第17話 【レズリー伯爵視点】弱くなったライリー
レズリー伯爵は頭を抱えていた。
彼は戦士の家系で育ち、付き合いがあった貴族たちも戦士の家系が多かった。彼らはレズリー伯爵同様、武力至上主義でいくら頭が良かろうが商才があろうが剣術、アビリティその他の武術に優れていなければ劣ったものと考える傾向があった。
ライリーはその中でも優秀な方だった。
パーティなど複数の貴族が集まる交流の機会があるたびに試合を行って、武を競い切磋琢磨する。そういう一見すると健全な交流を、その実はマウントを取り合う風習を笑って過ごせるくらいにはライリーは優秀だった。
だが、今はもう違う。
「あれぇ? アビリティは使わないの?」
ライリーの試合相手はそう言った。彼はアーガヴェニー子爵の息子でまだ13歳。集まっている貴族の中では中の下くらいの実力だ。いつもならライリーが優勢に試合を運んでいた。
この試合では優劣がつかないよう属性アビリティは禁止だったが、普通のアビリティは使うことが出来るルールだった。以前はなんとかナディアがアビリティを使って勝っていたが、今はカタリナもライリーもその普通のアビリティすらまともに使えていなかった。
「くそ! カタリナ!!」
「叫ばないでください!!」
レズリー伯爵は近くの椅子に座ってその様子を眺めていた。周りには他の貴族もいて、試合の様子を同じように見ている。ヒソヒソと話す声が聞こえる。レズリー伯爵は親指の爪を噛んだ。
何をやっているんだあいつは。
ふざけてる場合か。
ライリーは結局相手の少年の攻撃をもろに食らって倒れ込んだ。
いつもならライリーが立っていて相手が倒れている。今はその逆だ。
「うう……」
少年は笑って離れていった。
伯爵のもとに戻ってきたライリーの顔は屈辱と怒りで真っ赤になっていた。
「カタリナ!! どうしてちゃんとアビリティを使わない!? 僕が恥をかく羽目になっただろ!」
「私は関係ないでしょう!? 貴方のアビリティが下手なだけです!!」
「何だと!?」
「おい二人ともやめろ!」
伯爵は大声を上げる二人を制した。周りからくすくす笑う声が聞こえる。アーガヴェニー子爵もこちらを見て不遜な笑みを浮かべていた。
レズリー伯爵は腹が立ったがぐっと押さえその場を耐えることにした。
自分の屋敷に戻ってくると、レズリー伯爵は二人を怒鳴りつけた。
「なんだあの醜態は!? どうしていつもどおりやらない!? ふざけてるのか!?」
「違うんだ父さん!! カタリナがまともにアビリティを使えなくて!! 水の属性だって未だにちゃんと使えてないんだよ!?」
「はあ!? 水の属性は貴方が制御するものでしょう!? 何を人のせいにしてるんです!?」
また二人が騒ぎ出してレズリー伯爵は頭が痛くなった。
「カタリナ!! ライリーはナディアを使っていたときには水の属性を使えたんだぞ!? お前にも責任があるんじゃないか!?」
「そんなわけないです!! だって……」
「言い訳は聞きたくない!!」
レズリー伯爵はため息を吐くと、ライリーに言った。
「ライリー。お前は最近練習をサボっているだろ。私の目はごまかせないぞ」
「それは……」
「黙れ。いいか。私の言うことを聞いていればいいんだ」
ライリーはぐっとうつむいて、頷いた。
それから何度か他の貴族に招かれてパーティに参加し、そのたびに試合があったが、ライリーは負け続けた。徐々にライリーは社交に参加したがらなくなり、ついには参加しなくなった。
「どうして練習しないんだ!? ナディアがいたときのように練習すればなんとかなるだろう!?」
ライリーは頭を抱えた。
「出来ないんだ!! 少しならアビリティを使える。でもすぐに使えなくなるんだ!! 体がだるくなって、何もやる気が起きなくなるんだよ父さん!! これは……」
「そんなもの、お前の気力が足りないからだろうが!! やろうという気持ちが最初から足りないからだ!!」
ライリーはレズリー伯爵を睨んだ。そんなことは初めてだったから彼は怯んだ。
「話を聞いてよ、父さん!! これは魔力切れだ!! 今まではそんなことがなかったのに、最近すぐ魔力切れになるんだ!!」
「魔力切れだ? 何を言い訳を言ってるんだ!! 今まで出来てて、突然魔力切れになるわけがないだろ!!」
ライリーは大きく舌打ちをして部屋をでていった。
「おい! なんだ今の態度は!」
そう叫んだが、ライリーは戻ってこなかった。
くそ、最近何かがおかしい。
そこに執事が入ってきた。
「よろしいでしょうか?」
レズリー伯爵は大きく深呼吸をして、それから頷いた。
執事が持ってきた手紙を開く。レズリー伯爵の表情がこわばる。
名言はされていないが、それは今後の社交はお断りするという内容の手紙だった。
ライリーが醜態を演じすぎたせいだ。
家系の水属性どころか普通のアビリティもまともに使えず、簡単に負けてしまうライリーのせいだ。
――このままでは私のメンツが……。
レズリー伯爵は頭を抱えた。
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