殺したいほど憎いあなたへ
榮倉慶
不幸に縋って生きてたいです。
ずっと一緒にいようね、結婚しようね、世界で一番愛してるよ。
結局そんな言葉は全て嘘だったんですよね。
心から他人を信じることなんて誰にもできないのにあなたはそれができる誰かを常に探してる。そんなの、自分のコピーでもなきゃ存在しないのに。
最初のほころびはほんの小さな嘘から始まりましたね。
私があなたのことについて愚痴を言って悪口を言ってしまったのがきっかけで1回目の別れが訪れました。
別れたくない、ごめんなさい。ひたすらにそんな言葉を口から漏らして必死に許しを請うたのです。
今思えばそこで全てが終わっていたら、2人ともこんなに傷つかずに前に進めてたのかな。
そんなことを思いながら文章をひたすらに綴る。貴方への想いを全て文字に乗せて、消費して、いつかさっぱり消えてしまいますように、なんて願いながら。
世界で一番好きでした。貴方の大きい手が。
世界で一番好きでした。貴方の優しい顔が。
世界で一番好きでした。貴方のぽてぽてしてたお腹が。
今はもう手に入らないその全てを文字にして電波に乗せて、インターネットの海に流して、どこかの島の誰かに消費されゆくことを願っています。
どうか、私が結局一番だったなと後悔してください。やり直せばよかったと悔やんで惜しがってください。
そんな浅ましいことを考えながらひたすらに文字を綴る。
文字にして貴方への気持ちを言語化して消費してしまえば跡形もなく綺麗になくなってくれるだろうか。
結局のところ、私の小説の原動力は不幸でしかないのだ。
幸せすぎた貴方との時間、小説を書くことは一度もありませんでした。
それでも世界に踏みつけられ、痛めつけられて苦しんだ日々のことを忘れて1人でのうのうと幸せになる覚悟はありませんでした。
私は私の不幸を全て捨ててまで貴方とは一緒に居たくない、そう無意識に思ってしまっていたのかもしれません。
貴方との幸せと、今までの不幸をひたすらに反芻して小説を生み出す生活を天秤にかけた結果、小説の方を私は選んでしまったが故の行動だったのかもしれません。
きちんと貴方との未来のことを考え、小説を諦めることを覚悟して思考を続けていれば結末は変わっていたのかもしれませんが。
どうか幸せにならないでください。
せめて私の預かり知らぬところで勝手に幸せになって私のことなど忘れていてください。
どうか苦しんでください。
どうか平穏に健康的な生活を送って生き続けてください。
相反する幾つもの感情を持ち合わせつつもどちらかに意見を固めることなんてできなくて。
結局そのせいですれ違って傷つけあって終わったのかな。
貴方に呪いの言葉を送りつけて連絡を絶ったことに後悔しているかと問われればはいともいいえとも言ってしまうかもしれません。
苦しんでほしいのも事実です。
苦しんでほしくないのも事実です。
だから、貴方への感情を全てここに記して忘れることにします。
私のものにならないのなら痛めつけて私の存在を刻みつけてしまえばよかった。
もっと愛してあげればよかった。
もっと考えてあげればよかった。
気づいてあげれば。
全てはもう遅いですが。
今まで幸せでした。
小説を書けなくなるほどに。
でも、やっぱり私は小説の方が大事なので、
どうか私のことなど忘れてください。
私ももう貴方のことなどとうに忘れましたから。
殺したいほど憎いあなたへ 榮倉慶 @eikurakei
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