第103話 フラグ回収


 二体のゴブリンが進化した翌日。

 更にもう一体のゴブリンがウォリアークラスに進化した。

 しかしそれから十日程が経過したが、残りの二体のゴブリンに進化の兆しはない。


 俺はこの十日程の間に、最初にウォリアークラスに進化したゴブリンで契約魔法のテストを続けている。

 ベースの部分は既に出来てるとは思うんだが、まだまだ色々調整したり機能を追加したりと試行錯誤中だ。



「もう森を迂回し終わったし、次の町もそろそろですかね?」


「ああ、このペースだと後三日といった所か」


「町って聞いても、ゴブリンの町だとテンションさっぱり上がんないわね」


「そうですね。美味しいお店とかもなさそうですし……」


 迂闊にゴブリンの町の食堂なんかに行ったら、ヒューマンステーキとか出てきそうで怖いな。

 てかそもそもゴブリンってまともな料理なんか作るのか?


 俺たちは今、草原地帯を移動中だ。

 ゴブリン達には道を作るという考えがないのか、舗装したような道は一切ない。

 東には迂回してきた森があって、今では少し遠くに見える。



「あ……」


「どうも怪しいと思ってましたけど降って来ちゃいましたねえ」


 ポツッポツッと振り出した雨は、次第に本降りになっていく。

 ちなみに傘なんてもんはない。

 ノスピネル王国を出る前に色々雑貨も買いあさってはいたんだけど、そもそも王国の連中で傘をさす奴ってのが皆無だった。


 これまで召喚されてきた日本人連中は、その事について何も言わなかったんだろうか?

