「神様の定食屋」 剣の杜

@Talkstand_bungeibu

第1話 「神様の定食屋」 剣の杜

その定食屋はA県のA大学のそばにあり、いつも腹を空かせている体育会系の大学生だけでなく、メニューの豊富さから文化系の大学生もよく使っている学生たちにとってはなくてはならない定食屋だ。名前は『たけのこ亭』、洋食も和食もどっちもいける人気の定食屋なのだ。


「おっちゃーん、俺チキンソテー定食ライス大盛りでー!!」

「俺は生姜焼き定食ー、もちライス大盛りで!!」

「私はサバの味噌煮定食お願いします、うーん、ライス小でお願いします!!」


昼ともなれば、大学の学食と生協の恩恵にあずかれなかった学生たちが次々とくるため、毎日が戦争のようだ。それを、ここ『たけのこ亭』の店主は涼しい顔をしてこなしていく。


「チキンソテー、生姜焼き、どっちもライス大盛り、サバの味噌煮はライス小だな。他決まったのは嫁に言ってくれい!」


注文を復唱し厨房に入る店主。その表情は忙しい中でも生き生きとし、学生たちとのコミュニケーションを楽しんでるようにも見える。


「あー、くそー今日も学食あぶれたー。研究室の院生とか食べ始めんのはやすぎんだよー」


また新しく学生がぼやきながら店に入ってくる。店主は笑いながら学生を迎え入れる。


「院生は院生で夜が不規則だったりするんだ。昼くらい大目に見てやれ」

「いやー、それでも米食いつくすんはありえないっすわー」

「ははは、そりゃどうにもなんねぇな。早速注文はどうする?」

「ハムカツ定食、ライス大盛りでお願いしますッ!!」

「よし、ハムカツのライス大な、漫画でも読んで待ってな」


学生とのやり取りをすると厨房に入る、これの繰り返しが何十回も続いて、大体の学生たちの4コマ目が始まる前、14時頃に店は一旦準備中になる。13時で準備中にしないのは3コマ目がない学生が遅れて昼食に来る時があるからだ。常に学生と共にあり、学生のことを考えてくれることから、学生たちからは『神様の定食屋』なんて言われてたりもするが、それを店主は知らない。店主は知ろうともしていないのかもしれない。いつもエネルギッシュな学生たちと触れ合い、力をもらっているのは自分の方なのだから。


「よっし、そろそろ夕方の仕込み始めるか」


店主は立ち上がると、もう一つの、主に体育会系の学生が練習前に食べにくる戦争の時間に向けて準備をはじめた。『たけのこ亭』が神様の定食屋ならば、店主は神様だろう。その神様は学生を笑顔にすることを楽しみに、今日も包丁をふるう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「神様の定食屋」 剣の杜 @Talkstand_bungeibu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る