武器に契約破棄されたら健康になったので、幸福を目指して生きることにした【web版】

嵐山 紙切

第一章

第1話 大罪人の生まれ変わり

 レズリー伯爵家の長男である俺、ニコラ・マイケル・ハーヴェイは生まれつき体が弱かった。週の半分はベッドに横になって過ごしたし、残りも散歩程度が限界で運動なんて出来るはずがなかった。常に息苦しく、頭痛がして、悪心に顔は真っ青だった。


 理由はわかっていた。「宿罪」――つまり魔力のせいだ。


 すべての人間が等しく魔力を持っている。しかし「魔法」を使うことは出来ない。エルフや獣人たちのように魔力を循環させる器官を人間が持たないためだ。小さな魔力であれば問題ないが、大きな魔力はたまり続けると魔力中毒症――別名「過宿罪」という病気にかかり体を壊し、最悪死に至る。


 それが俺の病だった。


 教会はその使えもしないのに体に害をなす魔力のことを「宿罪」と呼んだ。「初めの人間」から脈々と受け継がれてきた罪、そして直近の前世の罪である。


 どうやら俺は前世でなにかものすごい罪を犯したらしい。


「大罪人の生まれ変わりだ」そう言われた。


 と言ってそれが本当なのかは知らない。教会の人間がそう言ったからそうなのだろう。


 魔力中毒症を抑える方法は二つ。


 一つは『サーバント』と契約すること。『人格を持った道具』である彼らは人間の魔力を消費してアビリティという魔法を使うことができる。剣、盾、鎧だけでなく、ハンコ、ペン、鏡など彼らの形は多岐に渡るが、共通するのはアニミウムという金属で出来ているということ。そして人間と契約すると、人型に顕現できるということ。契約者が死ぬか、破壊されればサーバントはその生命を終える。


 もう一つの方法は、アニミウムを常に体に密着させて携帯すること。アニミウムには魔力を伝達する性質があり、体内の魔力を外に流してくれる。生まれてすぐの俺は言葉も話せず、サーバントについて理解もできないから、契約なんて出来るはずがなかった。代わりに腹にこれでもかというほどアニミウムのベルトをつけられて過ごしたようだ。いまそのベルトはブレスレットになって、両手についている。真珠大のアニミウムが15個ほどズラリと並んだブレスレットはずっしりと重いが慣れてしまえば何ということはない。


 教会が俺の前世を「大罪人」だと言ったのはこのアニミウムの量が関係していた。


 普通、「過宿罪」の人間は真珠大のアニミウム一粒の半分の大きさを身につければ人並みに過ごすことが出来るらしい。両手あわせて30個の真珠大のアニミウムをつけてもなお、俺は起き上がることすら出来なかった。


 ようやくベッドから出られるようになったのは、2歳の頃。


 話せるようになった俺はサーバントと契約をした。名前はカタリナ。剣のサーバントで俺は彼女を姉のように慕って過ごした。『大罪人の生まれ変わり』だろうが現世で真っ当に生きればそれでよいと言うのが教会の考え方だったから、俺は殺されたり捨てられたりすることはなかった。




 その日までは。



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