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「出来たよ」
達成感に満ちたような表情を浮かべながら有紗は桃太郎へ袋を見せた。
「こっちがお馴染みのレシピで」
そして白っぽい袋をまずは差し出した。
「こっちが私のオリジナル」
続いてピンクがかった袋を差し出した。
「一時的だけど、こう力が溢れてくるみたいな? 是非試してみて」
「儂は実験体か」
「まぁちょっとだけ」
少し意地悪な顔をし、顔の前で人差し指と親指をそのちょっと分だけ隙間を空けて見せた。
「あの、これは何なんでしょうか?」
そんな二人のやり取りを後ろで見ていた有真は申し訳なさそうに袋の中身を尋ねた。
「これは家に代々伝わる吉備団子です」
桃太郎の持つ袋を手で指しながら有紗が答えた。
「こいつは特殊なレシピで作られていてな。食べれば、簡単に言えば細胞が活性化する」
「つまり若返っちゃったりするんですよねぇ」
自分の頬を両手で挟みながら有紗は羨ましそうに少し顔を左右に揺らした。
「もちろんそれが目的じゃないですけど。それに材料の一つが余りにも希少なので量産はもちろん殆ど作れないですけどね」
そんな彼女の前で桃太郎は一つ手に取ると口に入れた。口内に広がるのは他の団子を寄せ付けない程の絶品――ではなく至って普通の団子。
「ほらこれを一粒食べればあら不思議……」
だが吉備団子を食べたはずの桃太郎に何の変化もない。
「あれ? もしかして失敗しちゃた?」
一瞬にして不安気な表情へと変わる有紗。
そんな彼女の前で桃太郎は腕を回してみたり軽く振ってみたりと色々試していた。
「いや、感覚は昔に戻ってる」
「でも見た目は渋オジのままだよ?」
「動ければそれでいい」
「ちゃんとレシピ通りやったけどなぁ」
だが依然と不満気な有紗は一人首を傾げた。
「とりあえず急に悪かったな」
そう言って肩をぽんと叩く桃太郎。
「いつでも大歓迎だって。でもそれが必要って事は……」
全てを察したのか、有紗は笑顔から笑みを残しつつも彼を心配する表情へと変わった。
「そうだな。だが、過去の脅威は過去の人間がそのままあの世に持っていかないとな」
「でも――気を付けてね」
今までで一番小さな声の有紗はそのまま桃太郎に抱き着いた。そんな彼にとって孫のような存在の彼女を大きな両腕は優しく抱き締め返す。
「あぁ。爺さんと婆さんの代わりに玄孫を見ないといけないからな。ちょっと自慢話を作って来るだけだ」
「二つも必要?」
「一つじゃ飽きられるかもしれんからな」
最後はお互いに笑みを浮かべると二人は離れた。
「本当に気を付けてね」
「また食べに来る」
「うん。待ってるから」
「それじゃあな」
有紗と哲也の二人と別れを交わした桃太郎と有真は蓬莱亭を後にした。
「次はどちらへ?」
「マイム村に行こう」
「分かりました」
「さて。同窓会といくか」
そして動き出した車はマイム村へと向かい始めた。
少し距離があるだけでなく、マイム村までの道は途中から舗装されておらず車は小躍り状態。辺りは段々と木々が目立ち始め、いつしか森の中を走行していた。
「すみません。直接訪れた事はないのですが、この辺りで大丈夫ですよね?」
「もう少し先に行った所だな」
記憶にあるマイム村へと向け走っているはずっだったが、余りにも何もない景色に少し不安を感じたのかもしれないが車は正確な道を進んでいた。
その証拠に更に奥へ進むと簡素な木塀と口を閉ざした門が見えて来た。門の前には簡単に武装した二人の猿人族が門番として立っている。その内の一人が車に対し止まる様に手を上げて見せた。
門前で車が停車すると桃太郎は窓を開け顔を出しては何かを訊かれる前に用件を口にした。
「
その名前に二人は何やら独自の言語でやり取りをしたかと思うと、門を開き中へ招き入れてくれた。
中へ入るとそこには小規模なものの森と一体化した住居が幾つも並んでいた。
「文献で読んだ事はありますが、実際に見るのは初めてです」
そう言ってゆっくりと前へ進みながら有真はフロントガラスを覗き込み上を見上げていた。
猿人族と人猿族はその殆どが森で村を築き生活している。一番の特徴としては、住居を含む村が木の上に作られているという点。地上に門や木塀はあるもののツリーハウス同士を橋で繋げ一つの村として暮らしているのだ。その為、ツリーハウス専門の建築家として働く者もおり特定ではあるがその分野で彼らの右に出る種族はいない。
「次は上だ」
言葉を口にしながら先に車を降りた桃太郎と後に続く有真。桃太郎は慣れた様子で傍の木へ行くと、そこに作られた足場を伝い上へ登り始めた。足場と言っても木にボルダリングのホールドのような突起物をくっつけただけでほぼ木登り。
しかし桃太郎は疑問を抱く事なくすんなり上へと登った。もちろん有真も苦戦などするはずも無く桃太郎に続き上へ。
「ようこそ。マイム村へ」
上り切り村への第一歩を踏み出した二人を聞き慣れた言葉で出迎えたのは猿人族の若者。茶褐色のふわふわとした毛に覆われ、背後で動く尻尾、双眸は黒い白目と綺麗な琥珀色。鮮やかな部族衣装を身に纏い、雰囲気も含め礼儀正しそうな青年だった。
「真獅羅様はこちらです」
そういって彼は二人を先導しながら村を歩き始める。村の中には案内の青年と同じ猿人族と人間族に類似しているが双眸と尻尾があるという程度の人猿族の二種族が混じり合っていた。だがそれはここが特別と言うより猿人族と人猿族は兄弟のようなもので大差はない事が大きいのかもしれない。
そしてあまり訪問者は来ないのか村の人々の物珍しそうな視線が桃太郎と有真へと集中していた。
「どうぞ。この中にいらっしゃいます」
村の最奥。他のより少しばかり豪華な作りの家へ辿り着くと若者は自分はここまでとドアの前で立ち止まった。
そして桃太郎はドアを開けると中へ。
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