第4話 新しい結婚の形
「実は結婚することになった」
中学生時代からの無二の親友、
「え、マジで!?」
その告白には驚いた。なぜなら楓は私とタイプは違えど同じ穴の狢だと思っていたからだ。つまり、結婚願望がない人種。
「それがマジなんだよねぇ」
もちろん祝福の気持ちはあれど、むしろなぜ楓が結婚という道を選んたのかが気になった。
「そっか、どんな人なの?」
まずは軽いジャブとばかりに私がそう尋ねると、楓は少し逡巡する素振りを見せたあと、コホンと咳払いをした。
「これはあんたにだけ話すんだけどさ」
「何?」
その前置きに若干警戒しつつも私は先を促す。
「実は、友情結婚何だよね」
「友情結婚?」
聞いたことのない単語に意味がわからず問い返すも、楓は淡々としていた。
「つまり、恋愛感情のない結婚ってこと」
「えっと……。ってことはお互い愛し合ってないってこと?」
私が戸惑いながら質問すると、楓は静かに頷く。
「じゃあなんで結婚すんの?」
楓が結婚するというだけでも驚きなのに、友情結婚などという得体の知れないものを選んだ理由が知りたかった。
すると楓はビールジョッキを豪快にあおると、ポツポツと語りだす。
「ま、理由は色々あるよ? 世間体とか? 老後のこととか? まあでも一番は親のこと、かな」
その瞬間、母のことが頭に浮かんだけれど、無理矢理頭の中から追い出した。長い付き合いだから、楓も当然私の母のことを知っている。だからこそ少し言いにくそうではあったけれど、楓は言葉を続けた。
「こういっちゃ何だけど、あんたのお母さんに比べればうちの親なんて可愛いものかもしれないけどさ。でも、何だろうな。やっぱりごちゃごちゃ言ってきて、それは面倒で。あと、ちょっとは『安心させたい』みたいな気持ちもあるかな」
『親を安心させたい』という気持ちは正直理解できない。そもそも結婚が安心につながる保証なんてどこにもないのに、それを理由に結婚を強要されるのは我慢ならない。それでも、『ごちゃごちゃ言うやつを黙らせたい』という気持ちの方は理解できた。
「……それで何で友情結婚なの?」
とはいえそこにはあまり触れず、私は先を促した。
「私には恋愛の結婚は無理だから。だったらお互いそこは折り込み済みの結婚がいいって思ったんだよ」
それは答えになっているようでなっていない。けれども、なんとなく触れてはいけないことのような気がした。
「ふーん……。契約結婚みたいなもん?」
知っている言葉の中で近そうなものをあげると、楓はしばし考え込むような素振りを見せた後、肯定する。
「うん、確かにそうだね。実際、私達も結婚誓約書を作ったから。まあ、絶対にお互いのことを好きにならないっていうのが違いといえば違いかな? うーん、でも、契約結婚でもそのパターンはあり得るのかな?」
そんなことを聞かれたところで私にはわからないけれど、愛という不確かなものを拠り所にするよりは、理性的な契約によって割り切った関係でいる方が、私にはしっくりくるような気がした。
そう、これが二つ目の私に〝結婚〟を意識させた出来事である。
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