五月十九日
暑くない程度に曇り、過ごしやすい本日。絶好の体験航海日和かと思いきや、風は鷹が空を切るような音を立てながら港を走り抜けている。勿論それに伴って海は瀬戸内海かと疑いたくなるくらいに荒れていた。当然のことだが予定されていた行事が決行か中止かという判断は早々にくだされた。
「【ながしま】、体験航海中止?」
「まあな。一般公開になった」
【ちよだ】が残念そうに俺の顔を覗き込む。同じく一般公開を行っている【ちよだ】の本体もそれなりに揺れているはずだが、俺よりも大きいためか見た目にはそれほど揺れていないように見える。
「そらそうだ。こんだけガブってたら嫌われる」
後ろから愉快そうな声がした。振り返れば【ぶんご】が屋台で買ってきた牛串をかじっている。そしてその背後には青い顔をした【ちはや】がぼんやりと立っていた。
「豊和、ドックは?」
「もう大分マシだから遊びに来た。【ちはや】は【ちよだ】が見たいっていうから連れてきてやった」
「……あ、うん、や、優しいな」
「だろ?」
なぜか誇らしげに二本目の牛串に噛み付く豊和。そんな自由人に目もくれず【ちよだ】は目を輝かせ後ろの【ちはや】によっていく。【潜水艦救難艦】同士にしか分からない何かがあるらしい。
「なあ、豊和君。俺の牛串とりんご飴は?」
「ないよ」
【ぶんご】は当たり前のように言う。遊びに来たついでの差し入れぐらいあってもいいはずなのに。
「買って来て」
「やだ」
「俺たちの母艦だろ」
「営業時間外ですー」
【ぶんご】はそう言いながら残りの牛串を平らげると、ヒラヒラと手を振りながら屋台の方へと消えていった。
「ケチ豊和」
数分後、豊和はなぜか『ひびきカレー(レトルト)』を手土産に戻ってくるのだが、それによって俺と【ちよだ】の顰蹙(ひんしゅく)を買ったのは言うまでもない。
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