八月三日1103~1125

花火大会も祭りもない夏に蝉が鳴く。ペンキで塗ったかのように真っ青な空に向かって黒煙を吐き出す煙突を見ながら、弓哉は上甲板のマストにもたれ掛かる。岸壁の目の前の大和波止場や大和ミュージアム付近では、疎らな観光客に混じり、少々熱のこもった見送り人の姿も見える。

「相変わらず、すごいな。連絡網でもあるのか?」

弓哉の苦笑に返事をするように機関が唸り、海面が揺れ、少しだけ後進するればあとは前へと波を切って進んでいくだけだ。いつものようにHバースを離れる。いつもと違うのはもう二度とここに戻ってくる艇はいないということだけだ。呉総監にJMU、【かが】をはじめとした自分よりも大きな艦を見ながら、馴染んだ港を低速でいく。自分の立てた波にほんの少しだけだが揺られる大型艦を見るのはなかなかに愉快だ。右手に佇む【ちはや】横目に通り過ぎればあっという間に目的バース、もやいをかけるビットがすぐそこに見える。にわかに甲板が騒がしくなり、入港の準備が進む。ピーッと笛が甲高く鳴るとサンドレッドがバースに向かって投げられた。

「もっと走れたのにな」


 二十分と少しの短い航海。身の内に残った燃料はまだ波をたてていた。


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