第50話 年末年始 3
去っていく流民を見送り、まとめ役は兵たちに振り返る。
「さて俺たちは盗賊を連行するぞ。シーカーたちももう少し手伝ってほしい」
最後に戦った盗賊たちとスキル持ちの流民は動けないように拘束されて運ばれる。残りの盗賊たちは後ろ手に拘束された上で、ロープで全員を繋いで自身たちで歩かせる。
ぞろぞろと移動する一団に何事かと住民たちから注目が集まる。それにまとめ役が盗賊団だと簡単に説明し、手配した空き倉庫へと移動する。現状流民も拘束していて詰所では入りきれないのだ。
静かな倉庫前には兵の長がいて、盗賊団を拘束する準備を整えて待っていた。
「皆、新年からご苦労」
まとめ役が背筋を伸ばし敬礼する。
「兵は盗賊たちを中に入れてくれ。シーカーはこっちへ、報酬を渡す」
兵たちによって、次々と盗賊たちが倉庫の中へと入れられていく。
バルームたちは兵の長のところへ行く。
「急な依頼を受けてくれたこと、改めて礼を言う。そこまで多くはないが報酬を受け取ってくれ」
突入組は赤硬貨五枚、見張り組は赤硬貨一枚だ。
「報酬は行き渡ったな? では解散だ。超魔が現れる可能性があるとは聞いているだろう。もう少し先のことになるだろうが、そのときにも協力してもらえると助かる」
解散を告げられてシーカーたちは宿へと帰っていく。
報酬を受け取ったゼットたちが帰る前に挨拶にとバルームたちに近づいてくる。
「お疲れ様でしたー」
「おう、お疲れさん」
「俺たちは見ていただけなんで、そこまで疲れていませんけどね」
「そうかもしれんが、こういった仕事をこなせたのはプラスになる。兵からの依頼を無事成功させたということで信頼を一つ積み上げた。小さな信頼かもしれないが、こういったものを積み重ねていけば、良いシーカーになれるぞ」
そんなものなのだなとゼットたちは頷く。
「もう遅いし、あまり話すのもあれだろう。帰るとしようか」
「はい。ではまた」
ゼットたちはバルームたちに別れを告げて帰る。盗まれたゼットの財布は、後日返還されることになっている。一度兵たちが盗まれたものを集めて、調査することになっているのだ。
盗んだものの傾向から、金銭目的なのか特定の目的があるのか調べるのだ。
シーカーたちが帰り、兵たちは盗賊たちを締め上げていく。動くことも禁じられた盗賊と流民は洗脳スキル所有か吐かせるため、クルーガムのところへと連れて行かれた。
そういった調査の結果、依頼を受けた盗賊団だとわかる。ただし依頼相手はわからなかった。依頼内容も簡単で、超魔の件で慌ただしいトンクロンの町に入り込み、荒らすだけでいいというもので、領主の情報を調べたり、抜け道を作ったりといったことはしていなかった。
依頼をしてきたのは顔を隠した男で、今なら町に入り込みやすく稼ぎやすいと盗賊団の長に報酬を渡して唆した。
失敗してもおとがめなしという条件で、すぐに退くことができる好条件だったため盗賊団の長はこの話を受けたのだ。
依頼主が盗賊団を動かしてなにをしたいのか語ることはなかったため、盗賊たちを拷問をしても兵たちは依頼主の目的を知ることができなかった。
一晩かけて情報を絞り、その報告書を持った兵の長がカルフェドに届ける。
「急ぎ調べた結果がそちらとなります」
「うむ、忙しいところご苦労。部下たちには十分休むように伝えてくれ。今日くらいは超魔対策を休んでいい」
「ありがとうございます」
一礼した兵の長が執務室から出て行く。
届けられた報告書に目を通したカルフェドは、自身の力を削ぎたい貴族たちの嫌がらせだろうと判断した。
カルフェドは国内有数の貴族というわけではないが、それでも力を削れるときに削っておきたいという者がいたのだろう。
盗賊たちを陽動にしたなにかしらの行動を起こした可能性も疑い、屋敷内の調査、町の要所の調査も行ったが怪しい結果はでなかった。
この忙しい時期に余計なちょっかいをかけられたことに溜息を吐いて、今後について考える。
そろそろ家族を町から親類の治める町へ避難させようと思っていたのだ。しかしこういったちょっかいがあるなら避難先でもなにかしらの接触があるかもしれない。
一応屋敷の地下に避難場所は作ってある。その再点検をして、万が一のときは隠れてもらうことにするかと予定を変える。
