第43話 君思ふ 過去の契りを 果たすため






 「はい、お姉ちゃん。お弁当。お母さんが作ったものだから味は保証できるよ」


 「それはそうよ。いつも食べてるもの。」


 お姉ちゃんと二人で屋上でお昼を食べる事にした。他のとこだと人目につく可能性があるから、なるべく人と会わないとこを校内で探した結果、屋上が選ばれた。


 「うん、やっぱり美味しい。まあそれはそうよね。お母さん料理研究家だもんね。」


 「そうね。特にこのだし巻き卵が美味しい。」


 周りの煩わしさを感じる事なく、大好きな姉との時間は私にとって掛け替えの無い物だ。


 「それにしても本当によかったの?お姉ちゃんとじゃなくお友達と一緒に食べた方が楽しいと思うのだけど…」


 「そんなわけないよ。私は『世界かお姉ちゃんか、どっちか選べ。』と言われたら真っ先にお姉ちゃんを選ぶ自信があるからね。…それにクラスの人達は都合良く利用してるだけだからね。気が抜けない人達と喋っても楽しくないから。」



 「私を選んでも、結局世界が終わっちゃったら元も子もないけどね。それと、友達を利用するなんて言っちゃいけません。」


 お姉ちゃんは苦笑を浮かべた後、真剣な顔つきになり、私を咎めた。

 

 「…ごめんなさい。でもこれは必要な事なの。…お姉ちゃんはさ、あんまり言いたくないけど少数派の人間だよね。人間は…いや知性のある生き物は少数派のものを排斥して、自分の社会的地位を確立するの…有名な例だと、金魚は自分が相手より身体的に優位に立てる時、つついたりしていじめるの。これは人間社会にも同じことが言える。これらの現象を私なりに解決しようと考え模索した結果、全員の思考を近似させればこのような事は起こらないと思ったの。

 人間は信用できる人の考えを鵜呑みにすることが多い。だから、私はお姉ちゃんの様な少数派の人達を受けいられる様なグループを作りそれを拡散していく。成功すれば鼠算的に増えていくから、いずれかは…お姉ちゃん達が生きやすい世界を作ろうとしたの。全ては私がお姉ちゃんを“守る”ために。お姉ちゃんが悲しまない様に」


 「なにそれ…私達みたいな人は、誰かに守られなきゃ生きていけないみたいじゃん。」


 お姉ちゃんは怒っていた。怒りを沸々と募らせている。それが何に対する怒りなのかは、感情を読み取るのが得意なこの私でさえ分からない。その理由すら分からない。


 「別に私は守って欲しいなんて言ってない。確かに私は他人から見れば虐め易い人間だろう。けど、それを私は受け入れているの。それが私だし。それに鈴が自分を犠牲にして、友達との関係を悪くなって私を庇おうとするなら。正直言って、怒る。」

 

 「な…なんで?私はお姉ちゃんの為を思って行動してるのに。」


 「確かに私は鈴の姉として胸を張れる様な人間ではない。けどね、友達を作る事も出来ない私を庇う為に、自分の友達を切るなんて、私への当て付けとしか思えないのよ!」


 「違う、そんなんじゃ」

 

 「違くない!本当に大切で守ろうとするのならば、まずは自分を労ってよ!自分を労われない奴に他人の事なんて出来るはずがない!結局鈴は私を守ろうとしている自分に酔っているだけよ!私、いや私達は誰かに守られなきゃ生きていけない存在じゃないわ!」




 「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん。私は知らず知らずのうちにお姉ちゃんを傷つけていたのね…」


 正直ショックだった。他人の考えを容易に推測できる私が初めて対人関係で失敗した例だろう。

 ただ、お姉ちゃんは少し冷静になったのかハッとした表情を浮かべ、私に。


 「…ごめん、八つ当たりだよね。こんな事。…少し頭を冷やしたい。本当に最低な姉だね、私は…」




 そう言ってお姉ちゃんは屋上から出て行った。私は一人屋上に取り残された。途中まで手がつけられたお弁当がその空気感を体現する様に。始めのほのぼのとした空気が嘘の様に消えていった。





 


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  「全く、こんな時間に誰ですか?…まあ密偵ですよね?あのクソ雇い主の為に働くのは誠に遺憾ですが…私の悲願の為です。…私が相手をします」


 え〜、現在大変やばい状況であります。カーミンのレーダーに反応しないレベルの強キャラらしいです。超⭐︎ピ⭐︎ン⭐︎チ!


