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翌日、川島は自宅で考えていた。一体誰が犯人だろう。大輔はどう見ても犯人ではない。健一は寝ていて全く関与していない。一番怪しいと思われている池内真一はすでに30年前に死んでいる。では、誰が犯人だろう。
突然、インターホンが鳴った。今日は休みなのに、誰だろう。川島は玄関に向かった。
川島は玄関のドアを開けた。そこ向こうには瀬田がいる。今日は休みのためか、瀬田は私服だ。
「川島警部、ランボルギーニの血痕のDNA鑑定の結果が出ました。猪川隆と朝倉奈々子の血です」
だとすると、猪川や朝倉がこの車に乗っていた。でも、車内で殺されたのか、殺された後車内に入れられたと思われる。
「そ、そうか。だとすると、この2人がここに乗ってたって事だな」
「はい」
だが、川島の気分は浮かない。何の手掛かりにもない。結局、誰が犯人かわからずじまいだ。一体、誰が彼らを乗せたんだろうか?
その頃、大輔は朝から騒いでいた。今日は仕事が休みで、のんびりしているはずなのに。
「あれ? どこだろう」
騒然とした家の中に気付き、幹江も起きた。朝から何だろう。目をこすりながら、幹江は大輔のいるリビングにやって来た。
「あなた、どうしたの?」
大輔は引き出しの中を次々と開き、何かを探している。だが、全く見つからないようだ。
「スペアキーがないんだよ」
大輔は愛車のランボルギーニの鍵を、自分で身につけているだけでなく、引き出しに隠し持っていた。だが、その引き出しにはなかった。違う引き出しかもしれないと思って探したが、全く見つからない。
「犯人が奪ったんじゃない?」
大輔は事件の事を思い出した。犯人がスペアキーを盗み取り、大輔が眠っている頃にランボルギーニに乗って殺人を犯したのでは?
「そうかもしれないな。で、深夜にこっそり持ち出したのかも」
幹江は拳を握り締めた。人の車を犯罪に使うなんて、許せない。だから大輔が疑われた。このままでは大輔が風評に遭ってしまう。そんな奴、死刑にしてほしい。
大輔は川島に電話をした。スペアキーがなかった事を伝え、犯人を見つけるための手掛かりにしなければ。
「もしもし、川島です」
この日、川島は休みだ。警察にはおらず、自宅にいる。
「あっ、川島さん? 岡崎です。岡崎大輔です。実はですね、うちのランボルギーニのスペアキーがないんですよ」
「スペアキーがないんですか?」
川島は驚いた。だとすると、スペアキーを盗んで、ランボルギーニを使って殺人を犯した可能性が高い。
「はい」
「犯人が持ち出して、沢井まで行って殺したんじゃないかと」
大輔も秘かに犯人は誰だろうと思っていた。自分の車をこんな事に使うなんて。
「そうですか。ところで岡崎大輔さん、池内真一さんの事を知ってますか?」
「池内真一? ああ、あの子ですね。わたくし、とても仲が良かったんですよ。あの失踪した日も仲良く遊んでたんですよ。でもまさか、その日に失踪するなんて」
大輔は池内の事を思い出した。小学校の頃の一番の友達で、共に野球を楽しみ、仲良くしていた。卒業式の前日も2人で遊んでいた。だが、その日の夜、突然姿を消した。とても信じられない事だ。どうして池内がいなくならなければならないんだろう。
「仲が良かったんですか?」
「はい」
大輔は電話を切った。大輔は首をかしげた。池内は本当に死んだんだろうか? 発見されないまま、死んだ事にされた。本当はどこかで生きているのでは? そして、俺のランボルギーニを使って殺人を犯した。
「全く、うちのランボルギーニを勝手に使った奴は誰だよ」
「すごく気になるよね」
怒ったような表情の大輔に、幹江が反応した。幹江は心配していた。これ以上事件の事で聞かれるのは精神的に疲れる。もうやめてほしい。
「今夜、見張りをしてもいい?」
「いいよ」
幹江は今夜、ガレージに監視カメラを取り付け、見張る事にした。何としても犯人を見つけて、逮捕するきっかけにしなければ。
その頃、平野建設では朝から多くのマスコミが集まっていた。いつもは静かなのに、休日なのに、何事だろう。
そこに、健一がやって来た。すると、マスコミは健一に集まった。フラッシュもたくさん集まっている。
「隠し子だって本当ですか?」
実は先日の週刊誌で、健一の息子、孝和は隠し子だというスクープが掲載された。そのため、多くのマスコミが平野建設の本社にやって来た。
「はい、あの子はすり替えた別の子です」
健一は涙ながらに告白した。実は健一の息子は孝和だが、自殺していてもういない。今生きている孝和は別の子供で、孝和にそっくりな少年とすり替えたという。
その時の平野建設の様子は、全国ニュースで流されていた。大手建設会社の社長の隠し子疑惑ともなれば、これは大ニュースになる。
川島は朝のニュースでその様子を見ていた。まさか、あの息子が本当の息子じゃないとは。では、あの息子は誰だろう。
「そんな・・・」
「平野社長にこんな疑惑があったとは」
瀬田は呆然とした。本当の息子だと思っていたのに。
「だとすると、あの息子の孝和は何者だろう」
「さぁ・・・」
川島は考え込んだ。あの息子はどこから来たんだろう。だが、今は犯人を捕まえる事に集中しないと。
昼下がり、瀬田は気になっていることがあって沢井にいた。というのは、池内は死んだと言われているが、遺体は発見されていないという。どうして発見されていないのに死んだと言われているんだろう。ひょっとして、誰かが隠していて、池内が殺しているんじゃないだろうか?
