第89話 進化とアホ

 初めてウルフが進化した日から1ヶ月後。


 宝石類の原石を食事と一緒に与えることで、回復魔法を使えるダイヤウルフ、水魔法のサファイアウルフ、闇魔法のアメジストウルフなど、特殊能力持ちのウルフを増やすことに成功した。


 それぞれが使える能力もそこそこ強力で、中でもダイヤウルフの回復魔法はAランクの魔物に匹敵するだろう。流石に戦闘力はDランク程度だけどな。


 サファイアウルフとアメジストウルフの戦闘力もCランク程度はあるし、近場にサファイアとアメジストの採れるダンジョンがあったので増やすのも容易く、それぞれ20体ずつほど進化させることができた。


 サファイアやアメジストと比べるとダイヤモンドは貴重なので、ダイヤウルフは3体しか居ない。しかし、それでもウルフ達の戦力はかなり上昇したと言えるだろう。俺1人で340体の回復は流石に無理があるからな。


 そんなわけで、つい浮かれてウルフ達を沢山進化させてしまったわけだが、食事の面で事件が発生した。


 進化したウルフ達は高価な宝石類を主食とするため、食費がハンパないのだ。


 鉄、銀、金、ルビー、サファイア、アメジスト。これらは近場にあるダンジョンにて得ることができるが、ダイヤモンドだけはショップやらで購入し、手に入れる必要があった。


「ダイヤモンドが取れるダンジョンは珍しいからな……」


 ダンジョンに潜って金を稼げばダイヤウルフ3体分の食費くらいは賄えるのだが、他のウルフの食料を調達する時点でかなり精一杯。


 ダイヤモンドを買うための金稼ぎに使う時間があまりないのだ。それに、金を稼がずに食事を買い続ければ、貯金の3億ゴールドもいつかは尽きてしまうだろう。


 少し考えればこうなることは分かっていたはずなのに、軽率に進化させてしまった俺は大馬鹿者である。


 狼たちを進化させるところや、食料集めに必死になっているところなどを動画として投稿してみたところ『バカだろこいつwww』『流石に草』『毎食この量のダイヤモンド食うのはシャレにならん』『ちゃんと食わせてあげられるん?』など、馬鹿にするコメントが沢山寄せられた。完全に自業自得である。


 コメントにもあった通り、進化させたのは俺のだからしっかりと毎食食料を用意する義務がある。


 そこで、どうにか食費を稼ぐために狼たちを労働力として貸し出す商売を始めた。


 ダンジョン探索には430体も要らないからな。100体でも多いし、実際は40体くらいで十分なのだ。


 今日も、これから狼たちを貸しに行くところである。


「こんにちは〜」


「あっ! ヴァリアンさん! 早めにきてくれて助かったわ! 今日は救急の怪我人が多くて……」

 

「本当ですか? たまたま早く来ちゃったんですが、それならよかったです」


 貸し出し先の1箇所目。ここは、ダンジョン都市の治療棟である。正式名称はなんて言うのか知らないが、怪我人や病人を治療する場所である事だけは知っている。


 ここには、回復魔法を使えるダイヤウルフを1体と、その護衛としてルビーウルフ1体、サファイアウルフ1体、アメジストウルフ1体とゴールド、シルバー、アイアンウルフを3体ずつの合計13体を置いていく。


 これだけ多くの魔物が治療棟に居るのは本来ありえないことであり、自分が治療を受けに行く立場ならビビってしまいそうである。


 しかし、懐柔契約の証である緑の布。これの信頼度はものすごく高いらしく、狼たちも信用され、護衛の狼もろとも可愛がられていた。


「今日も18時に迎えに来ますので、それまでよろしくお願いします。」


 治療棟の関係者にそう告げた後、狼達の首に食料の入ったポーチを掛け、次の場所へ向かった。


 王都の治療棟にダイヤウルフと護衛を。土木工事現場にトパーズウルフと護衛を。冒険者にはエメラルドウルフと護衛を貸し出していく。


 ダンジョンという危険地帯に潜る冒険者達にウルフを貸すのは非常に心配ではあるのだが、バフや回復の支援しかさせないこと、危険な目に合わせない事などを魔法契約書を用いて契約している。


 それに、狼たちにも何かあったら緑の布に魔力を通して俺に合図を送るように指示している。すぐに駆けつけられる場所にしか貸し出して居ないので、滅多に危険な目には遭わないはずだ。


 ダンジョンに行くエメラルドウルフには、30体の護衛を付けているしね。戦闘力もかなり高いし、安心していいはずだ。


 さて、時刻は8時か。ウルフたちの食料を確保するため、今日もダンジョン探索を始めよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る