第40話 セブレンの話 3
「先生、不死の王がいるところって人間がいけるんです?」
異種としての大物の住処になど行けるのだろうかと疑問を抱いて、ミローはバルームに聞く。
「行ける。道筋もわかっている。しかしその道中は強い魔物がいると聞く。俺たちだと厳しいかもしれん」
『向こうまで行ってしまえば町があるから安全なんだそうですよ』
「噂で聞いたことあるな、不死の王に集められた死者の家族が集まって作った町なんだったか。護衛を雇って連れて行ってもらうにしても、ある程度強い方がなにかアクシデントが起きたときに対応できるな」
『まあ、あの町に向かう期限はだいたい四年ありますから、それまでに十分な力をつけてもらえたらいいですよ』
「俺は二年で引退するつもりなんだが?」
『予定が変わるのはよくあることですよ』
「そうですね」
セブレンとミローは頷き合う。二人ともバルームには引退せずに今後もシーカーでいてほしいのだ。
セブレンはシーカーとして動いているバルームを見ていたい、ミローはいつまでも頼りにしたい。引退したら離れていきそうで、それはとても寂しい。
「引退関連はとりあえずおいとくとして、話をまとめるか。とにかく強くなれってことだよな」
『ええ、すごく簡単にまとめるとそうなります』
「しかしミローたちならともかく、俺はそろそろ成長打ち止めと思っている時期だ。強くなるのは無理じゃないか?」
『そうでもないですよ。未来では引退していたシーカーたちも追い詰められて成長していましたから。スキル三段階目なんてそこら中にいましたよ。異種に抵抗するにはそれくらいの実力が必要でした』
限界が来たから鍛えるのを止めるといった甘えた考えでは死ぬ状況だった。
多くのシーカーが限界だと思っているところなど、努力で越えていける。それはクルーガムも言っていたことで、セブレンの世界ではその努力が必須とされていた。
「聞けば聞くほどろくでもない状況だな。人間はかなり減っていそうだ」
生きていくために必要な強さがかなり要求される世界で、脱落する人間は相当にいただろうなと思う。
セブレンは頷く。
『人間もですが魔物もですね。弱い魔物は食料を得るために狩りつくされました。小さな村はどこも潰れて、王都といった大きなところに難民が押し寄せ、日々の暮らしに困る人がたくさんいました』
「こうして過去に戻る以外に希望はなにかあったの?」
イレアスが聞く。困難が多い世界で生きていくことを想像すると、人々の荒れ具合が簡単に想像できる。そんな世界で生きていくのは嫌だった。
『正直希望はなかったよ。倒しても倒してもあちこちに現れる異種への対応に手を焼いて、突然住んでいるところがダンジョン化して、生き残り餌を求める強力な魔物もいて、今をどうにかすることだけに必死にならないと明日を迎えることも難しかった。私は生き残るだけなら余裕はあったんだけどね』
心が死んでいる状況だったので、生き残っていたことが嬉しかったかと聞かれるとセブレンは首を横に振るだろう。
『あんな未来にさせないために皆は頑張って』
語られた未来が本当に来るならぜひとも避けたい。それはバルームたちの偽らざる思いだ。しかし超魔との戦いを乗り越えられるのか自信がない。
「武具の更新はさすがに時間が足りん。己を少しでも高めるしかないか。それで無茶して体を壊しても無理はないから、しっかりと考えて鍛錬する必要がある」
真剣に悩み始めたバルームは、超魔が町にやってくることを決定済みとして考えている。
そんな様子を見て、話したことを信じてもらえたとゼブレンは嬉しそうだ。
『しばらくは私も肉体を得て動けるから、その間は鍛錬に付き合いますよ』
「それなら超魔との戦闘に参加できないの?」
イレアスは思ったことを口に出す。セブレンがバルームのかわりに戦えば、大怪我することもなく戦いを終えられると思ったのだ。
『それができたらやってるわ。私が全力戦闘をできるのはあと一回。小出しにするなら二回くらいかしら。この先予定外の強敵が現れたとき、対応したいから超魔との戦いは出るつもりがないの』
超魔との戦いでバルームは怪我を負ったものの生き残っている。だから鍛えて勘を取り戻せば、未来のバルームよりも善戦できると考えて、参戦しないと決めていた。
バルームの強さを信じているし、若干妄信している部分もあった。
「セブレンはそれだけしか戦えないのか」
『時間の移動と五十年ほど神器を維持するのに力をだいぶ使っていますから』
「そんな状態なら鍛錬にも付き合わない方がいいんじゃないか」
『先生には悪いけど、今の実力なら鍛錬にそこまで力は使いませんね』
実力差があるのは理解しているためバルームは納得した。
『あと話すことは……神器はミローが使うといいわ』
「どういうこと?」
『武器として振るっていいってこと。なんの力も使わない武器としてなら、乱暴に使っても問題ない。本当は先生に使ってもらいたいんだけど、あなたに合うように作られているからね』
「神器はこの子にはまだ早いと思うが」
