十月一日1000~1018

ズラリと並んだ白い制服、白い靴と黒い靴、それに世情を鑑みての白いマスク。最後の晴れ舞台の前に同じバースにいる後輩を呼びに二本煙突の艇に近づく。

「宮仁君、宮仁君」

「なんですか?」

改まった呼び方をすれば【みやじま】は怪訝そうな顔をしながら俺達の顔を見る。

「そんな顔するなよ、一緒に見よ?」

「宮は101掃だからな」

そう言って俺と【ながしま】で挟んで艦尾がよく見える、かつ報道陣のカメラには映らない端っこに陣取った。

「もっと落ち着いて見たいんだけど」

「まあ、そう言うな。ほら旗下ろすぞ」

音楽隊の奏でる君が代に合わせてゆげしまとながしまの自衛艦旗が同時に下ろされる。索から外された旗が三角に畳まれるのを待って、乗員退艦の号令がかかり、今度は軍艦マーチで旗を殿にして降りていく。旗を掲げた乗員が舷梯からバースに降り立てば、ふっと肩が軽くなった気がした。

「これが自衛艦旗の重みってやつかな」

「そうかもね」

「そうなの?」

「宮もそう遠くない先に分かるんじゃない?」

「適当だなあ」

二隻の乗員が一緒に並び総監から同じ訓示をうける、その姿を見てふと思い出す。

「配属待ちの二週間。【ながしま】を待ってたあの時が人生で一番長かった」

「あの時は待たせてごめん」

「なにそれ? 初耳なんだけど」

二十四年越しに申し訳なさそうな顔をする【ながしま】と、初めて耳にした事実に目を丸くする【みやじま】の対比がなかなかに面白い構図になっている。

「宮には後で教えてやる。ほら、もう終わるぞ」

乗員たちの新たな出港を祝う厳かな雰囲気の中、誰もが一度は耳にした曲が奏でられる。

「……これ、選曲したの誰ですか?」

「さあな」

「宇宙掃海艇とか面白いだろ」

勇ましい曲の中で遠ざかり小さくなる靴音と白い背中を見送る。全ての工程が終われば、音楽隊がテキパキと後片付けを始めていた。

「長哉行くぞ」

長哉は頷き小走りでバースを後にする。【みやじま】はついては来ないようだ。二人で揃って物陰に入り、呼吸を整え一歩踏み出す。水の膜を破るような感覚と共に目を開けば俺達の住処【道】だ。そして改めて長哉に向きあう。

「俺はあの時ひとりにされるかと思った」

「俺は就役できないんじゃないかと思った」

お互いにそう言って笑えば、二十四年前に戻ったような気持ちになった。俺が長哉の左肩に右手を置くと、長哉も俺の左肩に右手を置く。

「でも、最後は一緒だ」

「そうだね」

俺が長哉の、長哉が俺の、艦艇を司る【艦霊】である証の肩章を外す。

「お疲れ様」

「ありがとう」


長くて短い生涯の半分を共にした君と。

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