 日本人発祥と思われるものが、幾つか広まってはいたんだけどな。

 残念ながら、その中に傘は含まれていなかった。


「しゃあない、今日は移動をここで切り上げるか」


 俺は魔法でちょっとした室内運動場位の建物を作る。

 樹里は最初めちゃくちゃ驚いていたが、石ではなく土で出来ているので、別にそこまで魔力を多く使うもんでもない。


 建物を構成する土がどこから来てるのかは俺にもよく分からんが、魔力を込めると打ち消すことが出来る。

 だが建物を建てた俺以外の奴が打ち消そうとすると、必要以上に魔力を込めないと打ち消す事が出来ない。


 土壁とはいえ強度もそれなりにあるので、片手間で作れる割には意外と便利だ。

 ただし、当然ながら内部は暗いので、天井付近に三つほど光の魔法を付与しておく。



「大地のソレって光魔法ってより蛍光灯魔法って感じよね」


「いや、どっちかっていうとLED魔法じゃないッスかね?」


「そういえば、樹里の使う光魔法とやらは大体光球だったし、この世界の魔法でも球状だったな」


 ちなみに俺のは天井の一部がペカーッと光っている感じだ。

 この方が満遍なく照らせて良いような気がするんだが……。


「ねー大地。乾燥の魔法もお願い~」


「私にもお願いできますか?」


「あいよ」


 俺は全員に乾燥の魔法を掛けていく。

 ちなみに俺は魔法全てに名称を付けていないので、その都度呼び方が変わる事もある。



「ふうぅ。ほんとすぐ乾くわね。一家に一台、大地が欲しくなるわ」


「それはずっと俺に傍にいて欲しいって事か?」


「ば、バカじゃないの!? そそそーゆーんじゃないわよ!」


 揶揄ってやると、樹里が顔を真っ赤にして言い返してくる。

 その反応が楽しくて更に構いたくなるが、斜め四十五度後方からギリギリとした視線を感じるのでここでやめておく。


「ところで大地さんは、攻撃用の魔法はないんッスか?」


「ん、何を言ってるんだ根本。戦闘中にちょこちょこ使っているだろう」


「ああ、いや、えっとそういうんじゃなくて……。その、こういうどでかい建物を作ったり、笹井さんみたいな派手な攻撃魔法を使ったりってのないですよね?」


 んー? 言われてみるとそうか。


「あー……、まあ俺は必要に迫られてから魔法を作ってるからな。それにこれまでは村の中での戦いが多かったから、派手な魔法は使えなかったんだよ」


「なるほどぉ。今度大地さんのド派手な攻撃魔法も見てみたいッス」


「おう、機会があったらな。それよりも移動を中断したんだから、その分訓練や勉強を前倒しにしよう」


「そッスね。室内でジッとしてても暇ですし」


 一応暇つぶしの遊び道具は幾つか王国で仕入れている。

 中にはある意味定番とも言えるリバーシなんかもあって、これは過去に召喚された誰かが広めたものらしい。

 最も王都以外ではほとんど見かけなかったけど。



「まずはプラーナの特訓からだ。俺はその間ちょっと作業をしておく」


 プラーナについては、まず開門をしないと話にならない。

 感覚を一番掴んでいる沙織でもまだ開門は成功していないので、まあ長い目でじっくり焦らずやるのが肝要だ。


 俺は三人の邪魔にならないよう少し離れた場所に移動して、そこでアイテムボックスを開く。

 取り出したのはゴブリンどもから奪い取った金属製品。


 大抵は粗悪な青銅や鉄なのだが、これらを魔法で加熱してどろどろに溶かしてから、不純物を取り除く。

 取り除いた金属はインゴット状に成型して固める。

 なお、ちらほらと硬貨っぽいものもあったので、それだけは別途保存しておく。

 余り貨幣経済が発展しているようには見えないが、他の魔族国では使えるかもしれない。


 それで精練なんだが、最初は溶かさずに金属の状態のまま不純物を取り除こうとしたんだが、どうも上手くいかなかった。

 魔法ならそれくらい出来てもいいと思うんだが、特別なやり方とかあるんかな。


 魔法で精錬したインゴットの使い道は今のところ特にないんだが、いずれどこかで役に立つ時も来るだろう。

 ゲームなんかでも、俺はこういう地味な備蓄作業とか素材採取とか経験値溜めとかが好きなんだ。



 しばしの間、俺は黙々と精錬を続けていく。

 その間中、ゴブリンどもが興味深そうにジッと俺の作業を見ている。

 そんなずっと見続けて飽きねえのかな。


 精錬がひと段落したら、今度は契約魔法の調整をしていく。

 そんなこんなで、その日は一日室内で過ごす事になった。






 そして次の日。


 昨日の雨は今日の早朝頃には止んでいたようで、空には白い雲の隙間から太陽が覗いている。

 まだどこか湿気を感じさせる空気だが、晴れてるだけ昨日よりはマシだろう。


「今日は昨日ほとんど移動出来なかったから、移動の時間を多めにとるぞ」


「はーーい」


 元気よく返事する樹里。

 足取りもどこか軽く、先頭を切って歩いている。


「笹井さん、元気ッスね」


 後ろの方を歩いていた俺に合わせ、根本が近づいてきた。


「それだけが取り柄みたいなもんだからな」


 樹里の少し後ろを歩く沙織は、足元がぬかるんでいるのを気にしているようで、余り表情は優れていない。

 所々に水たまりも出来ているので、歩く時も気を使わないとブーツごとドボンと突っ込んでしまう。

 しかし、樹里は余りその事を気にしていない様子で、楽しそうに歩いている。


「なんか長靴履いた子供みたいッスね」


「異論はないが、本人に言ったら怒りそうだな」


「そこはナイショにしといてくださいよ」


 なんて事を根本と話していたら、沙織まで歩調を緩めて俺たちの所までやって来た。


「大地さん……」


「どうした?」


「あれを」


 沙織が指差した方角には、何か黒い点のようなものが見える。

 それと今気づいたんだが、どこか沙織は緊張しているようだ。

 表情が読みにくいので分かり辛いが、声の感じが少しいつもより硬い気がする。


「どれどれ……」


 まるでズーム操作をするように視力を調整してやると、その黒い点の正体が判明した。


「喜べ、根本。お前が昨日立てたフラグが回収できそうだぞ」


「え? フラグって何かありましたっけ?」


 なんだ、忘れていたのか。

 なら俺と沙織が見たものを教えてやろう。


「昨日言ってただろ? 俺の派手な魔法が見たいって。ほれ、向こうに見えるあの小さな黒い点。あれ、ゴブリンの大群だぞ」


「…………え"っ?」


 素っ頓狂な声を出す根本。

 さあて、どんな魔法を使おうかな!


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