離婚という名の契約破棄
第13話 それって浮気じゃないですか!
「あれ、先輩、お弁当なんて珍しいですね」
ランチタイムの休憩室。後輩の
「まあね」
軽く返す私に、お弁当の中を見た渚が感嘆の声をあげる。
「うわぁ、すごい凝ってますね!」
それは料理担当の瀬凪が腕によりをかけまくって作ってくれたお弁当だった。
「作るの大変だったんじゃないですか?」
「だろうね。まあ、作ったのは私じゃないけど」
そう言うと、渚は不思議そうに首を傾げる。
「どういうことですか?」
「これは夫が作ってくれたの」
「は!? え!? どういうことですか!?」
そこでまだ渚には結婚したことを伝えていなかったことを思い出した。
「あ、実はこの間結婚したんだよね」
「ちょ、ま、マジすか!? え、ちょっと詳しく聞かせてくださいよ!」
目を輝かせる渚に、私は仕方なくことのあらましを伝えることにした。もちろん、瀬凪と口裏を合わせた外向きの内容を、だ。
* * *
「あの、先輩」
黙って話を聞いていた渚が、そわそわしながら何か言いたそうにこっちを見ている。
「何?」
どんな質問が来ても答えられるように、想定問答集を思い出しながら応じたが、渚の言葉は全く予期せぬものだった。
「西野先輩とはどうなってるんです?」
「へ?」
西野先輩とは。
「何でここで翔が出てくるの?」
質問の意図がわからず聞き返すと、渚は信じられないものでも見るかのような目でこちらを見返す。
「え、だって、お二人で飲みに行ったりドライブに行ったり。ついこの前も遊園地に行ってませんでした?」
「そうだけど?」
だからどうしたという態度で答えると、渚は焦り始める。
「『そうだけど?』じゃ、ないですよ! それってデートじゃないですか!? 私てっきり先輩と西野先輩は付き合ってると思ってたのに! ってか、新婚早々浮気じゃないですか!」
声を荒げる渚になんと答えるか思案する。まさか契約でお互い外に恋人を作ってもいいことになっていますと言うわけにもいかない。まあ、それ以前に翔とは恋人というわけではないが。
「えーっとね。日本の法律上、浮気とは配偶者以外と不貞行為があった場合のことをさすんだよ」
努めて穏やかにそう言うも、渚はおさまらない。
「何言ってるんですか! なんか、話を聞いてると先輩たちってことごとく男女逆転してますよね!」
「え、男女逆転?」
突然何の話が始まったのかと聞き返すと、渚はテンション高めにまくし立てる。
「プロポーズとか苗字とかもそうですけど、なんか、甲斐甲斐しく世話を焼く妻に家庭を顧みない夫、の逆バージョン?」
「いや、別に家庭を顧みてないわけでは」
最早何から反論すればいいのかも分からなかったが、ヒートアップする渚をなだめようと短く答えるも、私の言葉は聞こえていないようだ。
「もちろん今どき男がどうとか女がどうとか、古臭いって分かってますけど! それにしたって、なんか夫さんの方ばっかり先輩のこと好き、みたいな? だいたい、先輩はどうか分かりませんが、西野先輩は絶対先輩に気がありますって!」
「ちょ、ちょっとさっきから声大きい」
「さっきから何話してんの?」
「西野先輩!?」
渚が驚いて立ち上がった瞬間、ひっくり返った椅子がけたたましい音を立てた。
噂をすれば影、というのは本当らしい。
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