第111話 苦しい戦い

 一方その頃。配信にバグが生じたことなど全く知らないヴァリアンは、苦しい戦いを強いられていた。


「クソ……動きが読めない」


 太陽を拳に宿し攻撃を仕掛けるも、変則的かつ軽やかな体捌きで避けられてしまうのだ。


 しかも、無茶苦茶な体勢からの鋭いカウンターを警戒しなければいけないので、深く踏み込めない。


 大剣を自在に操る力を持ちながらも、見た目通り暗殺者のような素早い動きをする。なかなか厄介な敵である。


「持久戦になったら俺の負けだな……」


 魔力の残量を確認し、呟いた。


 想像神への変化は魔力の消費が大きい。持ってあと20分と言ったところだろうか。


 魔力ポーションがあるにはあるが……この敵が簡単に使わせてくれるとも思えない。今ある魔力しか使えないと思っておいた方がいいだろう。


 それに加えて少し怖いのが、相手が魔力を使っている形跡があまりないというところだ。


 武器と身体には黒のオーラが纏わり付いており、武器及び身体強化に魔力を使っているのがわかるが……それだけでは圧倒的にこちらより消費量が少ないだろう。


 こちらはあと20分持つかどうかなのに対し、向こうは1時間ほどは持ちそうな雰囲気がある。その証拠に、あくまで回避に徹してこちらを疲労させようとしている。


「これは……リスクを背負う必要がありそうだな」


 今までは敵の攻撃全てを避けていたが、作戦変更だ。


 ニヤついたままこちらを見るボスへと再び攻撃を仕掛け、急所を狙うカウンターは捌く。捌く。捌く。


 何度か急所へのカウンターを捌くと、敵は巧みな動きで標的をこちらの腕へと変えた。


 ここだ!


 腕を狙った横なぎ攻撃。ギリギリ避けることもできるが、ここはあえて受け止めながら前に押し進む! 


 大剣に腕を半分まで切り裂かれ、激痛が走るが……無視だ。痛がるのは今じゃない。このチャンスを逃すな!


 足に太陽を宿し、ボスにハイキックをお見舞いする。


「ゲヤッ!」


 唐突な捨身戦法に戸惑ったのか、防御が間に合わず頭を撃ち抜かれたボスは体制を崩した。


 腕が痛むが、光神の能力で勝手に癒えるので放置。即座に追撃を加える。


 殴り、斬られ、殴り、避け、蹴り、斬られ。


 どちらもダメージを負わなかった先程までより格段に速い展開。こちらが防御を捨てたことで、戦闘は激化した。


 常に相手の間合いの中で神経を尖らせ、急所への攻撃だけを上手く捌く。


 相手もこちらの戦法を理解し攻撃を避けるようになったが、3回に1回でも攻撃を当てればこちらの勝ちだ。攻撃を受けている回数はこちらの方が圧倒的に多いが、全てが回復するからだ。


「ぐっ! フッ!」


 しかし、捨身戦法は精神を削る。


 肉体の損傷は即座に回復するが、肉体を切り刻まれ続ける痛みと出血多量によって、動きが少し鈍くなってきている。


「っ! クソ!」


 また、余計な攻撃を食らってしまった


 しかし、ダメージが蓄積しているのは相手も同じ。相手は回復手段を持たない分肉体的な疲労も多いはずだ。


 肉体が常に回復しているというアドバンテージを捨てないためにも、息をする間も無く攻め続ける。


 何度殴ったのか。何度四肢を切断されたのだろうか。時間の感覚など、とうに捨て去った。痛みを忘れるために、叫ぶ。


「うおおおおおおおお!」


 あまりに激しい動作の連続に体が悲鳴をあげる。速筋繊維や神経が疲労し、全身が酸素を求めた。限界が近い。


 呼吸をするために一瞬攻撃の手を緩め、バックステップ。


 防御や回避に徹していたボスだが、まるでその瞬間を待っていたかのようにこちらの首へ鋭い攻撃を繰り出す。


「まずっ!」


 気が緩んだ隙をついた攻撃。これに当たったら首が切断されておしまいだ。だが、これを避けるのは困難。体は未だ空中にある。


【爆妖】


 刹那の判断。足元で爆発を起こし体制を無理矢理変化させ、大剣の一閃を避けた。


 完全に避けたつもりだったが、攻撃が鼻先を掠ったようだ。真っ二つに切り裂かれたゴブリンの仮面がひらひらと泳いで視界を遮る。


「っ! 邪魔!」


 この状況での盲目は致命的。一瞬の判断で仮面を引きちぎり地面に放った。



 





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