第3話 ヴェフェルンとシュレイカー
「クマブタの、馬鹿ヤロオオオーーー!!」
夢の時間停止でウハウハプレイへの道が閉ざされ自暴自棄になった俺は、手にしていた折れたステッキを力任せにぶん投げる。
火星人によって強化された俺のスローイング力は、劇的アフターだった。
一瞬で米粒ほどの大きさにまでなって遠くへ飛んでいく。
絶望に打ちひしがれる俺。
道端で体育座りをして、人生の儚さについてあれこれ考えていると、通りがかった野良猫に横っ腹の部分をポンとされる。
……うん、そうだな。
時間操作は無理でも、魔法の力は手に入ったんだ。
それに火星人の改造で肉体も強化されている。
俺の未来はバラ色かーこりゃあ?
なんて事を考えつつ、先ほどの事は一切忘れてとりあえず家に帰る事にした。
今更大学に行っても間に合わないだろうし、とにかくこの短時間の間に起こった事を少し落ち着いた場所で整理したい。
……そう思っていたんだよ。
だというのに、俺が家に帰ろうと歩きだしてから一分もしないうちに、次のトラブルがウェルカムだよ!
ソイツは、突然電信柱の近くに現れたように見えた。
今では俺も魔力というものがちょっと掴めてきていたんだが、その場所で魔力の揺らぎのようなものは感じられなかった。
ホント、唐突にその男は現れたんだ。
《キミ……は…………》
しかもなんだ?
なんか頭の中に直接話しかけるような、そんな感じの方法で
なんというか、その男の見た目は昔のSF作品に出てくる未来人が来ているような服を着ていた。
なんとなくだが、見た感じからして普通の服などではなく、制服のようなものじゃないかと思う。
《クッ、どうやら私にはもう時間がないようだ。このままでは奴らの手にかかるのも時間の問題か……》
男は見た目的にはどこにもケガを負っているように見えないのだが、どうやら命の危機の状態らしい。
とりあえずなんかヤバそうなので、男の下に近寄って状態を見てみる。
といっても、別に医療従事者という訳でもないので、どこがマズイのかさっぱり分からない。
《そこの君。適合するかは分からないが、君に私のサイキックマインドの全てを委ねる。勝手に巻き込んで申し訳ないが、君にヴェフェルンの未来を……託す》
え、いや、急になんだか分からないもんの未来を託されてもですね……。
そんな事を思っていると、男は俺の体に手を触れてきた。
アンタまだ動ける元気があるんじゃないか?
と一瞬思ったものの、男の手は微かに震えているようで、よく見てみると全身の力の入り方もどこかおかしい。
自立して立っているというよりは、無重力空間で浮かんでいるといった感じだ。
そして弱々しく俺の体に触れた男の手からは、何か……魔力とは違う何かが送られているのが、感覚として理解できた。
これがサイキックマインドとかいう奴なのか?
《これは……驚いた。ここまで拒絶反応もなく、ほぼすべての力を受け入れられるなんて……。どうか、その力をヴェフェルンの為に……。そして奴らを…………シュレイカーを打ち滅ぼしてくれ……》
肉声ではないが、男が最後の力を振り絞って俺に何かを伝えようとしている事は伝わってくる。
……伝わってはくるのだが、シュレイカーとかいう新しい単語が出てきてしまった事で、ますます話についていけん。
修学旅行で京都までの新幹線移動の際に、途中駅でうっかり下車して取り残された時のような感覚を味わってるぜ。
まあ、そのおかげで俺だけ名古屋観光をちょこっとだけ出来たんだけどな。
なんて事を考えてたら、男の体に異変が起こり始めた。
なんちゅうか、体全体が透けていってるんだよ。
男は…………残念ながらもう完全に絶命してるようだけど、だからってなんで消えていくんだ?
俺の理解が及ばぬ内に男は完全に姿を消し、あとには何も残されてはいなかった。
男の体だけが消えたのではなく、身に着けていたものすべてが消え失せていた。
まるでそのような男など存在していなかったのような……。
だが、俺は……俺だけは知っている。
ヴェフェルンを守るために、男からサイキックマインドを渡された事を。
そして、シュレイカーを倒すべく願いを託された事を……!!
と、まあシリアスはこれくらいにしておいて。
ぶっちゃけ、何が何だか分からない状態なので、目の前で人が死んだという実感もあまり持てていない。
昔、ばあちゃんの葬式に出たことがあった。
その時、冷たくなっちまったばあちゃんに触れて、それがもう生物じゃなくて物体になってしまったんだなって、感じた事を思い出す。
その体験が俺に、「死」というものがどんなものなのかを瞭然とさせてくれた。
けどあの男とはろくに接触する間もなく、そして遺体すら残さず消えてしまった。
明らかにこの世界の人間だとは思えなかったし、もしかしたら生まれ故郷に戻って無事に暮らしてるのかもしれない。
……そうとでも思っていた方が、俺の精神的にもいいだろう。
さて、ところで男から授かったサイキックマインドとやらだが、名称的には超能力か何かっぽいな。
あの頭の中に聞こえてきたのも、念話とかそんな感じだった気がする。
意識してみると魔力の時とは違い、最初っから体の中をサイキックマインドらしき力が巡っているのが感じられる。
これは……血管を通じて全身を巡っているのか?
さらにに注意深く意識を集中していくと、体の中を微小な粒のようなものが移動しており、その粒によってサイキックマインドのエネルギーのようなものが循環されているように思える。
んー? この粒は体の中の微生物か何かか?
いや、でもなんかそれにしちゃーみんな同じ形状……というか、同じ規格をしているような……。
あ、待てよ。なんか火星人の改造を受けた際に、ナノマシンがどうこう言ってた気がすんな。
ってことは、このちっこいツブツブがナノマシンなのか?
というより、なんでそんな体内のちっこいのを認識出きてるんだ?
……まあいっか。
世の中には謎というものが満ち溢れている。
つまり、そういう事さ。
ただ新たに身に着いたであろう力についての謎は、早めに解決しておきたい。
詳細は家に帰ってからにするとして、とりあえず俺は超能力という言葉から連想される事を、いくつかその場で試してみた。
サイコキネシス……財布から取り出した硬貨を浮かせることに成功。頑張れば、自分の体を浮かすことも出来そうだ。
パイロキネシス……極力力を最小限に抑え、隅に落ちていたよくわからん小さな布切れに使ってみた所、燃えた。
炎だけを生み出せないかと、指先にライターの炎を意識してみた所、これも成功。
「フッ、燃えたろ?」
クレヤボヤンス……丁度道路の先からボインボインが歩いてきたので、試してみる。目頭に力を集中させ、ボインボインの胸部装甲を一枚ずつ頭の中で毟り取っていくイメージをする。
ああ、いやそれだと透視とは言えないな。
再度イメージからやり直す。
スーッと、そう、スーッと透かして透かして……。
「オオオオゥッッ!」
思わず俺は大声を上げる。
これはまさしくワンダフル!
しかしボインボインの胸部装甲の奥は覗けても、道の先にある構造物を俺は見逃してしまっていた。
俺が今歩いている歩道の端には、等間隔に並んでいる謎の金属の杭がある。
まあ、歩行者を車から守る的な何かなんだろうが、先端部分の両脇には丸い輪っか状のものがついていて少し出っ張っていた。
俺がクレヤボヤンス――透視能力を試そうと、学術的探究心を追求していた所、前方不注意となってその出っ張った部分に腹部を強打してしまった。
「ボディが……甘いな……」
こうして俺はサイキック・マインドを使用する際の注意点を一つ発見したのだった。
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