割とありふれてるただの百合物語
九十九一
1ページ目 物語は唐突に
突然ですがみなさん。
女の子が女の子に告白するということって、現実にあると思いますか?
いきなり何を言っているの? と思うかもしれませんが、まあ聞いてください。
わたしは何というか、昔からその……ちんまい、とか、年下に見える、とか言われるような容姿なんです。
どれくらいちんまいかと言えば、身長が140センチくらいと言えば想像できませんか?
え? できない? じゃあ、そうですね……中学一年生が、背の順で並んだ時、一番前にいる女の子くらい小さいと言えば想像できませんか?
……難しいかもしれませんが、とにかくそれくらいだと思ってください。
そんなわたしなんですけど、実は中学一年生の時を最後に、背が伸びなくなってしまって、今も、ちょ~っとちっちゃいんです。
だから、高校生になってもそれは変わらなくて、学園ではマスコットのような扱いを受けます。
あ、こらそこ、幼女って言わないの!
わたしが小さいんじゃなくて、みんながおっきいんです! わたしはちっちゃくないもんっ! ……あ、こほん。
と、そんな、人よりもちょっとだけちっちゃいわたしですが、今現在……
「あなたのことが好きだ。私と、付き合ってくれないだろうか?」
桜の雨と思えるくらいに、桜の花びらがひらひらと舞い散る桜並木で、美少女に告白されている最中なんです。
…………ど、どどどどどーしてこうなったの!
この発端を語るには、結構時間を遡らなければいけません。
具体的に言うと、さっきの部分が二年生に進級した初日で、そこから遡ると約一年。正確な数字にすると、十一ヶ月前になります。
それはともかくとして、まずは自己紹介が先だよね!
みなさま初めまして! わたしは『百合花学園』という共学の学園に通う二年生、
あ、先に言っておきますけど、わたしはノエルという名前ですが、間違ってもキラキラネーム的なものじゃないですよ? これはママが付けてくれた名前です。だって、外国の人ですからね! わたしのママ!
ノルウェーの人なんですよ! すごい? レアですよね!
だから、わたしは所謂ハーフというものなんです!
どやぁ。
おっとっと、今はそういうボケをする場じゃなかったですね。ごめんなさい。
わたしのパパは海外でお仕事をすることが多い職業で、ママとはノルウェーで仕事をした時に出会ったそう。
二人は意気投合して、恋人になって、そして結婚。
そうして生まれたのがわたし、というわけです。
でも、ノエルって言う名前は、どちらかというとフランスとかに多そうなんですけど……まあ、深いことは気にしちゃダメだよね!
で、そんなわたしなんですが、今は一人暮らし中なんです。パパとママは今ノルウェーにいるので……。
え? そういう情報はいらない? 早く続きを話してほしい?
いえいえ、実はこれが重要になってくるんです。
わたしは一人暮らしをしているのですが、パパとママはわたしが生活に困らないほどの金額を仕送りとして振り込んでくれます。
ただ、わたしとしてもお年頃というか、できればパパとママに負担をかけたくないと思っちゃうわけです。
なので、学園に入学してからアルバイトをしようと思っていました。
最初こそ、自分にもできそうなお仕事にしよう!
とか思っていたんだけど……悲しいかな、わたしの容姿が原因で、どこも雇ってはくれませんでした……。
うぅ、わたしのどこがいけないのっ!
ただちょっと、人よりちっちゃいだけだもん!
140センチくらいしかないけど、それでも高校生だもん!
……あ、ごめんなさい、今までのことがフラッシュバックして、ちょっと悲しくなっちゃった……。
えーっと、あれだね。あの、わたしのお話。
アルバイトを探していたけど、一向に見つからなくて困っていた矢先に、わたしの中学校の時からのお友達、優香ちゃんがね、
「いいアルバイトあるよー」
って言って、アルバイトを紹介してくれたの!
もちろん飛びついたけど、ハッとなって、ちっちゃいわたしでも大丈夫? って聞いたら、
「可愛ければ大丈夫だよ」
って言ってくれたの。
わたし自身、可愛いかはわからないけど、それでも一縷の望みと思いながら面接を受けにお店まで行くと……
『『『おかえりなさいませ、ご主人様!』』』
そこはメイド喫茶でした。
思わずぽかーんとしちゃいました。
連れてこられたのがまさか、メイド喫茶だとは思わなかったので……。
「あ、ゆうかりん、こっちの子が例の?」
「そうそう。あたしの友達のノエルだよ。可愛いでしょ?」
「あ、えと、の、ノエルです! 優香ちゃんのお友達でしゅっ! ……あぅ」
「「「か、可愛い……!」」」
肝心の挨拶で噛んだら、なぜかほんわかされました。
むむむ、これはまた、子供に思われちゃってるのでは?
そう思いました、当然。
でも、
「あ、飴ちゃん食べる?」
「食べるー!」
「ジュース飲む?」
「飲むー!」
「ケーキ食べる?」
「食べるー!」
こんな風に甘やかされるのなら得かなって。
お菓子とジュースには勝てないっ……!
