第36話 森を抜けてボルドリーへ
森を抜けた後、ラルヴァ側とは違ってボルドリー側では冒険者も騎士たちも調査のためにでてきてはいなかった。
こちら側はかなり静かだ。そう思いながら、着地して、ボルドリーに向かった。
「……なんだこれ」
ボルドリーの門は破壊されていた。森の中で見た岩の柱が門のアーチを完全に崩していた。
男たちが岩の柱を崩そうとしている中、門番らしき男が立っていたので話しかけた。
「これって……」
「襲われたんだ。数日前にな。魔物か、何かはよくわからない。人型だったのはわかるが。突然やってきて、門から冒険者ギルドまで一直線だよ。冒険者ギルドは壊滅状態だ」
「ローザ……領主様たちは?」
「彼らは無事だよ。全く何だったんだあれは」
門番は俺を中に通してくれた。彼の言ったとおり、たしかに門から冒険者ギルドまで道が開いていた。途中にあった建物が壊されて、冒険者ギルドには岩の柱が何本も立っている。
人々は復旧のためにせっせと働いている。彼らの間をぬけて冒険者ギルドの前まで行くと、ボルドリー伯爵が誰かと話していた。
彼は俺に気づくと驚いた様子でやってきた。
「ニコラ! どうやって来たんだ?」
「ええと、森の上を跳んで来ました」
「ルフでか? 乗せてくれる人がいたんだな?」
「いえ。魔法で」
「魔法で!? そんなことが出来るのか?」
俺は頷いた。
と、先程まで伯爵と話していた男が俺に近づいてきた。
細身で30代くらい。冒険者には見えなかった。無精髭だし不健康そうだった。
「森の向こうから来たんスね?」
「ええ。ええと貴方は?」
「ああ、失礼。俺はここのギルドマスターみたいなことをしてる、ハリーっス。で、森の向こうってどうなってたっスか? 連絡が取れないんでどうなってるのか知りたいんス」
「魔物が森から溢れ始めてて、色々調査をしようとしてるとこでしたよ」
ハリーは顔をしかめて、伯爵をみた。
表情を険しくしたのは伯爵も同じだった。
「まずいっスね。もう向こう側まで……」
俺は思い出して、革の袋から二人のサーバントの亡骸を取り出した。
ハリーはそれを受け取って注視した。
「サーバントっスか?」
「ええ。森の中でみつけました。ギルドに刺さってるこれと似たような岩の柱みたいなのが森にあって、気になって見に行ったらその二人が呻いていたんです。二人から聞きましたよ。二人の契約者って、以前、ルビーが森で魔物に襲われたときの原因になった冒険者でしょう?」
「おそらく、そうっス」
「その冒険者たちは死んだと言ってませんでした?」
無謀な冒険者たちが森に入って事件を起こした、彼らはもう死んだ、というのが俺が聞いた話だった。
ハリーは頭を下げた。
「申し訳ないっス。あの時は冒険者たちの腕や足が見つかって、だから、魔物に食われて死んだものだとばかり……。そのときはまだ森に岩の柱もなかったんスよ。まさかこんなことになるとは思わなかったんス」
冒険者の捜索なんて普通真面目にしないからな。生死には責任を持たないのが冒険者ギルドだし。腕や足が見つかったら死んだと判断するだろう。
「この二人のサーバントから何か聞いたっスか?」
俺は二人から聞いたことを話した。ハリーは顔をしかめてその話を聞いていた。
「『ホムンクルス』っスね」
「なんです、それ」
「……ここで話すのはちょっと。周りを必要以上に不安にさせたくないんス」
「では城に向かおう。ローザも戻っている」
ああそうだ。それが目的で戻ってきたんだった。あまりに衝撃的なことが多すぎて忘れていた。
俺は彼らに連れられて城に向かった。
本当に城は攻撃されていない。どうやら契約者を食ったサーバントは冒険者ギルドにだけ恨みがあったらしい。
……恨みじゃないのか?
わからない。
「お兄様!」
城に入るとちょうどルビーとナディアが通りかかって俺の存在に気づいた。ルビーはパタパタと走ってくると俺の手を握った。
「おかえりなさい! あ、お姉さまが戻ってますよ! 呼んできますね」
ルビーはせわしなく俺から離れて階段を登っていった。
ハリーが気になったのか俺に尋ねた。
「どういう関係っスか?」
「……ちょっと複雑です」
「義妹、嫉妬、略奪……」
おい、なんだその不吉なワードは。複雑とはそういう意味じゃない。
伯爵はハリーを連れて先に応接室に向かった。どうやらハリーは気になって仕方ないみたいだったが、伯爵が襟首を掴んで連れて行った。
いい歳だろ、何やってんだ。
「ニコラ……」
その声を久しぶりに聞いた。
いつも彼女と話す時はグレンが答えていたから。
ローザは目に涙を浮かべて、俺に身を寄せた。
「本当だ……本当に生きてたんだ……」
「うん。何故か生きてたよ」
「また会えて嬉しい。すごくすごく、嬉しい」
ローザはグッと俺の背に力を入れた。
しばらくして彼女は顔を上げた。
「どうやって森を越えてきたの?」
「ジャンプして越えてきた」
俺が言うと、彼女は吹き出して笑った。
「信じてないだろ。ホントなんだからな」
「そうなのね、くっ、あはは」
くそお、信じてないな。
がんばってジャンプしてきたんだぞ。腕がびしょ濡れになって火で乾かすの大変だったんだからな。
「とにかく、その途中に見つけたものと、街を襲ったものについて、ギルドマスターと伯爵に話をするためにここにきた」
「そう、じゃあ、早くギルドマスターと話さないとね。話が終わるまで待ってる」
街を襲ったものと聞くと彼女はすぐに笑うのをやめて俺から離れた。
「じゃあ、後で」
俺はそう言って応接間に向かった。
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