 金髪メイド(仮称)は両手に浮かばせていた炎を両手剣へと変貌させた。しかも驚くべき点はその剣が金属で出来ている事だ。魔法で炎を擬似的に剣の形にするのはよくある事だが、それは実体のない剣だ。

 金属の実体のある剣になると言うことは、金髪メイド(仮称)のスキル又はとてつもなくヤンベェ剣だと言うわけだ。俗に言う聖剣、魔剣、宝剣等と呼ばれる剣は少なからず特殊能力がある。水を思うがままに操ったり、剣による威圧で相手を戦闘不能にしたり、それは剣によって千差万別だ。今回の現象はそれに当てはまる可能性が高い。

 色は、刃と鍔以外は澄んだ水色。刃紋は真っ直ぐではなく、3回波を打っていて、波形は3回とも同じだ。鍔が羽の形をしており、グリップ方面に伸びている。鍔の真ん中には小さな15個の真紅の宝石が組み込まれている。その形は乙女座の形をしていた。


 「こっちでは初めて剣を抜きましたが、さっさと終わらせましょうか。」


 oh OMG.なにそのかっちょいい剣。ちょっと欲しいわ。てかなに!その剣の見た目もはやラストダンジョンの中ボスが持ってそうな見た目しちゃって。


 「まあまあ、落ち着いて。そのクソ雇い主を嗅ぎに来たのだけれも、何かいい情報知ってる?」


 A、この場で発言できるなんて…あんたは大物や。

 

 「そうですよ。私達がクソ雇い主の情報を掴んでお縄につければ貴女は自由の身ですよ。貴女が達成したい悲願とやらも最大限こちらがバックアップしますので、ここは平和的解決しません?」


 頼む、これで乗ってくれ。


 「別に私は自分の意思でここに来た。貴族の近くにいた方が情報が入って来そうだったから。貴女達が情報を知っているなら話は別だけど。…まっ、そんな美味しい話なんて無いよね。」


 金髪メイド(仮称)はいかにもヤンベェな両手剣を構えて切先を私達の方に向けた。構え方は剣道の構え方と酷似しているが、両手剣の見た目が西洋剣なので、絶妙にコレジャナイ感がする。


 この状態で一言。『えっ?この状態からでも入れる保険ってあるんですか!?』


 「ど、どうでしょうか?少なくとも口に出さないと始まらないと思うのですが。」


 「…ふーん、まあ確かにその通りだね。じゃあ…1941、1216。この数字の羅列がわかる人を探してるんだけど…まあ知らないか」


 この時、私の頭に電流が走ったような気がした

。1941、1216これは大和の就役した年と日付と同じだ。そもそも、この答えがまず合ってるかどうか分からない。この世界でその事を知っているのは私だけだし。もしかすると前の世界からきた人かもしれないから、少し揺さぶりをかけてみよう。


 「残念ながら存じ上げないですね。それより、この職場大丈夫です?昼間に働かせておいて、こんな時間に急に働かせるなんて…労基が泣いていますよ。」


 さあ、どう出る?返答によっては平和的解決も可能…かな?


 「ふーん、”労基“ね。確かに泣いているかもね。確かに私の1日の労働時間は8時間はおろか12時間週7だしね。」


 この話が通じるということはおそらく金髪メイド(仮称)は元日本人だろう。カーミンの悪戯なんかに巻き込まれたのかな?


 「いっそのことうちに来ません?超ホワイトで福利厚生しっかりしてるし、何より暗部だったら情報掴みやすいけど。」


 「引き抜きかしら?確かに私にメリットはあるわね。…んーありよりのありだね。じゃあそうさせて貰おうかしら?」


 引き抜いたぜ!金髪メイド一人ご案なーい。


 「では改めて自己紹介を私はF。今は作戦中だからそう名乗るわ。」


 「私はA。こちらも同様よ。よろしく」


 「へぇ、エイブルベーカーか。最早隠さなくなってきましたね。ではこちらも、アストライヤです。あっちでは片山鈴華と名乗ってました。」


 え?鈴?

  


 拝啓、前世の両親へ。どうやら異世界は私に優しいのか優しくないのかわからないようになっています。これこそ神の悪戯でしょうか?これは1発ぐらい殴っても問題ない気がします。



              敬具

              フルール・ヤマト・ジャポニカ






 

 

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