美味しいんだもん。
まあ、それはともかくとして、散々甘やかされた後、わたしはそのままお店の奥に通され、面接へ。
あ、一応その時の面接風景を流しますね。
「こんにちは~。あなたが、優香ちゃんが話していた娘ね~? わたしはここのお店の店長をしています、ミーナって言いま~す。よろしくね~」
すると、なんだかぽや~っとした人が現れた。
「あの、えと、外国の人、なんですか?」
「秘密よ~」
見た目どう見ても日本人なのに、なぜかミーナと名乗ったのが気になったので、外国人かどうか尋ねたら、秘密と返された。
あとから聞いた話だと、優香ちゃん曰く、色々と情報不詳の人なんだとか。
謎です。
「じゃあ、面接をしますよ~。志望動機は何でしょうか~?」
「え、えっと、今一人暮らしをしてて、ぱ――じゃなかった。えと、お父さんとお母さんが仕送りをしてくれているんですけど、あんまり負担をかけたくなくて……。だから、わたしもアルバイトをしてちょっとでもお金を稼ぎたいと思ったからです!」
「ふむふむ……。じゃあ、お仕事内容についてなんだけどね、見ての通りこのお店はメイド喫茶です。だから、ちょっとだけ恥ずかしいセリフを言うこともあります。それは大丈夫~?」
「が、がんばりますっ……!」
初めてのアルバイトでメイド喫茶はハードル高いけど、それでも頑張らないと……!
「やる気に満ちてますね~。それで、炉莉宮さんでしたっけ~?」
「そ、そーです!」
「優香ちゃんが連れて来たみたいだけど、メイド喫茶だとは思ってなかったですよね~?」
「は、はい、思ってなかったです。なので、さっきああ言いましたけど、ちょっとだけ困惑しちゃってたり……」
意気込んではみたものの、やっぱりメイド喫茶というのは恥ずかしいと思ってしまう。
だ、だって、『お帰りなさいませ、ご主人様!』って言わなきゃいけないんだもんっ!
「そうですよね~。んー、まあ、やりたくなければ別に無理しなくてもいいですよ~?」
「い、いえ! わたし、アルバイトがしたいんですっ! だ、だから、どんな恥ずかしいことだってやってみせます!」
いくら恥ずかしくても、お金を稼がないと!
そう思って、九十度のお辞儀と共に、お願いしたら。
「つまり、このお店で働きたい、そういうことですね~?」
「そーです!」
「……炉莉宮さん可愛いし、銀髪蒼眼の女の子メイドって言うのも受けそうですしね~、じゃあ採用で~す!」
採用を貰えました!
あ、補足ですが、わたしはお母さんの血の方が濃く出たのか、銀髪蒼眼です! ちなみに、髪の毛は太腿の中ほどまで伸ばしてます!
「い、いいんですかっ?」
「お~け~お~け~ですよ~!」
「ありがとうございますっ!」
「じゃあ、炉莉宮さんは来週の月曜日から入ってくださいね~」
「来週からですか? わたし、今日とか明日からでも全然大丈夫ですよ!」
「やる気があるようで何よりなんだけど~……実は、炉莉宮さんくらいの体格の制服がなくて~……。なので、オーダーメイドになっちゃうんです~」
「……」
そして、アルバイトができると思い、高いテンションのわたしでしたが、ミーナさんの申し訳なさそうにしながら放った一言で、一気にマイナスまで落ち込んだ。
……ぐすん。
「あ、泣かないで~! た、たしかに炉莉宮さんが着られるメイド服はないけど、これも可愛い炉莉宮さんをさらに可愛く見せるためだから~!」
「…………うぅ」
「え、えと、泣かないで~……? お、お菓子、食べますか~?」
「……食べます」
結局、お菓子で慰められました。
と、このような経緯で、わたしはメイド喫茶『アスセーナ』にてアルバイトとして働くこととなりました。
最初こそ、服がなくて落ち込んだものの、前向きなわたしはすぐに立ち直り、アルバイト頑張ろう! と思いながら、お仕事が始まる日を待ちました。
そうして、遂にわたしの初出勤の日。
最初はどんな仕事をするのかなー、と不安と期待を抱きつつ、優夏ちゃんと一緒にお店に行くと……
「それじゃあ、ビラ配りから始めてね~」
と言われました。
……どうやら、わたしの初仕事はビラ配りだったようです。
なんだか肩透かしを食らったような気分になったけど、すぐに頭を切り替えて、チラシを受け取り、お店付近でビラ配りをしました。
とはいえ、やっぱりこう、なかなかもらってもらえないものです。
「よ、よろしければ入ってみてください!」
こんな風に、道行く人に声をかけてみるんだけど、なかなかチラシを受け取ってくれない。
最初の内は、まだ大丈夫……まだ大丈夫……!
