第42話 S2?1は部分的だったけどまあヨシ!



 「そうして、ちゅうぎのひめは主人と末長く幸せに暮らしましたとさ。おしまい。」


 『ちゅうぎのひめ』の絵本を読み聞かせてから5分ぐらいだろうか、読み聞かせは終わり、年少組の女の子はシスターにまるで向日葵の様な笑みを浮かべた。


 「シスタースィリブロー、えほんよんでくれてありがとう。」


 「ちゃんとありがとうできて偉いね。また絵本を読んで欲しかったらいつでも言ってね」


 スィリブロー笑みを浮かべ、年少組の女の子の頭を撫でた。その様は教会の教典に出てくる慈愛の女神のようだ。


 「うん!じゃあ、わたしはそとであそんでくるね。バイバーイ!シスタースィリブロー!」


 「は〜い、いってらっしゃい」


 

 ここは旧マルメア王国で言うところのガブリエル伯爵領があった位置にある。ガブリエル州の州都の郊外にある孤児院だ。創設は324年前。その時の伯爵令嬢であるブラン=ガブリエル女史が創建した。

 創建した経緯は、当時南側の隣国であった旧カムド帝国との戦争が終わり、戦争で孤児となってしまった子達を育てるため、この孤児院を建てたそうだ。

 ブラン女史は桔梗の花が好きらしく、この孤児院でも栽培、そして販売していた。それがいつの間にか有名になり、この孤児院は別名、桔梗院など呼ばれている。



 子供達が午前中目一杯遊んだ後は昼食の時間だ。


 「はい、みんなで手を合わせて、マルトレーゼ様とブラン様に感謝を。頂きます。」


 お昼ご飯の時間、みんなでマルトレーゼ様と創設者であるブラン女史に祈りを捧げ、ご飯を食べる。そうしてお昼を食べた後は子供達はお昼寝の時間だ。この時間に孤児院で必要な家事類を終わらせる。



 「そう言えばシスタースィリブロー。あの子達に『ちゅうぎのひめ』の絵本が好きだと言ったのはやっぱこの孤児院に勤めてるからなの?」


 スィリブローに質問してきたのは一緒に孤児院の礼拝堂を掃除している同僚のシスターアンナだ。アンナは純粋に気になってスィリブローに質問した。


 「ん〜、それはね隠してるってわけじゃ無いけど、私、ガブリエル伯爵家の末裔なんだ。ほら、髪色変化イヤリングを外せばほら」


 髪色変化イヤリングとはブラン女史のメイドであったカーミンと呼ばれる天才発明家が作った物だ。彼女の発明が時代を3個も4個も進ませたと言われる近代史にとって切っても切っても切り離せない存在だ。


 「へぇ〜、そうなんだ。いいとこのお嬢様だったんだ。なのに何でシスターなんかやってんの?絶対お嬢様の生活の方が暮らしやすいのに。」



 その時、スィリブローは表情を曇らせた。まるで過去の掘り返したくない思い出を掘り返しているような顔だ。


 「…それは…あの…あまり言いたくはないのだけれども…婚約者を亡くしたの…それも結婚してから1ヶ月で…」


 「ッ!ごめん!聞いちゃいけない事聞いちゃった。」


 「ううん、気にしないで。けど、この話はあまり吹聴しないでくれると助かるわ。未だに私はあの人の事を忘れられない。いや、忘れたくないの・・・・・・・

 それで最初の質問に戻るけど、あの絵本は言ってしまえばご先祖様のラブロマンスだから。自分のご先祖様にが出てるって、なんか誇らしくって。あれを読んで育ってきたからどうしても憧れが出ちゃうの」



 「ほえ〜、やっぱこの絵本で育つのはどこの家庭も一緒なんだね。けど、私だったら少し恥ずかしがっちゃうな。」


 「ふふ、最初は私もそうよ。けど読めば読み解くほど、ご先祖様が必死に生きた証だから。

それに大体の人はその名前を後世に残せずに死んでいく。けどご先祖様は色んなとこに名前を残してる。それを誇らずにはいられないわ」


 「そっか。私も歴史とかに名前残せるかなぁ」



 「まだあと人生長いわよ。今からでもいけるわ。さてと、さっさとこの作業を終わらせましょう。子供達が起きてきちゃうわ」


 「かしこまりました。お嬢様」


 「ちょっと、それやめてよね。なんだかむず痒いわ」


 そう言うスィリブローは満更でもない表情を浮かべた。



 「ハハッ、ごめんごめん。」


 「もう。これがアナタの望んだ世界なのかしら(小声)」


 「ん?何か言った?」


 「いいえ。何にも」


 この時アンナは気づかなかった。スィリブローの微笑みの奥底にある感情に。気づけるはずもない。その表情を見抜けるのは世界でただ一人、アノヒトだからだ。




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