瞬間の出会いと、数分の対話。
@teasol07
第1話
「何か、形あるものが大切なの?」
純粋な目が、圧迫感のある雰囲気で語りかけてきたが、俺はいつも通り片手で跳ね除けて彼女の真意をとても軽いものにした。
いつもの通り、何があるんだという風に装った。彼女は変わらず、顔を顰めて嫌そうな雰囲気を纏っていた。
「わかりやすいものが大切なんだ。何か物がそこにある。オチがあるということが大切なんだよ」
分かった風に、ビールで膨れた腹をさらに大きく見せるように胸を張った。
しかし彼女はさらに大きな岩になったかのようにそこを動こうとせず、頑なな瞳は、反射されることによって鋭く研磨され、簡単にこの世を切り刻んで壊してしまうようにも思われた。
僕の哀れな意思や世間体なんて、真実を含む彼女の瞳に勝てるはずもなく、容易く崩れ去ったが、このままではいけないという先人たちの声が頭の中にこだまして、俺を鼓舞した。
大切なのは俺たちの意思の塊であって、俺たちではない。
それは知っているだろう。新しい意思なんて無視するんだ。
大切なのは俺たちについてくるか、こないか。俺たちにとって武器であるか、そうでないか。わかるだろう?
彼女の、確かに女である手が俺に差し伸べられていることがわかった。ここで手を取ったら、俺が、先人たちとは違う人間になってしまうことも、同時に痛いほど意識していた。
しかし、彼女の手は輝くほどに魅力的だった。
その土地を踏み、武器を自身の両手から降ろすことが最も良いことだとは分かっていたが、そうできない年月を重ねていた。
彼女が懸命に差し出す右手を、他人事のように眺めていた。
瞬間の出会いと、数分の対話。 @teasol07
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