授業を見よう

 クロードと別れた後、俺は大きな建物が並ぶ場所に来ていた。

 昨日は魔法の方を見に行ったから、今日はアビリティ――サーバントたちの方を見に行こう。


 授業場所は昨日と同じような所だったが、少し狭かった。壁際には大きな的や、人型の藁でできた人形があった。たぶんそれにアビリティを打ち込んで訓練するのだろう。


 授業を受けているのは20人くらいでそれぞれ手にサーバントを持っていた。人間ばかりで昨日とは全く違う風景だった。それは授業内容もそうだ。


 魔法を使っていたハーフエルフや獣人たちは、敵の想定をしていなかった。ただ自分の魔法を確認するために魔法を使うと言った感じ。


 ここではそうじゃない。敵、それも人やエルフ、獣人を相手にした訓練を行っている。対人戦だ。

 冒険者とは訓練の仕方が違う。魔物を倒すのとは考え方が違う。


 ローザがここにきて訓練すると言った理由がようやくわかった気がした。彼女は強くなりたいと言っていた。そこにはホムンクルスと戦えるようになるというのが含まれていたのだろう。


 ホムンクルスは魔物というより、人に近い。ゾーイ/ライリーとの戦闘のとき、冒険者たちは、アビリティを盾に弾かれてしまっていた。


 対人戦の授業ということは、その対策をとっているんじゃないか?


 一組の女子生徒が訓練をしているのをじっと見た。片方は盾のアビリティを使い、もう片方は槍のサーバントを持って準備している。双方、属性は使っていない。


 盾のアビリティは体を隠せるくらいには大きい。安全のためだろうか、術者からかなり離れた場所にそれは浮かんでいる。


 槍の方の生徒がアビリティを使って刺突する。グンと槍が伸びたように見える。

 盾のアビリティに穴があいて、槍のアビリティが盾の後ろに突き出す。


「うわ!」


 と盾の方の生徒はその様子をみて、悔しがった。


 どうやってるんだ?

 アビリティの盾って貫けるのか?


 そのあと、二人の生徒は同じことを繰り返したが、いつでも貫けるわけではないようだった。


 盾の強度の問題か?

 魔力を十分に使えば弾くことが出来る?


 授業を最後まで見ていたが、はっきりとしたことはわからなかった。盾の生徒の方は魔力切れ寸前なのか疲れていたが、それでも槍のアビリティを防ぐことはできていた。


 授業が終わって、建物から生徒たちが出ていく。俺は慌てて階下に降りて、さっきの女子生徒たちに話しかけた。


「ちょっと話いい? 質問したいことがあるんだ」


 二人は俺を見ると、ああ、とつぶやいた。二人のそばには男性のサーバントが立っていた。槍のサーバントが言った。


「ずっと上から見てた人だろ? 入学希望者?」

「違うけど、アビリティに興味があって見てた」

「ふうん。それで、質問って?」


 槍の契約者の女子生徒が言った。ブロンドの髪を短く切っていた。


「どうやってアビリティの盾を貫いたんだ? 時々貫けなかったみたいだけどあれは確率の問題?」

「どうやってって……」


 彼女は槍のサーバントと顔を見合わせた。


「守りの薄い部分を狙って攻撃しただけだよ。《探知》を使えば何処が薄いかわかるから。まあ、ちょっと貫通に特化させたところはあるけれど」


《探知》にそんな使い方があるなんて知らなかった。そうか、ローザが魔力の流れを見れるように、うまくやればアビリティに使われている魔力の流れがみえるのか。


 でも……、


「時々弾かれてたのはどうして?」

「それは私がうまくやったから」


 もうひとりの女性が言った。おっとりした女性だった。やっぱり授業で疲れているようで少し声が小さかった。


「攻撃された瞬間にその場所に守りを集中させたの」


 そういうことか。

 対人戦だと考えることが増えるんだな。つかう技術も同じように増える。

 魔物のように考えなしに突っ込んでくるわけじゃない。


 俺はまた槍を持っていた女性に尋ねた。


「貫通に特化させるって言ってたけど、金属も貫通できる?」

「ええ。できるわ。ただ訓練が必要だけど。やり方も人とサーバントに依るし」


 そうか……。俺がやるなら俺なりの方法を考えないといけない。そもそも槍の形も剣の形も作れないんだ。


 でもこれができればホムンクルス相手でもある程度戦えるようになりそうだ。

 方針が見えてきた。


「ありがとう。やってみる」


 俺はそう言って離れようとした。


「ねえ、君、サーバントは?」

「持ってないんだ」


 俺が言うと彼女たちは首をかしげた。

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