2-14
「……報復の最適解は、爆破ではない」
ミコトがぽつりと言う。
「何よ!きれいごとでも言うつもり!?復讐は何も生まないとか、偽善者ぶって説教するつもり!?」
ヒステリックに叫ぶ花崎。しかし、ミコトは静かに首を横に振って。
「違う。そもそも報復行為は正当化されるべきものだ。戦争でも、攻撃を受けた側が報復する際、大半の人間が肯定的に評価するはずだ。攻撃された側が報復するのは、公正で正当な行為であると」
ミコトは近くの給水タンクにもたれかかって、続ける。
「――――だがここは戦場ではなく学校。君たちは軍人ではなく、高校生だ。生徒間の報復行為に爆薬を使用するのは適切であるとは言えない。よって、花崎、そして御宅田の報復方法は不適切と言える」
さきほどから御宅田が爆薬を使い、報復するのだと断定するような口調のミコトに片瀬は慌てて口をはさむ。
「待ってよ天原。……本当に御宅田が爆弾持って、立てこもってるみたいな口ぶりだけど――」
「流石に耳が早いですわね、天原君」
片瀬の話を阻むように、突然聞こえてきた第三者の声に、花崎と片瀬がぎょっとして振り返る。
「尾蝶会長。やはり、ですか」
ミコトに呼ばれた通り、尾蝶が数人の生徒を引き連れて屋上にやってきた。いつもの微笑は彼女の顔にはない。
「ええ。混乱に陥らぬよう、生徒たちには伏せておりましたが。職員室にて矢吹ナナコ先生を人質に取り、爆弾と銃を持った御宅田アツシ君が立てこもっているのです」
縦巻きロールの髪を指先でいじりながら、尾蝶はミコトの言葉を肯定する。
「御宅田の要求は?」
「彼が用意したリストに名前のある生徒を残して、他の生徒と教員は全員学校外の敷地外に出ろ、と」
「警察への通報は?」
「生徒たちの混乱と、SNS拡散を防止すべく、警察への連絡は控えるよう通達しております」
「何それ、矢吹ちゃんがどうなっても構わないっていうの!?」
あくまで冷静な尾蝶に掴みかかろうとする花崎を、ミコトが制す。
「下手に刺激すれば、矢吹先生だけでなく、この学校の生徒、教師全員の命が危うくなる。尾蝶会長の判断は妥当だ」
「……でも会長。この学校の人間だけでなんとかする、って事ですか? そんなの、あまりにも無謀じゃ」
片瀬が不安げに問うと、尾蝶は首を横に振った。
「御宅田君は不登校になる前、酷く苛めを受けていたそうですわね。三原ミカさんの事もわたくしの耳に入っております。恐らく彼の狙いは、事件を聞きつけたメディアを通し、世間に三原さんの死を知らしめ、彼女と御宅田君自身を貶めた生徒たちをに復讐を行う事――そしてわたくしは、この学園の生徒会長として、それを看過することはできません」
冷徹に、尾蝶は続ける。
「我が尾蝶家の総力を結集せずとも、御宅田君を『処理』することは可能です。これから起こりうることを『抹消』することも可能です。私の財力と人脈を持ってすればね」
それよりも。と言って、尾蝶はミコトに視線を移す。
「天原君。貴方に任せた方が、迅速かつ確実に、処理できるのではありませんか」
尾蝶の言葉に、ミコトは微動だにしなかった。
「……ちょ、ちょっと、何言ってんの?尾蝶先輩……天原に、御宅田を殺せって言ってるわけ!?」
花崎が顔を顔を真っ青にして狼狽える。
「解釈はお任せします。――報酬は出します。如何ですか?」
「何言ってんのよ!コイツだって、ただの高校生じゃん!そんなことさせられるわけないでしょ!」
「花崎さんも知っているでしょう、彼が本物の実銃を持ち、そしてその扱いにも慣れていることを。高校生だと名乗ってはいますが、恐らくは特殊な訓練を受けた軍事関係者であることは間違いありません。わざわざ外部から呼び出すよりも、より効率的かつ迅速に問題を解決することができます」
「だからって、天原に御宅田を殺させるなんておかしいじゃない! 片瀬もなんとか言いなさいよ! それに、御宅田だってあんなことがなきゃ……!」
花崎に言われた片瀬は、すこしだけたじろいでから、
「天原がやるのは反対だけど……一人の犠牲で済むなら、それは確かに一番いい方法だと思う……」
目をそらし、そうぼそりと言った。
「片瀬まで!なんなの!?みんな頭どうかしてるんじゃないの!?」
声を荒げる花崎に対し、片瀬は気まずそうににうつむくだけだった。
「決めるのは天原君です。――それ相応の報酬も出します。先日の旧校舎の一件のことを不問にしてもかまいません。この学園に不利益を及ぼさぬというのであれば、ある程度の行為は見逃すと約束も致しますが」
片瀬と花崎が見守る中、尾蝶が持ちかけてきた取引に、ミコトはゆっくりと口を開く。
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