テーマ:白

あまたろう

本編

テーマ:「白」


 白い布のようなものが森の中を縦横無尽に跳ね回る。

 その後には、無数の人間が倒れている。


 バーチャルバトルスペース。

 仮想空間でサバイバルゲームをする空間をそう呼ぶ。

 僕はかなり経験を積んでいてそこいらのEスポーツプレイヤーにも負ける気はしないが、あれほど華麗な動きは見たことがない。

 しかもあれは……。


 「スキン」と呼ばれるアバター(プレイヤーの分身)の見た目は、かなりの課金をしないと変更できないようになっている。でなければ初期スキンという固定の見た目か、自分自身の見た目をある程度反映させる固有スキンでしかプレイできないはずで、僕の記憶が確かならばあれほど美しい女性の姿をしたスキンは課金して手に入るものの中にも存在しない。

 ということは、あの見た目は固有スキンということになる。

 ぜひとも実物を拝みたいところだな、と思いながら僕も得意な武器であるマシンガンで迫り来るプレイヤーを次々倒していく。


 視界の端に入れていたその白い布、彼女は「白い羅刹」と噂されるプレイヤーに違いない。

 実際に遭遇するのは初めてだが、透き通るような白い肌に漆黒のポニーテールにどこか幼さを残しながらも端正な顔立ち、そして戦闘にそぐわない真っ白なワンピース、そこから覗くすらりとした長い脚を存分に使った蹴り技と、背中に仕込んだ細身の刀とクナイで他のプレイヤーを正確無比に倒していく。

 一撃の威力が劣るクナイは弾数が多く設定されており、仮想空間であるため投げてもすぐに内ポケットに自動的に補充されるため弾切れの心配はほとんどなく、たくさんのクナイを持ち歩く重量も設定されていない。

 それに加えてワンピースの脇の部分からクナイを取り出すときの仕草が扇情的で、ついつい見とれてしまう。

 しかし見とれている場合ではなく、気づけばクナイが2本、僕の目の前に迫ってきていた。

 あと0.1秒遅かったら顔面にクナイを食らっていたに違いなく、頭部への攻撃は通常ダメージの2倍の値が設定されているため、クナイでもかなりのダメージになってしまうのだ。さらに顔面の急所となる眉間、鼻の下などはさらにダメージ値の係数が高く、そこに当たると一撃で致命傷となる。というか、今来た2本は避けなければ確実に眉間と鼻の下だった。恐ろしい。

 転がった先に、さらに2本のクナイが飛んでくるのが見えた。これも正確無比に顔面を狙われている。

 とっさに腕立て伏せの格好になってそれを避けると、そのままバク転をして相手から距離をとり、マシンガンを構えた。

 「ふうん、今の避けるんだね。初めてだよ君みたいなプレイヤー」

 少し興味を持ったような、しかし感情はまったくなさそうな透き通る声。

 「話しかけてくるとは余裕だね」

 マシンガンを構えながら僕は言った。

 「あれだけの動きができるプレイヤーだからね。話しかけたら答えてくれると思ってた」

 そう言って彼女は顔をまったく動かさず、右手で左の肩越しにクナイを2本、背後に放つ。

 ぎゃああ、という声とともに顔面ヒットされた別のプレイヤーがゲームオーバーを示す光となって消えていった。こいつはとんでもないな。

 「ID、聞いてもいい?」

 「白い羅刹にIDを聞かれるなんて光栄だね」

 精いっぱい気圧されないように強気で答え、IDを交換した。いつクナイが飛んできてもおかしくない。

 「ん?私は白い羅刹じゃないよ。白い羅刹は私のお姉ちゃん」

 姉妹でこんなに強いのか。

 「そう、そのお姉ちゃん……白い羅刹を倒したいの」

 「僕なんかで役に立つのかわからないけど、面白そうだから協力するよ」

 ありがと、と言った彼女はようやく感情を表に出し、とても魅力的な笑顔を見せた。

 「じゃあ、今度はチームでプレイしようね」

 そう彼女が言った瞬間、視界の端に彼女とは違う白い影が見えた気がした。

 そして目の前で笑っていた彼女が突然光となって消えた。

 「いつでも相手になってあげるわよ」

 そんな声とともに、眉間に何かが刺さる感触とともに世界が真っ白になった。

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テーマ:白 あまたろう @amataro

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