大地転移 ~宇宙人に改造され、魔法少女にされかけた俺は、サイキックマインドを内に秘め異世界を突き進む!~

PIAS

序章 プロローグ

第1話 火星人


 思えばあの蝶がすべての始まりだった。



 その日、俺はいつも通りに家を出た。


 そしていつもと同じ時間帯の電車に乗り、いつも通りの講義を受け、いつも通り駅前の本屋に寄って家に帰る。


 ……そのハズだったんだが、その日はしょっぱなから俺の中の"いつも"が壊れていた。


「……なんだ、ありゃ?」


 俺の目の前には綺麗な蝶がヒラヒラと飛んでいた。

 しかも光の加減のせいなのか、いくつもの色に輝いて見える。


 宇宙と書いて「ソラ」と読む名前を授かった俺は、名前のせいか知らんが小さいころから宇宙が好きだった。

 宇宙だけじゃなく、ピラミッドだとか邪馬台国だとか。物心ついた頃には、そういった色々なことに興味を覚える性格になっていた。


 だから、目の前を見たこともない綺麗な蝶がヒラヒラと飛んでいたら、つい追いかけたくなるのも仕方ないだろう。うん、そうだ。俺は悪くないハズだ。


 しかしこの行動がきっかけで、俺の人生は360度変わってしまった。

 え? それだと一周して戻ってるって? いいんだよ、そんな事はどうでも。


 とにかく重要なのは、俺が蝶を追いかけてしまった事だ。

 住宅街の間の、こんなほっそい道あったの? って小さな道を、蝶が飛んでいく。

 俺もあとを追って、その小さな道に入ったすぐあとの事だった。


「うおっ、まぶしっ」


 何故か俺は強烈なライトに照らされていた。

 それも道沿いの住宅に住む住人が向けた明かりではない。

 その強烈な光は頭上から一筋の光となって俺を照らしていた。


「え、いや。マジ何なの?」


 そのセリフを最後まで口に出来たかは分からない。

 なぜなら俺の意識はここでいったん途絶えたからだ。








 ピシャンッ! ピシャンッ!



 次に俺が意識を取り戻したのは、何かを鞭で叩くような音が聞こえてきたからだった。

 なんだ? と思って辺りを見渡そうとしたんだが、どうも体が一ミリたりとも動かない。


 ただぼんやりとしていた視覚だけは、徐々に鮮明化していく。

 そこで俺は思わず驚きの声を上げそうになった。

 いや、実際は声も出せなかったんだけどな。


 俺の目に映ったのは……そう、タコだ。

 んー……いや? タコ星人?

 あ、待てよ。思い出した! あれだ。昔の人のイメージしていた火星人。

 あれにソックリなんだ!


 そいつらが何だか俺の周囲をうろちょろと動き回っている。

 俺が意識を取り戻したのにも気づいていないらしい。


 そいつらは言葉を交わすこともなく、何やら俺の周りで作業を行っているようだ。

 それとなんかキイィィンという耳鳴りが頻繁に聞こえてくる。

 ううん、これは俺が見てる夢、なのか?


 体も視線も動かせないので、どういう状態にあるのかさっぱり分からないのだが、恐らくはテーブルのような高台の上に寝かせられた状態なんだと思う。

 天井からはにゅるにゅると動くホースのようなものが伸びていて、その先に取り付けられた装置からはライトが照射されている。


 そのライトは俺の体を部分的に照らしていく。

 その度に、なぜか俺は体に違和感を感じていた。


(なんか……体の中がムズムズする?)


 そんな訳の分からないイッツアーショータイムの中、劇的に状況が変化する事が発生した。

 それはホースライトが俺の顔面を照らした後の事だ。


 なんだか三日ぐらい連続で顔だけ日焼けしたような、妙なほてりを顔面の至る所から感じた俺は、声なき声を上げた。


 するとどうだ?

