第90話 光と影

「そういえば、聞きましたよ! 狼ちゃんたち、大活躍してるそうですね!」


「そうなんだよ。思ったより繁盛してさ。おかげで、ダンジョン探索とか配信のための時間が確保できるようになって、本当にありがたいよ」


 狼達を貸し出すサービスを始めてから半年ほど。貸し出しサービスはだいぶ有名になり、さまざまなところから狼の貸し出し依頼が舞い込んでくるようになった。


 おかげでかなり収入が入るようになり、狼達の食費問題もだいぶ解決した。なので、心置きなく配信やダンジョン探索ができるようになったというわけだ。ありがてぇ。


「うふふ。うちの店でも、また狼ちゃんを借りたいってお母さんが言ってましたよ。狼ちゃん達がいると、お客さんがいつもより沢山来てくれるんです! 」


「なるほど、そういう効果もあるんだね。このお店にはミレーナさんがいるのに、なんで護衛が必要なんだろうって前から思ってたんだ。」


 日々の食事や経験ででどんどん強くなっていっている狼達は、今や全員がBランク以上の力を持っていると言っても過言ではないだろう。


 Bランク相当の護衛とは魅力的なもので、防犯面などが心配な飲食店や貴金属を扱う店から貸し出し依頼が届くことは多い。


 しかし、このお店にはミレーナさんが居るからな……。


 ミレーナさんかなり強面でガタイもいいし、何より元Aランクの冒険者だ。護衛なんか必要ないだろうと思っていたのだが、客引きに使っていたのか。なるほどな。


「アタシがいるから護衛がいらないって? あんた、そいつはどういうことだい?」


「!?……あはは、冗談に決まってるじゃないですか」


「ったく。いつのまにか生意気な口を聞くようになりやがって」

 

 危ない危ない。まさか本人に聞かれていたとは。前から思っていたが、この人かなりの地獄耳だろ。エレナちゃんと話していると、いつのまにやら会話の内容を聞きつけて会話に参加してくるし。


 「生意気な口を聞くようになった」か。それは、それだけ心を開いている証だと思っていただきたいものだ。ミレーナさんだって、どんどん口が悪くなってきてるし。


 しかし、ここに通い始めてもう1年くらいは経つのではないだろうか。狼達の件で大変だった時も週4くらいで通っていたし、もう常連と呼んでもらっていいだろう。


 そのくらいこの店にも、街にも、それこそ魔界にも馴染んできた。だからこそ、迷っている。


 Sランクになった今、人間界に戻るべきなのかを。


 



 















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