瀬田は沢井小学校の近くの喫茶店で奈々子の夫、竜太郎と会話をしていた。お昼のランチタイムを過ぎて、喫茶店は静まり返っている。
「池内真一って、本当に死んだんでしょうか? 遺体が発見されないままなんですけど」
瀬田はコーヒーを口にした。
「みんなそう言ってるから死んでるんでしょう」
竜太郎はみんなの言う事を信頼していた。同じ卒業生として、言っている事に従わないと。
「でも遺体が見つかってないんですよ!」
瀬田は遺体が見つかっていない事を話した。池内が犯人だと思われていること知っているんだろうか? まさか、池内の存在を隠しているんだろうか?
「本当にそうかな?」
カウンターに座っている老人がその会話に反応した。その男もコーヒーを飲んでいる。その男は加藤孝雄、沢井小学校の教員で、池内らのクラスの担任だったという。
「えっ!?」
2人は驚いた。死んでいないと疑っている人が他にいるなんて。
「あの待合室の子・・・」
「待合室の子?」
この近くにある沢井駅の待合室の事だろうか? 待合室の子? 一体誰だろう。
「池内真一じゃないかな?」
加藤は駅の待合室で、池内らしき少年を見た。その少年は東京に向かうと言ったそうだが、その理由を聞かなかった。その時加藤は、その男が池内だと思っていなかった。池内は家にいると思っていた。
その言葉に、2人は反応した。まさか、池内は自殺したんじゃなくて、東京に身を隠したんだろうか? それとも、その先で自殺したんだろうか?
「池内真一らしき人を見たって、本当ですか?」
「ああ」
加藤は池内の顔を思い出し、涙ながらに話している。竜太郎は加藤の肩を叩いた。
「いつですか?」
「30年前の3月17日の夜の8時ぐらい。東京に向かう電車に乗った。東京に行くとか」
その時、瀬田は気づいた。夜の8時は大輔に会った後だ。新たな目撃証言が30年後になって出てくるとは。だとすると、あの男は池内だろうか?
「えっ!?」
竜太郎も驚いた。まさか、ここになって新しい証言があるなんて。その先、池内はどうなったんだろう。
「じゃあ、池内真一は死んでなかった?」
「どうだろう」
瀬田は首をかしげた。電車に乗った後、どうなったんだろう。とても気になる。東京にいるとしたら、どこかで隠れて連続殺人をしていた可能性がある。
その日の夜、岡崎家では幹江が見張っている。誰がランボルギーニを持ち出して、殺人事件を起こそうとしているんだろう。スペアキーを盗んだのは誰だろう。何としても突き止めないと。これ以上、大輔の車を殺人事件に使ってほしくない。何としても止めなければ。
そこに、大輔がやって来た。大輔は風呂上がりで、缶ビールと柿の種を持っている。この日の仕事を終えてくつろいでいる。明日は休みだ。ゆっくりしよう。
大輔も幹江の見ている防犯カメラを見始めた。防犯カメラには、ガレージが映し出されている。ガレージの中には、ランボルギーニとベンツがある。ガレージには人の気配がない。
「誰も来ないわね」
「うん」
大輔は缶ビールを口にした。なかなか犯人が見つからないので、イライラしている。ここ最近、酒の量が多くなった。これ以上警察が事情を聴きに来てほしくない。早く犯人が捕まってほしい。これ以上事件の事を聞きたくない。早く元の日常に戻ってほしい。
幹江は席を立ち、冷蔵庫に向かった。幹江も缶ビールを飲もうと思ったようだ。冷蔵庫の中には、缶ビールがあと1本ある。
幹江は缶ビールを持って戻ってきた。席に座ると、幹江は栓を開けた。大輔と乾杯したが、何も言わない。今はそんな事言っている時ではない。監視カメラをじっと見つめなければならない。早く犯人を見つけないと。
だが、いくら待っても犯人が現れない。イライラが募ってきたのか、徐々に酒を飲むピッチが上がってきた。
その頃、健一は今日1日の仕事を終えて、東京の夜景を見ていた。とても美しい。何度この景色を見ても見飽きない。今日の騒動が少しでも癒されるといいな。すり替えた別の子だけど、実の子のように育て上げ、次の社長になるだろうと言われるまでに成長した。早く自分の跡を継いで、社長になってくれないかな?
それにしても、あの事件は何だろう。沢井小学校の卒業生を狙った殺人事件。池内真一という卒業生の前日に消えた男。
健一は1つのメモを取り出した。そこには、すり替えた孝和の本名の下の名前が片仮名で書いてある。その名前を忘れた日はない。明日、その男の名前を言わなければならない。もう迷う事はない、すべてを明かそう。
と、健一は誰かの気配を感じ、振り向いた。何者かがいる。その男は黒い服を着て、顔を黒いマスクで隠している。
「お前・・・」
健一は驚いた。黒いマスクで隠しているとはいえ、健一は目元でその男が誰なのかわかった。
程なくして、健一の体をとてもつもない痛みが走った。腹からは血が出ている。健一は倒れこんだ。すぐに男は走って立ち去った。健一はその男を見る事しかできなかった。
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