第十五話 フィギュアに釘付け

 《前回までのあらすじ》

 俺このまんま行くの?


 色々片づいて、久し振りに穏やかな一日が過ごせるかと思ったら。

 昼休みに、いつもの閉鎖した校舎裏で、とまたセイラに呼ばれた。

 

 「どうも」

 「早いな」

 セイラは変わらない様子で既にそこにいた。

 普通が一番。

 「話というのはですね」

 「こういうことなんじゃ」

 すると途端に影から人影が飛び上がってきた。

 蛇神。

 手には何か小さな箱のようなものを持っている。

 「……え?なんで二人はつながってるわけ?」

 「ラインを」

 「交換しました」

 「あ、そう……」

 なんで俺抜きなんだよ。

 と言いたかったが女性の交友にいちいち口挟むべきではないと思う。

 でもそれ確実に蛇神のアイテムだよね。

 やっぱ駄目だろそんなの。

 「……で?その箱がなんなんだよ」

 でもやっぱほっとくことにした。

 「この箱はな。我々がもっとも欲していたものなんじゃ。わしもなくなったきりだと思っとった」

 「だからなんなんだよ!」

 「とにかくこれに頭を近づけろ」

 「えぇ」

 セイラが頭を近づけた。

 箱にどんどんと吸い込まれていく。

 逆ランプの魔神、という感じだろうか。どんどん小さく吸い込まれていくイメージ。

 そして箱の中に消えた。

 「こえーよ」

 「入れ!それでも男か!奴隷に先に行かせおって!」

 「奴隷だから先に行くんだろうが!」

 「そうじゃった」

 凡ミス?

 まぁいいや。

 「とにかく入るんじゃこのッ」

 押されて前屈みになる。

 ということで頭が前に出る。

 無論俺は吸い込まれる。

 「あぁぁぁ!メタルシャワーと掃除機の中間!」

 「吸い込まれたことがあるんか……」

 俺は箱の中に完全に吸い込まれた。

 

 そして気づいたら。

 なんか不思議な空間にいた。

 全体的に風景が歪んでいる。なんか木が宙に浮いてる。鳥居があちこちに斜めに建ってる。 

 何より地面はボールプールみたいになんか色とりどりの玉で敷き詰められてる。

 何だここ。

 「石吹間いしぶきのま……その箱の中に外界からは乖離された空間を作り出す……簡単に言えば隠れ家です」

 声の方を見る。

 おしゃれな黒のレリーフでできたテーブルに、なぜか正座でセイラが座っていた。

 「お嬢様だろお前」

 「ここなら何でもできますよ」

 「よし!花澤香菜の物真似ができるな」

 「なんで自室で一人でやらないんです?」

 「自室なんてないよ……」

 「すいません……」

 なんか悲しい雰囲気になった。

 「さて」

 気づいたら蛇神が隣にいた。

 「うわっ」

 「動くぞ」

 「何が?」

 「屈服に向けて動き出すんじゃろ……真一!」

 鈴木。

 俺の……本当の名前。

 「……ああ忘れてた。俺はあいつから本当の名前取り戻さなくちゃいけねーんだった」

 「この石吹間に、他のアイテムも入れ込んでおる。……考えるには助かるじゃろ?」

 「助かるぜ」

 「私もいます」

 そうセイラが腕を掴んできた。

 「ご主人様の為に動く……これ以上の幸せはありませんもの」

 「もっと幸せにしてやるさ。俺だからな」

 俺は天を突き刺して言った。

 