また溜息を吐いて、再点検を行うように書類を作り出した。
ひと騒動あった翌日の午後になるとミローが宿に顔を出す。
「今年もよろしくお願いします。パパとママもよろしくと言ってました。おにいは靴のことを気にしていましたね」
「こちらこそと伝えておいてくれ。靴に関してはイレアスと話して感想を伝えてくれ」
「わかりました。三人はどんなふうに過ごしていたんですか? 私は伝えてあったように家族や友達と過ごしていましたけど」
「依頼を一つこなしたほかは、必要な買い物と散歩といった感じだったぞ」
自分のいないところでどんな依頼をしたのかと不思議そうだ。
「昨日ゼットが財布を盗まれたことをきっかけとして、盗賊が廃墟に集まっているのがわかってな。兵からそれの捕縛補助を依頼されたんだ」
「あー、なんか朝に兵がたくさんの人を連行していたって聞いたような」
「それで間違いないだろう」
昨日の詳細を聞いて、そんなことがあったんだなとミローは何度か頷いた。
「それ以外では、あまり祭りだってはしゃいでない感じです?」
「イレアスが騒がしさに疲れてな。ピララは祭り自体にそこまで興味を持っていない。だから少しだけ外に連れ出しただけで、あとは宿でのんびりやっていた。祭りは今回だけじゃないから、少しずつ慣れて今後楽しめればいいだろうさ」
「一緒に回ろうと思ってましたけど、無理そうですね。残念です」
「明日なら大丈夫じゃないか? 最終日で見物客は帰っていって人は減るだろう」
毎年の祭りの終わりを思い出して、ミローはそうですねと頷いた。
最後まで騒ぐ者はいるが、人はたしかに減っていた。あれなら騒がしさに酔うこともないだろうと思えた。
「今日はもうどこにも出かけず宿で過ごします?」
「そうだな、屋台になにか買いに行くかもしれんが、ほとんど宿で過ごすだろう。暇だろうし帰ってもう少し家族と過ごすのもいいんじゃないか」
「家に帰っても誰もいませんから。おにいは帰りましたし、両親はデートです」
娘が出かけるならと両親も予定を立てていた。家に帰ってもやることはないので、ここでなにもすることがなくても人がいるだけまだ時間を潰せる。
「そうか。なにがあるわけでもないが、ゆっくりしていくといい」
「あ、そうだ。先生が冒険していたときのことを聞かせてもらいたいです。まだまだ聞いていないことがありますよね」
「まあ、いいが。じゃあ先に飲み物やつまめるものを買ってくるとしようか」
少し出るぞと言い、イレアスとピララについてくるか聞く。
二人ともついてくると言い、ミローも立ち上がったので全員で少しだけ出かけて宿に帰ってくる。
翌日は朝から四人で祭りを見て回る。人が減っていることに加えて、今日はミローも一緒なので安心感が増し、イレアスは疲れた様子を見せない。
そんなイレアスを見て、このまま見て回ろうとバルームは考える。
「祭りが終わると町はいつもより静かになるかもしれませんね。友達から聞いたんですけど、一時的に親類のいる村とかに避難する人もいるんだそうです」
「魔物が攻めてくるって聞いて避難を考えるのは正常な判断だな」
「私は残るって言ったら友達から心配されました」
「素人から見たら、ぱっと見はなにも変化していないからな。普通に過ごしていた友達が戦闘に参加するって聞けば心配の一つもするだろう」
「きちんと鍛えているんですけどね」
ミローはぺたぺたと自身の腕や腹に触れる。
よくよく見れば筋肉が増えて、動きも以前より洗練されているのがわかる。だが戦闘に関わらない素人に見抜けというのは無理がある。
シーカーを始めて一年もすれば雰囲気的にも変化が生じ、シーカーだと一般人でもわかるようになるだろう。
「鍛え始めてまだ半年もたってないしな。無理もない。避難している奴がいると言っていたが友達たちも避難するのか?」
「する子もいますね。しない子もいます。家の手伝いで残るんだとか。シーカー相手の商売で祭りに続いて稼ぎ時なんだそうですよ」
「魔物に対抗するため集めているからな。町のシーカーたちも魔物への対策で買い物しているだろうし。だが超魔を倒せなかったら町に残ると危ないが」
「倒せると言ってほしいところなんですけどね」
