『仲間』から『恋人』になったクォーターエルフの魔法使いがひたすら可愛い! そして、Aランクパーティーの円満解散を機に二人旅を始めることにした!

春一

第0話 仲間

 出会った当初は、生意気で高慢で口うるさい、いけ好かない幼女だと思っていた。


『パーティーを組んだ以上、最低限のサポートはしますけど、勘違いしないでくださいね? 人間的にはあなたのことを嫌いですし、プライベートでは決して関わってこないでください』


 面と向かってそんなことを言われたこともある。

 パーティーには五人いたのだが、俺たち二人の仲がすこぶる悪いので、初期は何かと足を引っ張っていた。

 本来なら、一番最後の加入者であり、かつ単独では一番足手まといだった俺が追い出されてしかるべきだが、リーダーはそうしなかった。

 今になって思えば、俺たちはまだ十四歳で、お互いに幼稚な喧嘩をしあう相手が必要だったのだろうと思う。半端に大人ぶっているだけではダメで、ガキっぽい衝突をすることで成長する時期だったのだと。

 それを見抜いていたからこそ、リーダーは俺を追放せず、さらには、俺たち二人をよくセットにしていたのだ。

 その選択は、きっと間違いなんかじゃなかった。

 なぜなら。


「レイリス! 敵の動きが鈍ってきました! そろそろ仕留めましょう! わたしが隙を作るので、後は任せます!」

「了解! 任せろ、トーチカ!」

翠玉の瞳エメラルド・アイズ!」


 昔はいけ好かない幼女と思っていたクォーターエルフ、トーチカ・リムラルの詠唱で、巨大な赤竜の周りに無数の球体が発生。翠玉色のそれらが弾け、猛烈な風の刃となって赤竜を襲う。

 並のモンスターなら粉みじんになるところだが、赤竜の硬い鱗には傷を付けられない。

 それでも、弱ってきた赤竜のバランスを崩すことはできて、数瞬の隙が生まれた。

 トーチカの魔法で身体能力を強化された俺なら、僅かな隙があれば接近して斬撃を見舞える。


「ふっ」


 一瞬で距離を詰め、赤竜を射程内に入れる。

 赤竜が、風に翻弄されながらも俺を攻撃しようと口を開く。が、その口から炎が吹き出そうとする寸前で、俺の周りに防御壁が展開。

 赤竜の炎が霧散し、俺は悠々と赤竜の首に一太刀浴びせることができた。

 黒凰こくおうつるぎは、頑丈な赤竜の鱗でも抵抗なく切り裂くことができる。いや、俺の腕も多少はあると思うんだぜ?

 そして、この剣の特殊効果もあって、樹齢数百年の大樹みたいな首を、一撃で斬り落とすことができた。討伐完了だ。

 本来なら強敵であるはずの、Bランクモンスターの赤竜。俺とトーチカの二人からすると、決して脅威ではない。

 赤竜を倒すことより、赤竜が住みつき始めたデュライ山までやってくる方が大変だったかもしれない。移動時間の方が圧倒的に長かった。

 さておき。


「ありがとよ、トーチカ!」


 トーチカの元に帰り、お互いに右手を挙げてパンと叩き合う。


「いーえ、これくらいは当然ですよ。ちなみに、向こうの三人も片づきました。わたしのサポートのおかげでスムーズでしたよ」

「……わかってるよ」


 クエストの内容は、赤竜二体の討伐。

 一体だけならまだしも、二体を同時に倒せる強者は少ない。

 そして、俺たち紅蓮の流星クリムゾン・スターは、その数少ない強者パーティーの一つ。俺が加入してから四年、めきめきと力を付けて、一ヶ月前にAランクに格上げされた。

 その要となっているのは、残念ながら俺ではなく、この優秀な魔法使いであるトーチカ。攻撃、補助、回復と何でもこなす凄腕だ。

 しかも、俺のサポートをメインで行いつつ、さらに他の三人がもう一体と戦っているのをサポートする二重の活躍。俺には到底及ばない領域に達している。


 見た目はまだ十三、四程度の美少女だが、実年齢は俺と同じ十八歳。背中にかかるくらいの銀髪と、翠玉色の瞳、そして、ほんのりと尖った耳が特徴的。母親がハーフエルフだとかで、ちょっとだけエルフの血が混じっている。見た目の年齢が人間より若いのはそのせいだ。


「トーチカがいなきゃ、俺はぎりぎりBランクで、魔法具頼りの一剣士。トーチカ様々だよ」

「レイリスには、わたしがいないとダメっていうことですね」

「意味深な言い方すんなよ。でも、マジでそれだわ」

「ふふ。でも、わたしがサポートに専念できるのは、レイリスが前線で体を張って戦ってくれるからです。それに、一撃に込められる最大の威力は、レイリスの方が上ですよ」

「嬉しいことを言ってくれるね」

「単なる事実ですから。ま、広範囲攻撃となると、わたしに分がありますけどね?」

「んなことわかってるよ」

「わかってればいいんです」


 不敵に笑うトーチカ。

 当初の最悪の状態から、四年間でよくもまぁここまで信頼できる仲間になれたもんだ。

 俺とトーチカだけでは、決してこの関係は築けなかった。

 他のメンバーがいてくれなかったら、喧嘩別れして終わっていただろう。


「おーい、怪我がないなら、これから楽しい楽しい解体作業だぞー。手伝えー」


 一番世話になった、リーダーのガーグ・ケンドラーが俺たちを呼んでいる。

 斧を使う筋骨隆々の巨漢で、俺に冒険者のなんたるかを叩き込んでくれた恩人だ。赤銅の髪に無骨な顔をしていて、年齢は三十二歳。


「へーい、今行きますよー」


 解体なんて本当は実に面倒くさい作業だが、このパーティーでやると案外楽しめる。

 そこで、ふとトーチカが首を傾げる。


「……んん?」

「ん? どうした? トーチカ」

「あ、その……。アーリアさんが……いえ、なんでもないですね」


 アーリア・フェイムは槍使いで、二十代半ばの美女。長い金髪を一つに束ね、きりりとした佇まいが美しい。

 ちなみに、その隣にいるのは、猫の獣人、ロギルス・アーノ。短めの青髪に、黄色い瞳をしたしなやかな印象の女性。年齢は二十歳。斥候や俊敏な動きが得意で、武器は双剣。

 ロギルスはさておき、アーリアさんの方を見ても、特にいつもと変わらない様子だが……?


「怪我でもしてるのか? 診てやったら?」

「……いえ、なんでもないです。食べ過ぎでお腹でも痛かったのかもしれませんね」

「ふぅん。そっか」


 トーチカが何を思ったのかはわからないが、問題がなさそうならいいか。

 ともあれ、俺たちは赤竜の解体作業に入る。

 素材の全てを持ち帰るのは無理だが、ガーグさんの持つ収納バッグ、トーチカの魔法、そして各自の腕力を駆使して、ある程度は持ち帰れる。

 残りは、運び屋に依頼することになるかな。俺たちの報酬は減るけれど、放置するよりはマシだ。


「さーて、帰還までがクエストだ。気を抜かずに頑張ろー」

「既に気が抜けた感じがしますよ? 大丈夫ですか?」

「ふぐ。……失礼しやしたー」

「全く、わたしがいないとダメな人ですね」

「ごもっとも。頼りにしてるぜ、本当に」

「……ええ」


 笑いかけると、トーチカがほんのりと顔を赤らめたような……気のせいかな。

 戦闘の直後だし、高揚しているのだろう。きっと。

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