 「……で、今回のアイテムはこれじゃ」

 「あ、そんな感じなんだ……」

 「慣れていきましょう!」

 蛇神が地面に手を突っ込んで取り出したのは、何か壺みたいなものだった。

 「……壺?」

 「いや。この中に入っておる軟膏みたいなものじゃ。実際の名は偏身代かたよりのみのがわりと言うが俗称で言うと……」

 「言うと?」

 「『なんでも藁人形』〜!」

 「やな秘密道具だな……え?呪うの?」

 「なんとこれ、『のろいのカメラ』のように写真撮らなくていいんです!」

 「実名は出すなよ!……で?写真撮らなくていいってどういうこと?」

 「まず呪いたい対象を決める。それが人間だろうが動物だろうが物体だろうが大丈夫じゃ」

 「範囲広いな」

 「そしてそれを正確に模型化する」

 「……その軟膏で?」

 「いえそれは別途です」

 「えぇ?」

 「材料は何でもいい。手を抜いてはいけん。正確であればあるほど与える感覚が強くなるからな」

 「ダメージは与えるんだ……」

 「呪いは昔から苦しみが一番ですからね」

 「そして完成したものの呪いたい箇所にこのなんでも藁人形を塗り込む」

 「はい」

 「あとはお好きにどうぞって感じじゃな」

 「ぼかしたな?一番のとこぼかしたな?」

 「あのクソチビの●●●を☆☆☆☆☆できるってことですよ!」

 「やめろ鬼畜奴隷!」

 鬼畜な奴隷って何だ。

 女王様を奴隷にやらせるのか。奴隷可哀想だろ。

 「……で……え?何?紫陽花のフィギュアがいるってわけ?」

 「そうじゃ」

 「えー用意できないの?」

 「無理じゃな。呪う本人がイチから作らないと呪いがその姿形に似ている者を片っ端から襲うじゃろう。念を込めんと確実に成功させられん」

 「じゃあもう写真いるじゃん……のろいのカメラでいいじゃん……」

 「聖護院家お抱えのフィギュア作家を用意いたします。……材料もこちらでしっかりバックアップいたします。なのでご安心を」

 「そう……かー……」

 え、割と重労働。

 これまでで一番。


 後日会議室を借りて。

 マンツーマンでいろはを教わることになった。

 「どうもこんにちは。原型師の富山夏彦です。セイラちゃんから話は聞きましたよ」

 現れたのは、金髪のすごく優しそうな人だった。

 イメージと違う。まぁどの仕事もそうなる。

 スキンヘッドの美容師とか?

 「よろしくお願いします」

 「じゃあまず、何を作りたいんだっけ」

 「許嫁です」

 「許嫁!」

 なんか予想外の回答過ぎたのか笑ってた。

 「……写真とか、ある?」

 「これとか」

 着物姿の、日本刀を携え梅の花の前でポーズを決めてる写真を渡した。

 「……ほんと我々が作り出した妄想のような女の子だ」

 「でしょう」

 「そりゃ作ろうと思うよこんな子」

 「……プロと遜色ない腕で、作り上げたいんです」

 「そうか……」

 夏彦さんは口元を手で隠した。

 「じゃあまず作ってみようか」

 「エッ!」

 「安心して。たぶん君が思うくらい時間かからないから」


 「資料を念入りに用意するものなんだけど、それは大量にあるんだっけ」

 「はい」

 「じゃああの写真のまま作れるね」

 アレ作るのか。

 不安!

 「次に工具を用意する。彫刻刀、ナイフ、ヤスリ、スパチュラ、リューター、超音波カッター、エポパテ、ワセリンとかだね。ここに全部ある」

 そう言うと、どこからか工具箱を取り出して開けた。

 今は全く用途不明な道具が、未知数に詰まっていた。

 「まぁこれらは後で使うとして」

 「あぁまだなんだ」

 「この針金とスカルピーっていう粘土みたいなやつで素体を作る」

 「へー……これから始めるんだ」

 「サイズを決めよう。どれくらい?」

 「普通くらいで」

 「二十センチくらいでいっか」

 「よし。全体を決めたら身体の部分部分のサイズを決めていくよ」

 「えー足●センチ、そんでその他はこんくらいか」

 「じゃあ針金ねじって、そのポーズ取らせてみようか」

 

 十分後。

 「できました」

 「早!」

 なんかよくわからんができた。

 いや自分でもなんでできるのかわからん。

 「……ずごいな……なんかやってたの?」

 「何も」

 「初めてでこれはすごいよ!よし!じゃあこれに肉付けしていこう」

 「よし」


 そして肉付けも時計見たら二十分で終わった。

 「できました」

 「ええ……早すぎるよ……しかもすごい出来だし……」

 「どうしたらいいんですか」

 「部分部分を切って、接合部作って一つ一つをパーツにする」

 「やってみます」

 

 そして一時間。

 「できました」

 「何で?その早さでそのクオリティって、何で?」

 「わかりません……」

 本当に。

 手が勝手に動いたというか、もう自分でもなんでこんな風に形になるのかが知りたい。嫌味じゃなくてマジで。

 いやなんか失礼なことしてる気が。帰りたい。

 「……君はもう、優しく教えてやるような人間じゃないな」

 「……え?」

 「プロのようなものを作りたい、と言ったな」

 「はい……言いました……」

 「もう俺は!同業者に口出すつもりで!ダメ出しするぞ!」

 「えぇ?」

 「作るぞ!君の許嫁の、世界で一番の肖像を!」

 沼だ!

 フィギュア作成沼に、突き落とされた!

 

 

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