第50話 飲めや騒げや


 拝啓、前世の両親へ。


 生きる目標をなくした時、その人間はもう死んだも同義だと考えています。生きる目標をなくすと何をやっても虚無感しか湧かず、やる気が湧きません。まさにその様は廃人といってもいいでしょう。私はそのような状態になるぐらいだったら一思いに自殺してるかもしれません。けど自殺する気力すら湧かないというのがオチでしょうが。



              敬具

              フルール・ヤマト・ジャポニカ




 時間は国王が胃痛で倒れる5時間ほど前に遡る。ガブリエル伯爵邸ではいつメンとアストライヤとの顔合わせを行っていた。


 「では、初めまして。片山瑞希の妹である片山鈴華ことアストライヤ・スズカ・ジャポニカです。今後ともよろしくお願いします。」


 「これはこれはご丁寧にどうも、私はブラン=ガブリエルです。自分でいうのもなんですが、現時点ではこの屋敷で一番偉い人物ですね。まあうちの両親は社交界シーズンにもでもない限りこっちに来ないのでそこまで緊張しなくてもいいと思いますよ。」


 「私はお嬢様に使える冥途の一人であるアメリアです。一応貴女の先輩冥途となりますが私たちは先輩後輩などの上下関係はないので為後で結構です。」


 「私は自己紹介しなくてもいいですね。こっちではカーミンって名乗ってます。」


 各々が自己紹介を終えた後は飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎになっていた。私もなんだかんだでいつもは飲まないお酒を飲んでいた。当方そこまで酒は強くないですからすぐ酔いが回ってしまう。なので私はかなり酔っぱらっていて、酔っ払いがする行動の代名詞として掲げられるダルがらみをしている最中だった。


 「え~?お嬢私のスリーサイズを知りたいんですか~?え~教えちゃおっかな~。」


 「聞いてもないし聞きたくもない。」


 「もう~、じゃあお嬢の教えてよ~。私のも教えますから~」


 「だから興味ないって言ってるでしょ。ダルがらみしてこないで。ねぇアストライヤ。酔っぱらったフルールの対処法教えて。」


 ここでブランは豪胆に酒を飲んでいるアストライヤに助言を求めた。 


 「え?無理です。素直に諦めましょう。お姉ちゃん父譲りで酒すごく弱いんですよ。私は母譲りで酒が強いのですが…とにかくお姉ちゃんはすぐ潰れるので放置でいいと思いますよ。私が面倒見ときますので。ほらお姉ちゃんこっちで飲もう。おいしいお酒いっぱいあるよ」


 「わーい、瑞希おいしいお酒好き。」

 

 酔いが回りすぎるとフルールは幼児退行する。もう潰れる一歩手前だ。


 「何このお姉たん超かわいいんですけど!」


 「まあその…よく似た姉妹だと言っておくわ。」


 ブランは曖昧な笑みを浮かべながら現状に対して言葉を残した。


 「そんな褒めなくてもいいですって」


 「褒めってるってわけではないんだけどね…まあ本人がいいというならよしとしましょう」


 ここで雰囲気をぶち壊すような発言入りまーす。


 「うえぇ、気持ち悪いもう無理。」


 「ちょっとお姉ちゃんここで吐いちゃだめだよ。高そうな絨毯の上だからね。ほらこっちにトイレあるから頑張って」


 「ほんと、よく似た姉妹ですね。少し羨ましいです。」


 この光景を見ているフルールには羨望の眼差しが込められていた。


 「確かにお嬢様は兄であるコーラル様とはあまり似ていないですね。やっぱり兄弟姉妹は似ている方が本人たちはいいのでしょうか?私はお嬢様も知っている通り孤児出身ですから。兄弟の絆とやらにいまいちピンとこないんですよ。まあそれを知るためにフルールをシスター呼ばわりしてるのですが…」


 「そうね。「兄弟そっくりね」なんて言われたかったけど、性格が真反対だからちょっと疎外感を感じるの。それにしてもあの時のアメリアはまるで狂犬みたいだったわ。今じゃこんなに丸くなって。」

 

 「まあ、領都でボロボロになっていた私を救ってくださったお嬢様には感謝してますから。あの時は目に入るものすべてが敵に思っていて明日生きるのも大変でしたから。けど、お嬢様の暖かさを知って、「この人にアメリアを拾ってよかった」って思わせるのが今の生きる目標ですね。」


 「あら、楽しみしてるわ。精々役に立ってね私の右腕さん」


 「仰せのままに、My ledy」


 なお、この後王城より伝令が来て、お城に招集がかかったがその頃には屋敷でピンピンしてたのはアストライヤだけだったという。そこでアストライヤは何とか酔いつぶれているカーミンを叩き起こし、酔い醒ましの魔法をかけ、慌てて王城に向かったという。


 なおカーミンはその気になれば全く酔っぱらわないそうだが、それだと酒飲む意味がないとのことで意図的に酔っぱらってるそうな。







ー----------------side王家ー----------------


 ガブリエル伯爵邸ではどんちゃん騒ぎしている間、王城の会議室では緊急の会議が行われていた。王城は騒然とし、王は胃痛で倒れたが秘伝の胃薬で持ち直した。王家としては今回の来国がこの国に対する侵略の足掛かりになる可能性があるため、慎重な対策が必要だ。



 「では、緊急会議を始める今回の議題は突如として来国した、かの有名なジャポニカ王家の第2皇女、アストライヤ・スズカ・ジャポニカ皇女についてだ。貴君らから今後の展開について何か意見ありますか?」


 「王よ、今回の件について本人からの事情聴取をすべきではないか?」

 

 この場では爵位の低いアンゴラ子爵が意見を講じた。


 「アンゴラ子爵よ。それはかなり難しいのだ。事情聴取となると招集をかけられなければならない。招集を掛けるということはこちらが命令するような形になる。一応この国とジャポニカ帝国は対等な関係になっている。いや対等な関係に持ち込めたと言っていいだろう。かの国と此方では話を聞くうえでは技術力が違いすぎる。ここで不興を買ったらもしかして大本である帝国が出てくる可能性は捨てきれない。国家として常に最悪を想定しなければならないのだ」


 「うむぅ、ここはかなり難しい盤面だな。一歩間違えばお先真っ暗。逆に成功すれば勝ち馬に乗れるか…はぁさっさと息子に王位押し付けたい…」


 「王よ、そのような発言は控えた方がよろしいかと」


 ここで王の忠臣として名高いロマノフ宰相が王を諫めた。


 「んもぉ~だって~今までこの国は150年ぐらいは何も起こることなく平和だったじゃん~なのにわしの代だけこんなことになるなんて…文句言ってないとやってられないよ~」


 「そのような状態でも国を治めるからこそ王なのですよ。ささ、会議を続けましょう。」


 「はぁ~い」

 

 会議室にはやる気の感じられない王の言葉が響いた。この発言を聞いた貴族はみな一堂にこう思った。


 『『『『『この国、この人が王様でよく今まで持ってたな…』』』』』と


 実際そのはず、この国は王の人柄の良さだけで回っているような状態である。気力のなく、どこか助けてあげたくなるような人柄で、全く謀反が起こらなかったのは、ある意味王様に向いているのかもしれない。(平和な世の中だけ)という枕詞はつくが…




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