「倒すのはジャネリたちの役割だから、あいつらが頑張ってくれないとな」
話しながら歩いていると、ミローに声をかけてくる者がいた。
声のした方向にはミローと同じ年齢の少女がエプロンをつけて店の前を掃除していた。その店は薬の材料を扱う店だ。錬金術師のいないバルームたちにはあまり用のない店でもある。
「ケーテ、店の手伝い?」
「うん、そうよ。そっちはシーカーの仲間と祭りに?」
頷いたミローはそれぞれの紹介をする。
挨拶を返したケーテはミローを手招きして呼ぶ。
ミローは少し行ってきますと断りを入れて、ケーテに近づいた。
「あの男の人がこの前集まったときに話していたバルームさんでいいのよね?」
「そうだよ」
「想像していたのと違うわね。あれだけべた褒めするんだからすごいカッコいいって思っていたわ」
「カッコいいよ」
即答した。
その反応でミローが褒めるため大袈裟に言っているのではなく本心で言っているのだとわかる。
「ミローって年上が趣味だっけ? そういった話は聞いたことはないけど」
「そこらへんは気にしたことなかったよ。先生とはいろいろあって、カッコいいところを見てきたんだ。イレアスもピララも同意するよ」
「なるほどね」
付き合いが深まるとかっこよさが見えてくるものなのだろうとケーテは納得した。
「まあ、あの人なら心配はないかな。カッコいいかはわからないけど迫力はあるからね」
「なんの心配?」
「ミローに気のある男子が、褒められていたバルームさんにちょっかい出すかもって思っていたけど、ちょっかいかけたところで歯牙にもかけないってこと」
「そんなのいたの?」
本人は不思議そうだが、ケーテは頷く。
イレアスを助けようとしたように、これまでもそういった行動はとっていた。だれかを助けようとする人柄に惹かれた者はいるのだ。自分に親切にしてくれるこの子は俺に気があるのではと勘違いしている者もいる。
「そうなんだ。ちっとも気づかなかった」
「あっちも本気だったら一緒にシーカーになっていただろうし、ちょっかいをかけることすらしないかもしれないけどね」
そこまで話して掃除をさぼっていることに気付いて、ケーテは掃除を再開することにする。
「仕事に戻るよ。ミローは祭りを楽しんできてね」
「うん、またね」
別れを告げたミローは少し離れたところにいるバルームたちへと歩いていく。
「お待たせしました」
「もういいのか」
「はい。友達とはこの前十分に遊びましたから、今日は三人と過ごす日です」
「そうか。今日はこの二人に祭りの楽しみ方を教えてやってくれ。年が近い方が説明が簡単なはずだ。それに俺の若い頃は馬鹿な楽しみ方しかしてないからな。二人に悪い影響しか与えん」
「どんなことをしていたのか教えてください」
「二日連続で徹夜して騒いで道端でぶっ倒れたりしていたな」
ブレッドとクラシンと騒いで手持ちの金を使いきって、メアリに叱られたことを思い出す。さすがに年を取ったら、あれは馬鹿だったとわかる。
「そんなに楽しかったんです?」
「今にして思えば祭りがというよりは、生活に余裕ができて気の合う仲間とはしゃげることが楽しくて止め時を失っていたんだろう。同じことはもうやれないが、良い思い出だったと思うよ」
「良い思い出ですか、同じことをすればそんなふうに思えるんでしょうか」
「やめとけやめとけ。普通に楽しむだけで十分良い思い出になるさ」
確実に親御さんに叱られることになるとも付け加えて、祭りを楽しもうとミローの背を軽く叩いてバルームは歩き出す。
「明日からはまた超魔に備えて動くことになる。気を抜ける最後の時間だろう。自分に合った楽しみ方をしないと損だぞ」
「そうですね。イレアスとピララも無理しないで楽しもう」
ミローはイレアスに手を差し出す。それを握り返されて笑顔になった。
ピララとも手を繋ごうと思ったが、ずっとバルームと手を繋いでいて邪魔すると不機嫌になりそうなのでやめておいた。
四人は野宿をしているときに使えそうな食器やミローの勧めでリボンといった装飾品を買って、買い食いもして、たまに大道芸を見るために足を止める。
四人なりの楽しみ方をして新年祭を過ごしていった。
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