アンドロイドロボット 介護福祉士☆あき
卯月 遥
第一話「惨劇」
西暦2107年、建築物、医療、科学等すさまじい発展を遂げていた。
しかし良い事ばかりではなく少子高齢化、地球の温暖化問題等もブレーキがかからず
相変わらず頭を悩めている時代であった。
ただ一つ、めまぐるしい程の進歩を遂げていたのが、介護用アンドロイドロボットの発展であった。
現在の介護用アンドロイドロボットは、ASIMOがもてはやされた時代を苦笑するかの様な精巧な出来であり、生身の人間と寸分の狂いも無く完成されている。
人間との相違は大きく分けると3つ。
歳を取らない事、病気にならない事、子供を作れない事。
よって喜怒哀楽もあるし恐怖も感じる、恋もする、腕力は人並み程度・・・
見た目は普通の人間と判別は付かない。
ロボットならば人間に絶対服従、腕力や特殊能力を持って人々を守る様な進化した機能を持つ製品を作るかと想像するだろう。
無論、そういったロボットは産業用ロボットとして発展はしてきたが、後期高齢化社会に伴い、需要が最も求められていたロボットは
「人間により近い介護用アンドロイドロボット(通称LV4)」だった。
なぜか?
それは災害等よりも遥かに孤独、障害、病気等で心から苦しんでいる人間が多すぎるからであった。
LV4に対して国のとった政策は、あくまでもLV4は孤独、障害、病気等で苦しんでいる人間のみに派遣認可が下りるというものだ。
介護される側が死亡した場合はプログラムを初期化したのちに、新しい派遣先へ出向する。
また、ロボット自身が非常に高価な為、重度の障害及び余命の少ない人間を最優先として派遣される。
そして、ある一人の青年も・・・
突然起こった悲劇により、LV4が派遣される者となったのだ。
郊外の古ぼけたアパートの2階、昭和を思い出すような安い作りだ。
隣の部屋に暮らすヤンキー達の笑い声からテレビの音まで、全部筒抜けだ。
しかし、家賃3万円なので何も文句は言えない。
8月ももう終わりだというのに蒸し暑い。まさに残暑ってやつだ。
毎年、夏は扇風機のみで何とか凌いでいるが、いい加減、この暑さでは限界を感じる。
ブィンブィンと音を立てながら虚しく首を振る扇風機。
「クーラーなんて、この安月給じゃ手の届かない存在だよなぁ」
と、ぽつりと天井に向かって呟き、溜息をついた。
もうすぐ日が変わるな、午前十二時になろうとしている。
いつものことながら、寝ようにも暑いし隣のヤンキー達がうるさくて眠れやしない。
「あぁぁぁもう、うるさいなあ!明日の仕事早いんだから勘弁してくれよ!」
・・・心の中ではそう思ったが、気の弱い僕には声に出して文句を言う勇気はない。
なかなか熟睡できぬまま、いつのまにか朝になっていた。
僕の名前は、篠田一平。
今日も、眠い目をこすりながら着替えを終えていつもの材木工場へ自転車で向かう。
昨晩の蒸し暑さはどこかへ行き、涼しく快晴だ。待ちに待った秋の到来か。
秋を匂わせるそよ風を浴びながらペダルを漕いでいると、眠気も覚めて来て気分が良くなった。
ささやかな幸せを感じながら、材木工場へ着いた。
その材木工場は、歴史が長くとても小さくて古ぼけている。
創業3代目の社長、経理の奥さん、従業員は先輩と僕だけの計4人。天井にお情けのようにクレーンが付いているものの、設備や機械はとても古くて平成の物もある。
職場に着いて入口のドアを開けると、訛りのある社長の太い声で威勢よく呼ばれる。
「おう、一平おはようさん!着替えて早くぅこっち来てくれぇ!」
いつものように、小林社長が屈強な腕で材木を運びながら僕に言った。
「社長、おはようございます。すぐ着替えて行きます」
急いでロッカーで作業着に着替えて、作業場にむかった。
高校を卒業して就職してから、この工場で5年ほど働いている。
夢や希望も特に無いが・・・いや、エアコンくらいは欲しいか?
