平成三十一年 令和元年
四月一日 1141
ここは俺たちが住処としている【道】ではなく【うみぎり】が現世に借りているアパートの一室。ここにいる目的は実に単純で『テレビが見たいから』ただそれだけである。【道】にもテレビはあるのだが、現世の電波は入らないためもっぱらメディア再生用なのである。
「なー、ながー」
「なに? ゆみちゃん」
「官房長官、1130(ヒトヒトサンマル)って言ったのにまだ来ないね」
「ね、五分前行動は基本なのにな」
ソファの上で炭酸のジュースを飲みながらテレビを見つめる。この部屋の主【うみぎり】は不満そうに俺たちを見ているが気にしない。
「お前ら、なんで俺の家に来るの?」
「いやあ、だってもう俺ら二人だけだから解約したんだよアパート。デートする相手もいないし」
「あっそ」
【うみぎり】はそう言うとテレビの方を見た。壇上にはまだ誰も居らず、時々映像が切り替わり外の映像が映し出されたりしている。再び映像が切り替わり誰もいない壇上が映し出されると、画面の向こうの人々がざわめきだす。
「来た!!」
長哉が嬉しそうに言う。官房長官が壇上に納まり口上を述べ始める。
「あ、ちょっと見えた?」
「あーでもなんて書いてるかわかんないな」
『新しい元号は令和であります』
画面の向こうで官房長官が『令和』と書かれた額を掲げて見せる。
「れいわ」
「れーわ」
「れーわ」
三者三様異口同音。きっと日本中でこの新しい単語が復唱されたに違いない。慣れない響きだが悪くはないと思う。
「れーわ、だって」
「冥土の土産決定だな」
俺たちの兄はみんな平成の中で一生を過ごした。三十年という年月は木造の掃海艇にとっては決して短いものではないのだ。
「俺ら、元号またいじゃったな」
ニヤニヤと笑う長哉に俺はとっておきのいい顔を返してやった。
新しい時代を生きる君に幸多からんことを願う。
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