『それはこっちで調整できます。今使っている武器より少しましといった程度にしますよ。より良い武器が必要になったら、それに合わせて力を少しずつ解放していきます』
「それならいいか」
神器というならそうそう壊れることもなく、一つの武器を長く扱えるということも利点だ。
規模の大きな話はこれで終わりとなり、夕食をすませて寝るだけになる。
今日はセブレンが見張っているというので、四人とも横になる。
セブレンは体の構成を甘くして眠っているバルームの頭近くに座る。そしてそっとバルームの頭を撫でたり、頬に触れたりして朝までニコニコと上機嫌でいた。その途中で魔物が近寄ってこようとしたが、殺気をその魔物のみに叩きつけて追い払った。
魔物の接近にピララですら気づかず、森の中だというのに四人はゆっくりと眠る。
朝が来て、朝食を食べて拠点へと帰る。剣はミローが持っており、サイズが微妙に変化している。よく見れば刃の鋭さも変化しているが、そこまで見ていない。
歩き出そうとしてバルームはふと思う。
「ここがダンジョン化していた原因の神器を持ちだしたら、ここはもうダンジョンではなくなるということか? そして神器が移動したところがダンジョン化する?」
『まずここのダンジョン化は解けます。ですけど異種を破壊したわけじゃないので時間をかけてダンジョン化が解けていくことになりますね』
それはどれくらいの時間か、セブレンは少し考えてから五年もかからないだろうと言う。
『次に新たなダンジョン化ですけど、一ヶ所に長いこと留まらなければ大丈夫ですね。長くて二ヶ月留まり続けるとダンジョン化します。一ヶ月半でダンジョン化の兆候が見られるようになるという感じですか』
「二ヶ月経過する前にそこから移動して、どれくらいで戻れるんだ? セブレンも知っていると思うが、拠点はトンクロンだ。長期滞在するとしたらそこなんだが」
『十日くらい経過すれば集まりかけた異種も散ります。十日遠出してトンクロンに戻って、また二ヶ月経過する前に出るって感じでいいと思いますよ。強い魔物と戦って鍛えるためにも遠出はするでしょうし』
「まあそうだな」
向かう場所によっては移動だけで十日が過ぎる。このダンジョンに来るのも片道十日だ。厳しい条件というわけではない。
『疑問も解決したことで、私は神器の中に戻ります。次は鍛錬のときとクルーガム様と話すときに出てくると思います』
そう言うとセブレンの姿は薄れて、霧のようなものが神器の珠に入っていった。
「あとでそれで素振りしとかないとな。サイズを合わせてくれたとはいっても、これまで使ったものとは別物だ」
「はい。でもなんとなくしっくりくるんで、慣れるのに時間はかからないと思います」
「神器なんだし、そんなものなのかもしれないな」
周囲を警戒しつつ四人は今後のスケジュールについて話す。
もともとここで十日間鍛える予定だった。それを変更して戻るかどうか話し合い、予定通りに過ごすことにした。鍛えることが重要ということなので、その機会を減らすのはどうかと思うのだ。
ただしバルームは別行動だ。バルーム自身の鍛錬も必要ということなので、鍛錬時間をもらったのだ。
ピララがそちらについて行きたがったが、一人の方が効率が良く、将来の危険を減らすためと説得されて渋々ミローたちと同行することになった。
「よう、帰ってきたのか」
隣のテントを使っている男が声をかけてきて、バルームは「おう」と返す。
「稼ぎじゃなくて鍛錬だったか? 上手くいったのか」
「それなりにいい経験を積んだと思うぞ」
ミローとバルームは極上の経験を積めただろう。ピララも新たな場所で魔物の気配を捉える経験を積むことができた。イレアスだけが魔術師として経験不足という感じなので、また授業料を払って魔術師に講義をしてもらう必要があるとバルームは考えている。
また以前と同じ人に頼むかと考えるバルームから男は視線を外し、おやと呟く。ミローの持つ剣が増えていることに気付いたのだ。
「その剣どうしたんだ?」
男も森で地面に刺さる剣を見たことある。しかしあれとは大きさや古さといったものが異なるため、抜かれたとは気付かない。そもそも抜けるものとも思っていない。後日、森から剣がなくなっていることを知って驚くが、ミローの剣がそれと気付くことはなかった。
「森で拾ったんです」
「誰かが魔物から逃げるときに落としたか? 質的にはそこまで上等なものじゃなさそうだし、探すこともなかったんだろう」
それだけですませて会話を切り上げる。
翌日もバルームたちは鍛錬を続けて、最終日を終える。
鍛錬の残りでミローは新しい剣の扱いに慣れて、イレアスはファイアビットとファイアウォールの練習をして、ピララはスリングショットの命中率を上げる。バルームは取り戻した勘をさらに磨けるように鍛錬した。
想像とは違った形でダンジョンでの鍛錬が終わり、四人は町に帰る。
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