しかし、働かないと飯が食えない事くらいは解っている。
安月給で生活は楽ではないけれど、人付き合いが苦手で口下手な僕には、黙々と作業をこなすこの工場がお似合いだっていうことも、自覚している。
時代がいくら進歩しても、古ぼけたこの工場のように―—―—
人間の心はいつまでたっても進歩しないと思う。
恨み、妬み、復讐、裏切り・・・どんな時代でもある。
僕は幼い頃、交通事故で両親を10歳の時に亡くした。親戚の法事に行った帰り道で大型トラックに追突され、ガードレールを超えて崖から車が落ちて即死だったそうだ。親戚の大人達が自宅に次々に来て会話している中で僕は、突然両親を失ったショックで泣いていてあまり憶えていない。
当時は親戚同士で揉めたようだったが、施設に入らずに長男のいない父方の遠い親戚に引き取られることになった。とはいえ、養子の僕が義姉妹のいる女の子っぽい新しい家族に馴染めるはずもなく、作り笑いをして日々過ごしていた。だから、高校を卒業したらすぐに一人暮らしをする事が、僕の願望だったのだ。
僕は、この古ぼけた材木工場が好きだ。
もうすぐ70歳になる社長には、本当にお世話になっている。
風邪を引いた時は病院まで車で連れて行ってくれたり、社長の奥さんから食べ物の差し入れをいただいたり、温もりのある優しさが何よりも嬉しい。
僕にとってみれば、第二の親代わりのようなご夫婦だ。
多分、ここの社長が元気な限りひたすらここで働いているだろう。
材木を運んで、工具の段取りをテーブルの上で支度していると先輩の信行がやってきた。信行は2歳上で、やはり高卒でここで働いている。
バンド活動が趣味でよく音楽の話を持ちかけてくるが、僕には正直あまりわからないのでいつも適当に相槌を打つ。
信行が軽い口調で話しかけて来る。
「相変わらず真面目だなぁ、一平は。もー少し手を抜くのもテクだぜ?俺なんか寝ながら作業する勢いでやってんだからさぁ」
寝ながら作業ってどんな作業だよ、と心の中で思いつつ僕は苦笑いをしながら仕事を続けた。
「そんなに、黙って仕事ばっかしてっとさ、一生女出来ないぞ~いっちゃん!」
そう、信行は彼女も要るし、いわゆる女には困らない。まあ、悪く言うと女ったらしなタイプだ。ルックスはそれなりにいいし気さくなタイプの男子。
「別に女は要らないです。僕は信行さんみたいに会話上手くないし・・・」
「何でいつもそんなにネガティブなんだよぉ。いっちゃんだって頑張れば女の一人や二人くらいは出来るって!そうだ、合コン誘うから来なよ今度!」
合コンは興味のない話題だ。僕が行ったところでお地蔵さんのように固まって頷くくらいしか出来ないことぐらい容易に想像がつく。それなら家でネトゲでもしてるほうがマシだ。金も時間ももったいない。ネトゲ無課金者だから何より時間が大切だ。
「今はいいです。なんか女の子って解らないしよく・・・」
「解らないってなんだよぉ。彼女っていいもんだぜ。特に初キスの時なんて
ドキドキだよ」
女に興味はないっていうか、女が僕に興味がないが正解なんだけどね。解るも解らないも、それ以前の問題だから自然と興味も無くなる。
そんな無駄な話をしていると向こうの機械で作業している社長から声が掛かった。
「一平!そこの材木、機械で裁断頼むわな!」
小林社長の声が工場になり響く。
「わかりました。裁断作業します!」
いつもどおりに材木を機械にセットし、機械の開始ボタンを押す。
運転中ランプが付き、裁断する刃物が回転し始める。材木が裁断を開始した。
材木が裁断し始めると音を立てて切れていく。
――――その瞬間に一平はある異変に気付く。
材木に自分の作業着が引っ掛かって抜けない事に。
材木は容赦なく裁断されて一平の身体を徐々に刃物へと引き込む。
やばい!このままじゃ巻き込まれる!!
「誰か!機械止めて!!」
僕は声を振り絞り叫んだ
社長も信行も、裁断機の音に掻き消されて全く気づかない。機械は無情に動き、一平を徐々に引き込んでいく。僕はただ、何度も叫び続けた。
「だ、誰かー!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!!」
――――――そこから、僕の意識は闇に包まれていって、何も憶えていない。
後から聞いた話によると、社長がようやく気付いて慌てて機械の非常停止ボタンを押した。
ゆっくりと音を沈めて機械の回転音が止まった。
裁断機の周辺は刃物の回転により鮮血が飛び散り、僕は機械の刃物に引き込まれる形でうつ伏せに倒れて気を失って倒れていた。
社長が僕を仰向けに引き出すと、そこには目を覆うような光景があった。
――――――僕の両腕が完全に、切断されてしまっていたのだ。
機械周辺が僕の血で深紅に染まり、溶岩が広がるように一面に広がって行く。
社長と信行は一瞬、青ざめてどうしたらいいか解らなくなった。が、冷静さを取り戻した。
「信行、救急車だ、救急車呼べ!!!」
社長の太い声が響き渡った。
続く
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