開始と終了の合図

@14go

第1話

これは、SFだとか、ファンタジーだとかいうようなことばがなかった頃、真の悪人……というよりも、小人と言うべきか、まあそういった感じのヤツの話。

 ところで、 西暦1900年のこの世界は魔法と発展した技術の溢れ返った世界である、ということも大分重要なポイントだろう。

 基本仕事は機械化、エネルギー問題も無し、豊かな生活も送れる、ここまでくればなかなか素晴らしい世界だと思う。

「おはようございます、師匠」

僕はそんな世界の東の端の列島いなかのさらに南端にある辺境のドいなかで、研究以外にすることがなくなってしまった頭のネジが外れてる学者の弟子をしている。

「おはよう、そしてわたしはあなたの師匠なんかじゃあないわ。もしもそういうふうに扱いたいなら先生とお呼びなさいな」

あくまで学者という身分に固執する師匠。

「まあいいわ。今から昨日の仕事の続きするからそれとって頂戴」

そう言って、冷蔵庫に置いてある瓶に入った飲料を指差す師匠。

「いいですよ。はい、どうぞ師匠」

まだ師匠呼びをしていることが気に食わないのか、嫌そうな顔をしてくる師匠。それに、師事しているのだからまあ飲み物くらいは渡してもいいんじゃないだろうか。

「っく……ぷはぁ!やっぱり朝一番のこれは最高ね!」

 と、僕が渡した飲料もとい、師匠お手製のエナドリを一気飲みした。

 そう、酒とかではなくエナドリ。エナジードリンクというやつだ。

 そこだけは学者だの研究者だのといった職業のらしさがある。

 ……しかし飲みっぷりは先生というよりはいささか師匠という言葉の方が似合っている。だから僕は師匠と呼んでいる。

「師匠は今日何するんですか?仕事の続きっていってもこんな発展してる世界で仕事なんて存在しないでしょうに」

僕の言葉に師匠がぴくりと反応した。

「一応仕事よ。報酬もらえるし仕事ってことでいいじゃないの。今日からしばらく研究の大詰めだし、あなたも頑張るのよ」

そう言ってパキパキという音と共に目の前に研究の内容をまとめるためのパネルを出現させる。

 あまりにかけ離れていて分かりづらいが、科学が魔法に多少追いついてきた時に生まれたパソコンだの、スマートフォンだのいった機械類の進化系らしい。

しかし、手伝えることもなさそうだしそこら辺をぷらぷらしてこようかな。

「じゃあ、なんかあれば連絡くださいね、師匠」

「わかったわかった」

伝えるべきことを伝え、外に出た。

 僕たちは、良くも悪くもこのご時世に珍しいフル木造の建築な一軒家で暮らしている。

これだけでももう、一般的な学者らしさがあまりない。

そしてそれが特段目立たないような中途半端な田舎に住んでいるというのもいよいよ学者らしさが無くなっている。

 後者に関しては利便性だとか、話し合いは実際に会ってしたほうがいいだとか言うような僕の偏見でしかないが。

 しばらく橋の上から川をじっと眺めていると、僕と年の近そうな奴が来た。

そいつは少し川を見ると次の瞬間、凄い勢いで橋を降り、川のすぐ近くで手を天に掲げた。

一体何をしだすんだよ。

にょきにょきにょきにゅいーん!

という、いかにも頭の悪そうな音と共に、彼の手には釣り竿が握られていた。

……?理解が追いつかない。というか、魔法とかの類であるのは分かった。

 「あの……どうしたんですか?」

まずい。話しかけられてしまった。

無難に対応しよう。

「あー、ええと、いえ、どうやってその釣竿を出したのか気になってしまいまして……はは」

 いや、師匠の弟子として、興味があることはすぐに探究しなければならないよな。うん。

「したいなあ、って思ってたらなんか使えるようになってました」

「まじかよ」

「まじてすよ」

こういうのが天才肌っていうやつなんだろうけど、こっちはそういうのは求めていない。

「すごいですね。しばらく釣りしてるの見ても?」

大分不思議そうな目でこっちを見てくる彼。

「まあ、大丈夫ですよ。……あっ、私」


しばらく観察してから帰宅した。ついでに連絡先ももらっておいた。

「おかえり、一体何してたんだい?」

「師匠のしてたことと同じくらい価値のあることですよ」

正直言って師匠の研究に価値を見出せない。というかヘタすれば僕のしたことの方が価値があるんじゃないか?

そんなことを思っていると、

「ほう、それは大層すごいことをしたんだねえ。後で教えてよ。あと、私は価値のあることしかやってないからね」

ふざけたことをぬかしやがった。

この野郎、何かやってる風を醸し出してニートしてるくせによく言うな。

むすっとして不機嫌そうな顔を眺めていると、非常におちょくりたくなる。

だから、さらに挑発することにした。

「ちょっとなに言ってるか分からなふぐっ……、腹パンって、もしかして師匠ってほんとは学者じゃなくて武闘……いえ、なんでもありません許してください」

 煽りに煽っていると目の前に拳があった。音を置き去りにするどころか音が存在してなかった。

 目の前に拳が急に出現したし、あのままだと殺されるかと思ったし、今日のところは大人しくしておこう。




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