十月二十二日 1300

東京のやんごとなきお方が高貴な椅子に座るのを、庶民が今か今かとテレビの前で待っている今日。遠く離れた呉の地でも五色の旗が青い空を彩っている。

「向こうは雨だって、折角のハレの日なのにな」

弓哉が自分の本体である艇の上で風にたなびく旗を見ながら言うと、長哉がポケットから携帯端末を取り出し指先でチョイチョイと操作し始める。

「……晴れたらしいよ」

「まじかよ」

「虹もかかったってさ。ここまで来ると最早神話だよなあ」

「俺が百年後の【艦霊】だったら絶対信じないな」

「【座敷童】が言っても?」

「あいつらたまに嘘つくだろ」

「ああー」

心当たりが数件あるようで長哉は素直に、弓哉の言葉への賛同を示す。少し苦笑してから二人は示し合わせたように煙草を取り出した。長哉がジッポで火を付けて煙を吐き出すと、当たり前のように弓哉が手を伸ばす。弓哉の手にジッポが手渡されると、流れるような動作で火が付けられる。二本の紫煙が五色の旗に届く前に青空に溶けて見えなくなる。

「なあ、長哉。お前は来年、まだ居るのか?」

「さあね。弓ちゃんはもう居ないなあ。絶対」

冷たい秋の風が吹く。風が五色の旗を弄び、布を引っ張るような独特な音を奏でる。

「待ってようか?」

「それもいいな」

二人はまた示し合わせたように煙草を灰皿に押し付ける。煙草はくしゃりと音を立て吸殻の山の中に落ちていった。


 もうすぐ最後の冬が来る。


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