 これまで聞こえていた耳鳴りが聞こえなくなっていった。

 それだけじゃない。

 人の話す声のようなものまで聞こえてくる有様だ。



『この生命体の強度はどうだね?』


『炭素ベースの生命体だから期待してはいなかったが、兵士ソルジャー向けではないようです』


『肉体組成を解析し、ナノマシンの注入を始め、限界まで肉体の強化を図りましたが、しょぼいです。宇宙空間に放り出したら十カロンと持たないでしょう』




 突如聞こえるようになったその声によると、俺はどうやら肉体強化を受けているらしい。

 てか十カロンって何だ……って、うおっ!?


 何故火星人の言ってる言葉を突然理解できたのかは謎だが、カロンという言葉について考えたとき、これが時間の単位の一つである事が何故か理解できてしまった。

 それによると十カロンは……、へっ? 地球時換算でおよそ三百五十四時間に相当するらしい。


(え、俺って宇宙に放り出されても二週間近くは死なずに生きてられるの?)


 驚きのあまり、火星人の会話が途中頭から抜けてしまっていた。

 その間にも俺の改造手術は続いている。


『これでは我々の目的のためには使用できませんが、どうせなら奴らから剥ぎ取った"ガリオトベルト共振チャンバー"をこの個体に埋め込んでみますか?』


『ふむ、それは興味深い。我々にあのようなものを埋め込んだら宇宙のチリとなってしまうが、上手くいけば超高効率のエネルギー源となろう』


『そうですな。やっちゃいましょう』



 ……やばい。なんか物騒な話をしている。

 がりおとべ……なんちゃらについても、頭の中から少しだけ情報が浮かんできたが、どうやらこいつらの間でも扱いが非常に難しいものであるらしい。


 どうする? このままだと物騒なもんを体に埋め込まれてしまうぞ。


 実は先ほどから、ピクリとも動かなかった体が微かに動くようになっているのに気づいていた。

 恐らくは改造手術のせいだろう。

 火星人の言語を急に理解できたのも、恐らく脳に直接知識が埋め込まれたせいだ。


 少しだけ動かせるようになった体で、首を動かして辺りを見渡すと、やはり俺は手術台のようなものの上に寝かされているのが確認できた。

 ついでに、俺のムスコもよく見えた。どうやら俺はマッパだったらしい。


 そんな事を考えていたせいか、股間にホースライトが当てられる。

 と同時に股間からムズムズとした感覚が伝わってきた。


(うっ、ううううぅぅぅぅ…………)


 蛇の生殺しのような、長くとも短いライトの放射が終わると、まあ、何という事でしょう。

 俺の仮性が火星人の手によって化成しているではないか!



 って、そんな事言ってる場合じゃねえ。

 どうにかしないと、ガリオなんちゃらが…………。


 しかしどうやら決断するのが遅かったようだ。

 天井からもう一本、にょろにょろとしたホースが伸びてきてしまった。

 その先端部分には真っ赤な珠がくっついている。

 大きさは俺の手のひらで支えきれないほどの大きさで、ドクドクとまるで心臓のように鼓動しているように見えた。


『では"ガリオトベルト共振チャンバー"の埋め込みを開始する。対象生命体の想子結合を固定。埋め込みのための次元層接続開始』


『想子固定完了。次元断装置稼働開始』



 やばい、やばいやばいヤバイヤバイヤバイ!!


 本能的な恐怖が俺を襲う。


 なんだっ、これ!


 まるで心を抉じ開けられてるような、未知の感覚が俺を戦慄とさせる。

 心霊スポットなんかで、時折何もないはずの所で感じる、背筋がぞっとするような感覚。それを何千倍にもしたような感覚だ。


(アバババババババ…………)



 そこで俺の意識は闇に落ちていった。

 だが意識を失う寸前。

 実際に視覚で捉えたのかも定かではないけど、俺はまたあの蝶の姿を見たような……気がした。


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