第67話 胃痛と癒し

「うう……胃が痛い」 


 ガルフさんの店から速攻で帰宅したわけだが、緊張からかいまだに震えていた。 


 ガルフさんが冗談で言っていただけで、表彰なんて無いかもしれないのに。 自分が想像するだけでこんなにも緊張できる人間だとは思っていなかったな。


 また一つ自分について知れたぜ!……空元気を出しても虚しくなるだけだ。表彰があるのが本当なら、さっさと連絡をくれよ。そして、色々と相談させてくれ。うう……胃が。


【天使】


 ストレスが一気に蓄積したせいだろうか。胃がズキズキと痛むので回復しておく。


 天使の癒しにより胃の痛みはすっと引いたが、俺の心の痛みは取り払ってくれなかったようだ。 


 未だにドクドクと強い心音が聞こえるし、本番でやらかした時のことを想像すれば、すぐに冷や汗が出てくる。


 もう時間帯的には食事をする時間だが、何も口にする気にならなかった。


 シャカシャカシャカシャカ


 心を無にして特性ドリンクだけ胃に流し込み、筋肉が分解されるのを抑制すると共に、健康を維持する。


 あぁ、このマズさが染みるぜ。表彰という非日常による攻撃を受けているこの心身に、日常のクソまずい味が癒しを与えてくれる。 


 まさか、このドリンクに癒しを与えられる日が来るとはな。


「癒やし……癒やしか」


 癒しといえば、女の子か食事か風呂だろう。食事は今特性ドリンクを飲むことで済ませたし、俺を癒やしてくれる女の子なんて存在しない。


 あぁ、辛い。さらに辛くなってきた。どうして癒やしを考えて心を削られないといけないのだろうか。


 せっかくスキルを受け入れてくれる魔界に来たんだ。どうか、この俺にも出会いを与えてください。この、気持ち悪いゴブリンの仮面をかぶってる俺にも……。








♢♢♢♢♢♢



 そう、癒しといえば風呂一択だろう。湯船に浸かってリラックスすれば、心も晴れるかも知れない。


 人間が想像する魔界の大地のように、深く荒んだ俺の心を平にするような、そんな強大なる癒しを求め、足早に風呂場へ向かった。



【癒石像魚獅子】



 ヒーリングマーライオンに変化し、口から癒しの水を吐き出して浴槽に溜めていく。 


 口から出た水に浸かる絵面は地獄のようだが、石像なので清潔だと言っておく。 


 それに、普通の風呂よりも浸かっていて気持ちがいいのだ。全身がとろけたような感覚に陥ることができ、果てしない癒しを与えてくれる。


【不完全不死鳥】


 肩まで浸かれるくらい水が溜まったら、ここにミスフェニックスの炎を少量ぶち込んで、40℃まで温度を上昇させる。


 ミスフェニックスは、フェニックスの下位互換のような魔物である。再生能力はフェニックスにも劣らないが、纏う炎の量や火力が劣る。


 つまり、風呂を沸かす火としては申し分ないというわけだ。この炎もお湯に再生効果を加えてくれるので、さらに癒し成分で気持ちよくなれるというわけである。

 

 さ、全身をスライムで綺麗にしたら、早速浸かって癒されようじゃないか。


 男1人の入浴シーンなんてみんな興味がないだろう。寂しいが、割愛させてもらうよ。


 あぁ、また辛くなってきた。全然癒されねぇ……。






あとがき

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