2-10 京都




「きみ、……なるほど、どこかで見覚えがあるかと思ったら、龍未が話してた遠縁の子か」

「え? タツミくんと知り合いなんですか」

「あぁ、アイツが京都にいた頃に少しな。最近は電話やメッセージぐらいでしか遣り取りしてないが、元気か」

「ん~。私にもっと遅く帰ってもいいんだよって不良になることを推奨してきました」

「相変わらずチャランポランなことを言っているのかアイツは。俺が初めて会った時もアイツは夜間外出の禁止令が出てるなかで深夜の京都市内をヘラヘラしながらふらついてたからな。それでいつもあの少女に叱られていて……あぁそうだ。彼女はたしかこの街の大学に進学したんだったか」

「もしかして、むぎちゃんのことですか。やっぱり、昔からむぎちゃんのこと困らせてたんですね。タツミくんって」

 リョウが呆れを含んだ息を吐くと、桔梗の父親はやはり娘とそっくりなぎこちない微かな笑みを見せた。

「まぁ、アイツがいなかったら、京都は今でも封鎖地区だらけのままだっただろうから、あれぐらい馬鹿みたいに好き勝手に暴れ回ってくれたのは、今思えばよかったのかもな」

 封鎖地区。その言葉によって、リョウの感覚にノイズが走った。

 あれ、と首を傾げたリョウは片目の視界を手で隠すが、特に視界に異常はない。しかし、頭の中で靄がかかるような、何とも言えない不快な心地は、彼女の顔を顰めさせるには十分だった。

 何でこんな言葉に反応したんだろう。私、京都行ったことないのに。京都って、むぎちゃんとタツミくんが高校生まで住んでいた場所で、それから……あぁ、そうだ。姉さんが一時期住んでたんだ。たしか、仕事の都合で、あとそれから、

……あと、もう一人、誰かが住んでいたような──、

「もう、お父さんが昔の話したせいで、リョウちゃんが困った顔してる。お父さんの武勇伝とか、若い子は興味ないから」

「あぁ、悪い。あまり面白い話ではなかったな」

 桔梗の涼やかな声で、靄が立ち消えたリョウは首を振り、不快感を深めてしまう思考を止めた。

「いえ、タツミくんもむぎちゃんも、昔の話あんまりしないから、面白かったです」

「そうか? まぁ龍未がどれだけアホなことばかりしていたのかぐらいはいつでも話すが……」

「今日はダメ。リョウちゃんは、私とお菓子パーティするの」

 紅茶冷めちゃうし、早く私の部屋行こ。と桔梗は紅茶を注いだカップアンドソーサーを二客と、家に常備してある茶菓子をいくつか乗せたトレイを持つと、リョウを自分の部屋に連れて行く。

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