第105話 まぬけの覚醒

『え』

『え』

『え?』

『は?』

『えっぐw.w』

『やばすぎ』

『画面追いついてなくて草』

『速すぎて、なんも見えなかった……』

『気づいたら鬼の目の前にいて、しかも鬼凍ってて草』


 よかった、助けられた……。


 凍った鬼を目にしてはじめて思ったのは、能力の本当の力に気づけた嬉しさではなく、狼達を助けることができた安堵だった。


「お前たち、ありがとう」


 改めて狼たちにお礼をすると、ワッと狼たちが俺を囲むように集まり、額を擦り付けるようにして甘える。


 一応まだ戦闘中だっていうのに、可愛い奴らだ。せっかくできた少しの休養時間。戦闘の癒しを求めるように、狼たちを撫でる。


 ひとしきり撫で切った頃。ピキッ、という音が聞こえた。


『今なんかピキって言った?』

『俺も聞こえた』

『え、まさか』


「……まだ、生きていたのか」


 音源は、もちろん鬼を覆っている氷。狼たちを下がらせつつもそちらを見ると、氷の中の鬼の瞳が、じろりとこちらを向いた。


 それと同時、氷が砕け散るとともに鬼が飛び出した。怒りのままに拳を振り上げてくるが、不思議と先程までの威圧感がない。


 スキルの鎖から解放されたことで、一皮剥けたということだろうか。


 今の俺のスキルは、変化の対象が生物に限られない。


 俺の右手は、全てを溶かす【溶岩】である。


 風鬼の拳を、まるで太陽のような高温を放つ溶岩に変化した右手で受け止める。


 すると、想像していたような衝撃がこちらに伝わってこない。


 理由は単純明快だった。風鬼の肉体は、俺の右手に触れた部分から、蒸発するかのように溶かされていく。


『!?』

『!?』

『!?』

『やっば!?』

『わたがし水に入れたみたいにとけて草』


 そして風鬼は、俺に受け止められるはずだった拳が消滅してしまったことで、まるであると思っていた階段が存在せず、踏み外してしまったかのように体のバランスを崩し、頭部から溶岩の中に突っ込んでいく。


 まさかの事態に、風鬼は怒りを忘れたかのような間抜け顔。全魔界にこの光景を晒しあげるのが可哀想になるくらいの、アホ面。


 顔がマグマで消滅するのを待つまでもなく、こちらの右手から迎えにいってやる。


 ジュッ!


 そうすると、呆気なく風鬼は頭部を失った。


『強すぎwwwwwwwww』

『何があった?w』

『さっきまでの劣勢は演技?』

『いや、狼ちゃんたちやられそうになって覚醒したんやろ』

『めちゃくちゃ主人公で草』

『そもそも、あの溶岩なんの魔物?』

『確かに、ヴァリアンSランクは倒したことないって言ってたし……サラマンダーではないでしょ? じゃあなんだ?』

『また隠し種?』

『Sランクをこんな呆気なく溶かせるくらいやし、絶対Sランク魔物やろ』


 風鬼を倒してからチラリとコメントに目を向けると、今の溶岩はなんの魔物の能力なのか。という話題で盛り上がっていた。


 俺が勘違いしてスキルの詳細を伝えていたせいで、みんな勘違いしているな。真実を伝えて、驚かせてやろう。


「みなさん、俺、自分のスキルのこと勘違いしてました」


『お?』

『お?』

『なにやら、怪しい雰囲気』

『衝撃の事実発覚した?』

『あー、スキルの勘違いは割とあるよね。でも、勘違いしたままでSになったやつを俺は知らんぞwww』


「どうやら、魔物以外にも変化できるみたいです!」


『草wwwwww』

『え、結構初歩的なミス?』

『試したことなかったんかwwwwwwww』

『さっきの風鬼くらいマヌケで草』


 驚かせようとしたら、バカにされてしまった。まあ確かに異形=魔物と決めつけていたのは俺の落ち度だし、仕方ないけど……。


『ガチ草wwwwwwwwwwwwwww』

『こんなおバカなSランク見たことない』

『てか、勘違いしててあの強さやばいやろ。勘違いしてなかったらと考えると勿体なさすぎ』

『てか、そんなことよりはやく戦闘再開しろまぬけwww』


 これは言いすぎやろ……。

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