第13話 一方その頃 2
「仮面の犬団? 傭兵より劇団の方が向いてるぜ」
北部、ホツマの花組基地である。前線に出向くための戦士が揃い、部隊の再編成が着々と進んでいた。
ユーディたちは仮面をつけて身分を隠し自らの戦力を売り込んだ。
「頼むよ。飯と寝床がありゃあそれでいい。戦も近いんだろう?」
ズドラックはホツマの言葉が堪能である。若い頃に世界を旅したことがあるらしい。
カマをかけると応対した細野軍曹はどこでそれをと聞き返す。
「どこに行ってもピリピリしてるよ。これで気がつくなって方がおかしいさ」
「む、そのことを広めているのではないだろうな」
「まさか。世話になるってのにそんな馬鹿なことはしない。それでどうです、数日だけ様子を見ちゃくれませんかね。稽古をつけてくださいよ」
細野は少し考え込んだ後で、首を横に振る。
「いや、よその基地を当たってくれ。それに傭兵の力なんて借りなくても平気だよ。ここにゃあの酒井中佐もおられる」
「ほ、てえと、花組の鬼酒井ですか」
酒井
酒井はもう七十を超えた老人なのだが、その姿はまだ凛とした二十代に見える。しわもなく、そのくせ口髭だけはあり、それが様になっていた。
「あの人がいればティレルなんて怖かねえんだ。あっちじゃティレル神を信じているみたいだが、俺たちは俺たちの軍神を信じるよ」
細野はそう言って兵舎へと去った。仮面の集団はやむなく進路を東に向け歩みを進める。
夜に差し掛かる前に林道へと入り、野営をした。
「仮面、もうとっていいよ」
周囲の無人を確認し、ユーディは率先して仮面を外した。
「酒井中佐か。厄介だね」
「ええ。それにあいつの口ぶりからすると、士気は高そうですね。それに忠誠心もありそうだし、ちらっと見えましたが、兵士の質もいい。雪が膝まであるってのに、素振りなんぞをしておりましたわ」
「うん。あれだけでも大隊規模だったね。強者とそれに従う忠誠心と練度の高い兵士たち。厄介だ」
地図に印を書き込み、別紙に詳細をまとめる。ズドラックは友人たちのひとりにそれを渡した。ティレル辺境基地へと送るためである。
危険な任務であることもそうだが、まめな彼女は大小問わず情報はすぐに送り届るようにしていた。
「これからどういたしましょうか」
「開戦も今すぐって感じじゃないし、もう少し調べる。きな臭くなってきたらすぐに帰ればいいし」
「ではそのように。副隊長殿は決断が早くて助かりますわ」
ベルティアは自分の意見を発し、全員にしっかりと伝わった後で決を取る。ズドラックからすればもっと強引で構わなかった。
「ベルティア隊長のやり方は、わしらに優しすぎますからな」
軽口は行軍の疲れを一瞬だけ忘れさせてくれる。ユーディたちは騎士としての礼節をかろうじて守ったような悪口を思い思いにしながらぐんぐんと東へと進んだ。
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