第35話 脱毛と禁忌
魔法契約書を持って執事が退出し、ようやく脱毛を行なっていく雰囲気になった。
もう呪いについての心配はないはずだが、先に受けたがっている娘の気持ちを汲んだのか、まずは娘のほうから呪いをかけることになった。
「それではベットにでも横になってもらってよろしいですか?」
「べ、べっと!?」
呪いをかけるのも簡単じゃない。長い時間になると思うし、疲れると思ったからどこかに寝転がることを提案したが、変な風に受け取られてしまったようだ。
顔を真っ赤にして叫んだかと思うと、俯いてぶつぶつと独り言をこぼしている。
「顔もわからない男の人とベッドなんて……そもそも、私まだ未婚なのに。このことが知れたら、貰い手がいなくなってしまうわ。そ、それに、同じベッドに男女が2人だなんて、は、ハレンチだわ……」
何を言っているのかわからないが、早いところ誤解を解いておかないとな。
「失礼いたしました。施術が長くなると思いますので、楽な体制になれる場所にと思ったのですが。ソファーでも立っていてもなんでもいいんですが、どうされますか?」
「べ、ベッドで構いません!ソファーは寝心地が悪そうですし、構いませんわ……」
そう言って、そさくさとベッドに横になった。はぁ、やっと施術ができるな。早いところ終わらせて帰ろう。
ちなみに、なぜ時間がかかるのかというと、体全体に呪いをかけるわけではないので、直接呪いをかける部位に触れる必要があるからだ。
こちらも説明し、同意済みである。
「それでは、失礼します」
【毛抜きのリリィの左手】【聖熊の右手】
左手をリリィに、右手を聖熊へと変化させた。事前に説明はしたが、やはり魔物に変化するというのは驚かれるようだ。しかし、魔力の問題もある。反応を無視してどんどんやっていこう。
まずは腕から順に体全体を撫で、呪いをかけていく。チクチクという感覚を感じながら、手早く終わらせていく。
たしかに、今朝剃ったと言っていたのにこれだけ生えているというのだから、男性並みの毛の成長速度と強さだな。
女性のムダ毛問題に男は厳しかったりするし、毎日大変だろうな。
「とりあえず、腕は終わりました。いかがですか?」
ひとまず腕が終わったので、一応確認のために声をかける。
「すごい! 撫でると毛がほろほろと抜け落ちて行って、チクチクもしないし、内部の毛が透けて見える事もないわ!」
この調子でどんどんやってくれとのことなので、段々と呪いをかけていくが……問題発生。
これは全身の脱毛をする流れだが、背中やお腹も際どい。さらには胸なんて触れるはずもない。相手は未婚の貴族だぞ……。
やってしまった……。それも2人分も。毛深いことがどれほど大変なのか。その壮絶なエピソードを聞いたら可哀想でもう……。
決して、お金に釣られたわけではない。
証拠に、VIOだけはどれだけお金を積まれても断った。流石に不味すぎるからな。
「本当にありがとうございます!報酬は期待しておいてくださいね」
何度目の感謝の言葉だろうか。鬱陶しいほどにお礼を言われている。
まだ呪いの効力をしっかりと感じていないはずなのに、これで明日にでも毛が生えてきたらどうするつもりなのだろうか。俺は殺されてしまうのではないか。
ひとまず、3日くらい経過を見てもらい、それでも生える気配がなかったら報酬を振り込んでもらうことにした。
いろいろと触ることになってしまった罪悪感からか、足早に屋敷を去った。冒険者ギルドに依頼達成の報告に行って、さっさと家に帰って寝よう。
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