そう自分に言い聞かせながら、お仕事をしていたんだけど……
「だ、誰も受け取ってくれないよぉ……」
受け取ってくれる人がなかなか現れず、気分が落ち込み始めていました。
これで誰か一人でも受け取ってくれていたのなら、こうなることもなかったのかもしれないけど、誰も受け取ってくれなかったから、わたしは悲しくなった。
もちろん、これで辞めたいとは思いませんでした。
でも、受け取ってもらえないというのは、結構心に来るもので、わたしは初日からちょっと泣きそうでした。
それでもめげずに、せっせせっせとチラシ配りを頑張っていると、
「――っ!」
わたしの近くで、不意に息を吞むような音が聞こえてきました。
一体何だろうと思って、音がした方に目を向けると……そこには、凛とした雰囲気を持った女の人がいました。
その人は、なぜかわたしを見ながら硬直していたんです。
どうしたのかはわからないけど、これはもしかすると、受け取ってもらえるチャンスなのでは? そう考えたわたしは、
「あ、あのっ、よかったら一枚どうですかっ!?」
全力のスマイルを浮かべながら、チラシを一枚渡してみた。
すると、
「……こ、これは?」
その女性は、おずおずとチラシを受け取ってくれて、チラシを指差しながらそう尋ねて来た。
「ここは、メイド喫茶『アスセーナ』って言います! すぐそこがお店なんですよ!」
受け取ってくれたことと、どういう場所なのかを尋ねてくれたことに嬉しくなって、わたしは嬉々として説明を始めた。
「そ、そう。……あなたも、そこの従業員なのかな?」
「はいっ! 今日からの勤務なんです!」
「もしかして、初めてだからチラシ配りをしていたのか?」
「そーですよ!」
「ふ、ふーん…………可愛い……」
「んゅ? 何か言いましたか?」
「あ、い、いや、気にしないで。……ち、ちなみに、なんだが、ここってこう、指名みたいなことってできるのだろうか?」
「指名ですか? んーと…………あ、できるみたいですよっ!」
女性に尋ねられて、制服と一緒に渡された手帳を見ると、そこには指名あり! の文字があった。
「ほんとかっ?」
あれれ? この人、どうしてそんなに食い付くんだろう?
んー……もしかして、メイドさんが好きなのかな?
まあ、そういう人がいても不思議じゃないよね!
ともあれ、気にせず説明しないと!
「はいっ! えっとですね、支給されたこの手帳によると、指名した相手と色々できるみたいです! 例えば、お菓子の食べさせ合いっことか」
「た、食べさせ合い……!」
「他には、じゃんけんゲームをして、勝った方は相手に言わせてみたいことを一つだけお願いできるとか! あ、もちろん、えっちなことはだめですよ!」
「言わせてみたいこと……!?」
「それ以外だとー……あ、甘々コースっていうのがあります!」
「ち、ちなみに、それはどういうコースなの……?」
「んっと……恋人のようなことができるコースです!」
「恋人のようなっ……!?」
「はいっ。内容は、お料理をあーんしてもらったり、お料理を作ってもらったりと言った感じですね!」
「あーんっ……!?」
「ど、どうでしょうかっ!」
なんだか食い付きのいい反応を示す女の人に、様々な期待を込めて尋ねると、スッと表情を引き締め、
「――行きます。そして、あなたを指名したいのだが」
ほとんどノータイムでそう言いました。
「んにゃ!? わ、わたしですか!?」
まさかわたしを指名されるとは思っていなかったので、思わず猫の鳴き声みたいな声が漏れてしまった。
は、恥ずかしい……。
「はい、あなたです。ダメ、だろうか?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね?」
び、びっくりしたぁ……。
まさか、わたしを指名してくるなんて……!
と、とにかく電話電話!
「あ、もしもし、ニーナさんですか?」
『そうよ~。何かアクシデントがあったんですか~?』
「じ、実は、ビラ配りをしていたら、指名を受けちゃったんですけど、この場合どーすればいいんでしょうか……? わたし、今日入ったばかりなので……」
『あらあら、そんなことになっていたんですね~。ん~……でも、そうですね~……とりあえず、今日はビラ配りをしてもらう予定だったんですよね~』
「あ、そーなんですね」
『だから、今日はちょっと難しいわ~。なので、できれば来週に、って伝えてもらえる~?』
「わかりました! そう伝えますね!」
『そのお客様には一応謝っていただけると……』
「もちろんですっ!」
『ありがとうございます。じゃあ、お願いしますね~』
通話を終えて、スマホをポケットにしまうと、女性に向き直る。
見れば、女の人はかなり期待している様子なんだけど……なんだか申し訳ないなぁ……。
「えっとですね、わたしは今日入ったばかりの新人なので、難しいみたいなんです」
「そう、なのか……」
わわっ! すっごく落ち込んでる!?
「あ、だ、大丈夫です! 今日がダメと言うだけであって、店長さんが言うには、来週の月曜日からなら大丈夫だそうですから!」
「なら、その日にまた来るとしよう」
「はいっ、お待ちしていますね!」
「あぁ。では、私はこの辺りで」
そう言って、女の人は去って行きました。
その背中は心なしか、嬉しそうでした。
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