第74話 ギラギラ店員と狂ったおじさん

 さて、買い物は終わった訳だが、この商会でやることはもう一つある。


 なにやら、ここは魔物の素材の買取を行なっているらしい。そこで、大量に余っている毒龍の素材を少し売ることにしようと考えたのだ。


 ショップにも少しずつ流してはいるが、一度に大量に売りに出すと転売屋値崩れが起こる可能性があるので、まだまだ残ってしまっているのだ。


 俺個人では使い味のないものだし、さっさと売り払ってしまいたい。


 ということで、買い物エリアの2階からおさらばし、3階にある売却用エリアに向かった。


 お、どうやらこっちは空いているようだな。買取用の受付がいくつも空いているのを確認し、どのレジに行くか迷った。


 空いている状態でどのレジに来るかわからず、全ての店員さんから視線を受けるこの時間。とても気まずいし苦痛である。


 その視線を少しでも軽減させるため、一番端の男性の受付へと直進した。


「すみません、買取をお願いします」


「はい、いらっしゃいませ。こちら魔物の素材売却用の受付ですがお間違いないですか?」


「はい、大丈夫です」


 あっっっぶねぇ……。何も考えずにここの受付に来てしまった訳だが、ちらっと上を見ると【魔物の素材売却受付】だとか【貴金属売却受付】だとかの看板が、それぞれの受付に付いているのが見えた。


 運良く魔物の素材売却用の場所を引き当てられてよかった。数日分の運を使い果たした気がするぜ……。


 いや、もしかすると、転けた彼の荷物を助けたことやレジを譲ったことにより起きた奇跡なのではないだろうか。やはり、善行はしておくものである。


 その後も店員さんの指示に従いながら売却手続きを行なっていく。


 売るのに手続きとは何ぞや?と思う方もいるかもしれないが、この手続きを行うと一時的に街中であってもストレージが使えるようになるのだ。


 当然毒龍の素材はストレージの中なので、必須手続きである。そんなこんなで手続きを終え、売却する素材を専用の箱の中に入れていく。


 毒のダンジョンで獲得した素材をどんどん取り出して箱庭入れていく。


 毒系の魔物の素材は珍しいためか、店員さんが物珍しいものを見たような顔で素材を見つめていた。


 どんどん素材を入れていき、毒龍の素材を取り出したタイミングで、店員さんの顔色がガラッと変わった。


 毒龍0.3体分ほどを出し終え、素材を取り出す手を止めた。すると、恐る恐るといった感じで店員さんが口を開く。


「あの……もしかして、毒龍の血を大量に配布したヴァリアン様でいらっしゃいますか?」


「え……あ、はい。そうですけど、何かありましたか?」


 おお、まさかここでも声をかけられるとは思わなかった。まあ、このタイミングで毒龍の素材をこんだけ売りに来たらわかる人はわかるか。


 売りに出したのはたったの0.3体分だけである。しかし、本来なら戦闘中に傷つけたり破損させたりで売却できない部分も多く、1体を丸々売りに出しても、買取可能部分は同じくらいの量になるはずだ。


 つまり、今俺は大量の毒龍の素材を1人で売りに来た客だと認識されており、しかもこの特徴的なゴブリンの仮面をしているため、今軽く話題になっている毒龍の人だとバレたのだろう。


「やはりそうでしたか! 今ってお時間大丈夫でょうか? ぜひ、商会長とお会いいただきたいのですが……」


「えーっと、時間は大丈夫ですが……商会長ですか?」


「ええ、商会長の1人娘であるクレアお嬢様が、ヴァリアン様の手によって救われたのです! 」


 ぜひ、お礼をさせていただきたいということで、長らくヴァリアン様を探しておられました。と続けて言った。


 なるほど、商会長の娘が治療薬のおかげで助かったんだな。わざわざお礼なんてしてくれなくてもいいのだが、時間も余裕があるし会っていこうか。


 決して、この店員さんのギラギラした笑顔の圧が怖くて会うことにしたわけではない。


 商会長に会うことを了承すると、4階にある会長室へと案内された。なんでも、来客は伝えてあるので自由に入っていいらしい。


 少し緊張しつつも、ドアをノックした後に開く。


 気配を感じて下へ視線を向ける。するとそこには、土下座したおじさんの姿があった。


 いや……なんのドッキリ?

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