第53話 魔法の授業を見学しよう

 ヴィネットは風の属性を持つ『精霊の血』を調べ始めて、俺は暇になってしまったので、学校内をうろつくことにした。俺はここの生徒じゃないけれど、例のカードも持ってるし、ネックレスもあるし、面倒事には巻き込まれないだろう。


 ここで調べたいことは二つ。


 一つはマヌエラが使っていたナイフを複数出す、あの魔法。アビリティでも魔法でもいいから、実戦形式の授業でも見てみよう。


 もう一つは宙に浮く魔法。今は空を跳ぶことが出来るけれど、いちいち感圧式魔法を踏んで跳び上がる必要があって、いわゆる「滞空」ということができない。鞘を使って水蒸気をバンバン出せばいいじゃないかと思われるかもしれないが、二本じゃ体勢を整えるのでせいぜいだ。


 なぜ滞空をしたいのかと言うと、はっきり言えば跳ぶたびに体勢を整えるのが疲れるから。長距離を飛ぶのに、今の方法は向かない。それにろくに風景を楽しむことができないから。


 何れにせよ、魔法やアビリティの授業に潜り込んでヒントを得よう。


 俺は、まず魔法の授業に潜りこんだ。座学の授業は四つある塔のいずれかで行われているみたいだが、実戦は別の少し大きめの施設で行われていた。

 俺が行った場所は闘技場のようになっていて、二階の観客席のような場所から授業の様子を眺めることができた。


 授業を受けているのはハーフエルフと獣人たち。そういえば最近知ったが俺がエルフと呼んでいた人たちの殆どはハーフエルフらしい。マヌエラは正真正銘エルフだけれど。王族扱いされるのは正真正銘のエルフだけで、ハーフエルフはその限りではないようだ。ヴィネットもハーフエルフ。耳が長いのがハーフエルフなんだってさ。


 ハーフエルフはハーフエルフで固まって授業を受けている。というか獣人たちにちょっかいを出して、嫌がられている。


「もっとそっちでやりなよ」


 ハーフエルフの男が、獣人たちにそう言って、近くに魔法を放った。男は一見柔和そうだが、その笑みは意地が悪かった。

 どう考えてもハーフエルフの使っている場所のほうが広いのに、獣人たちはおとなしくしたがって狭い場所で練習している。上下関係があるみたいだ。イヤダイヤダ。


 で、ハーフエルフたちがそれだけの広さを確保するほど、強力な魔法を使えているかというとそうでもない。この授業ではむしろ獣人たちのほうが凝った魔法を使っている。


 マヌエラはエルフたちは魔道具ばかり使って年々魔法の実力が落ちていると言っていたが、ハーフエルフでもそうなのかもしれなかった。


 と、先程獣人たちに向かって魔法を放ち遠ざけていたハーフエルフが俺に気づいて近づいてきた。


「アビリティの授業じゃないよ。魔法をつかえないんだから、出ていったほうがいい」

「お構いなく」


 俺はそう言ったが、そのハーフエルフは顔をしかめた。


「出ていったほうがいい。目障りだから」

「これでも目障りか?」


 俺はネックレスを取り出して見せた。ハーフエルフと友好があるという印だと言われて、ダレンにもらったあれだ。


「それがどうしたの? 早く出ていってよ」


 全然効果ないじゃん、これ。

 それともこのハーフエルフが馬鹿だから効果がないのか?

 わかんねえな。


「勝手にさせてもらうよ」


 俺が言って、椅子に深く腰掛けると、彼は眉を潜めた。


「僕が誰なのかわかってないみたいだね」

「知らない。誰お前」

「アルベルト・レガス。聞いたことくらいあるだろう?」


 彼はしたり顔だったが、俺は首をかしげた。


「さあ? さっぱり」

「はあ? レガス家を知らないのかい? 聖属性の魔法を使える家系といえば真っ先に出てくる名前だよ」

「知らないね」


 アルベルトは鼻で笑うと、腕を組んだ。


「そうか、君は何も知らないお馬鹿さんなんだね。それじゃあ仕方ない。世間を知らない哀れな君に教えてあげよう。君が大怪我をしたり、呪いにかかったりしたら、間違いなく僕たちの家に厄介になるはずだ。聖属性の魔法には癒やしの効果があるからね。僕の家系に逆らうということは治す機会を永遠に失うということなんだよ」

「そりゃ大変だ」


 大変なのは、その力を使ってレガス家のバカ息子がでかい顔をしていることだった。

 アルベルトは得意げに笑った。


「そうだろう。わかったら、さあ、ここから出ていくんだ」

「アルベルト君」


 と、そこに教師らしき人物が現れて、声をかけた。他の生徒たちは教師の前に集まっていて、どうやらこの時間の授業は終わりらしかった。終わりなら仕方ない。言われたとおりここから出て行こう。


 アルベルトは最後まで従わせられなかったことを悔やむように俺を睨むと、教師のそばに駆けていった。


 何処にでも面倒なやつはいるらしい。やだやだ。


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