第64話 久々の飯屋とファンの喜び
疲れを取るためにも湯船に浸かりたいところだが、今は食事が優先だな。身体中をスライムで綺麗にしてから外に繰り出した。
目的地はもちろんミレーナさんとエレナちゃんの飯屋である。
通いすぎだって?バカ言え、安くて美味い上にバリエーションだって多い。それに、仲良くしてくれる可愛い看板娘さんもいるのだ。通わない方がおかしいというものだろう。
今日のおすすめは何かなとウキウキしながら飯屋への道を行く。かなり人通りの多い道を歩いている分けだが、いつもより多くの視線を感じた。
「あの仮面、例のあの人じゃない?」
「え! あの毒龍の?」
「そうそう! あの人、クリーニング屋さんしてた人でしょ?確か、名前もヴァリアンだった気がするんだよね」
「えー! 嘘! やばっ!」
ふふふ、どうやらこの街にも俺の噂が流れてきているようだな。昨日の毒龍の影響力は思ったより大きいようだ。
そもそも、名声値Aランクって普通にすごいんだからな。元々Gランク帯を彷徨っていた自分からすると尚更である。
少し人気者になったことを実感し、ニヨニヨとニヤけてしまう。仮面をしていてよかった。素顔を見られていたら、ドン引きされて変な噂が広まるところだったな。
そんなこんなで飯屋に到着する。
早速店内に入ると、雑巾片手に店内を拭きまわっていたエレナちゃんと目があった。すると、常にスマイル満点で、看板娘として満点なエレナちゃんの笑顔がさらに花開いた。
やはり、常連が来店すると嬉しいものなのだろう。まだここに来て1ヶ月程なので、常連と言っていいかはわからないがな。
「あ、ヴァリアンさん! いらっしゃいませ! お久しぶりです!」
「久しぶりエレナちゃん。最近はちょっと忙しくて、なかなか来れなくてごめんね」
「毒龍の件ですよね! 私も動画見ました! 」
机を拭く手を止めてこちらにお辞儀した後、テーブル拭きを再開しながらこちらと目を合わせて話すという器用なことをやってのけた。
おそらく、この店を1番歩き回っている人間だからな。テーブルや椅子、窓の位置などが全て無意識に認識できているのだろう。
子供なのに相変わらずの働きっぷりに賞賛の気持ちを送りつつ、会話を続ける。
どうやら、エレナちゃんも毒龍の動画を知ってくれているらしい。ついつい顔がにやける。
「本当?嬉しいなぁ」
「私を助けてくれた時にものすごいスピードで移動してたので、強いんだろうなぁとは思っていたんですけど、まさかあんなに強いとは思いませんでしたよ! 」
「ははは。強くなってきたのも、動画を見てくれるみんなのおかげだよ」
これは本音である。褒められるのはもちろん嬉しいが、Gランク時代が長かった自分としてはファンのみんなのおかげだと思わざるを得ない。
つまり、俺が褒められているのは俺のファンが褒められているようなものだ。きっと、今回のことで古参のみんなも誇らしい気分になってくれたことだろう。
フーミンが『Sランク達成! 喜びの千手観音』という動画をアップした時、こちらまで嬉しい気分になったし「俺たち1人1人がいなかったらフーミンはSランクになっていなかった。つまり、Sランクになったのは俺のおかげだ!」なんてふざけたことを思ったこともある。
推しの配信者が名声を上げるということは、視聴者からしてそれほど喜ばしく誇らしいことなのだ。
「あ! もちろん私もファン登録しましたよ! あと、お母さんもしてたし、常連のみんなも!」
「え! 本当に!? めちゃくちゃ嬉しい!」
「ふふふっ。もうAランクなんですよね?ファンが数人増えただけで喜ぶAランクなんて見たことないですよぉ」
Gランク歴が長かったせいか、ファンが1人増えるだけでもめちゃくちゃ嬉しいんだよな。
暇な時はファン数の変化を見たり動画のコメント欄を見たりしてしまうくらいだ。
「今日もおすすめかい?」
それから少し雑談をしていると、エレナちゃんの母であるミレーナさんがキッチンから現れた。
「あ、ミレーナさん! こんにちは、お久しぶりです。もちろん今日もおすすめをいただきます!」
「あいよ! ちょっと待ってな!」
本来、料理人が直接注文を取りに来ることなどないとは思うが、俺の声が聞こえるとたまにこうして表に出てきてくれるんだよな。
ミレーナさんにも気に入ってもらえてるというふうに捉えてもいいんだろうか。
それはともかく、今日のおすすめはコロッケ定食か。美味そうだ。
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