【短編小説】初めてのバレンタインチョコ
進藤 進
第一章 掲示板
僕が教室に入ると、入口のそばに人だかりがしていた。
学ラン学生服と青いブレザーの少女達。
あの頃の僕が通う中学校の制服だ。
僕は駅伝の試合の後、疲れた身体を引きずるように学校に戻ったところだった。
選抜試合の代表で遂さっきまで、他校での競争を終えた。
本来はバスケ部なのだが、長距離が得意な僕は陸上部の助っ人として試合に出場していた。
結果は僕達の学校が優勝した。
最後にアンカーの竹内が見事に抜き去って僅差の優勝だった。
歓びに沸くメンバー達を残して、僕は自分の学校に戻ることにした。
その理由は、後で説明するけど。
駅伝のメンバーのラインアップで、僕は第一走をまかされた。
陸上の経験が無い僕のことを案じて監督が決めたのかもしれない。
よくは分からなかったけど、普段から体育会系のクラブでしごかれていたので、ひたすら走っていたら何時の間にかトップ争いをしていた。
横に並んで荒い息を吐く坊主頭の奴が普段、バスケットの試合で地区大会の決勝戦で見慣れた顔だったのは意外というか、納得がいくものだった。
「はぁっ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・。」
限界に近い走りは、僕の息を吐くリズムを徐々に壊していった。
「ひぃっ・・・はひぃっ・・・くぅっ・・ひいっ・・・。」
文字だけ見ると、まるで安物の官能小説のように、僕は身もだえながら最後の数百メートルを全力疾走していた。
大人になった今の僕が思い返す度に、よくもあれだけ走れたものだと、感心するほどのものだった。
大げさでもなんでもなく、心臓は破裂しそうで吸い込む息の中にヘモグロミン等、存在するわけがないと思うほど、激しく出し入れする呼吸は正直、薄すぎて何の助けにはなりはしないと思ったほどだ。
人生の中で、一番の全力疾走だったのかもしれない。
でも、霞む意識の中で僕の脳裏に浮かんでいたのは天使の笑顔だった。
ぷっくりした唇が、少し開かれた隙間から覗く白い歯。
重そうな二重瞼から、キラキラ光る粒がいくつも宿っている大きな瞳。
僕が大好きな少女の顔だ。
ゴールテープは用意されていない、第二中継所に向かって走る僕の視界の先には、その天使が微笑んでいたんだ。
だから。
僕はありったけの力を振り絞り、タスキを握った右手を懸命に振っていたんだ。
絶対、区間賞を取ってやる。
約束をした訳ではないけれど。
僕の天使に。
プレゼントするために。
疾走するアスファルトがグレーな色で続いていく。
僕のゴールは、すぐそこに迫っていた。
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