見えない怒り
どういうことだ。盟友Xは俺の母親とも関わりがあるのか。
そもそも全ての犯行が盟友Xのものなのか?
俺に関わる人物が同じ期間に次々と殺害予告を受けているのだ。同一人物に違いないだろう。
母親が受けたのは俺に関する内容だ。盟友Xは思っている以上に身近にいるのかもしれない。
「そのメール見せてや」
すぐには見せようとしなかった。変に気を遣っているのか、メールの内容に後ろめたさがあるのか。
今はそんなのどうでもよかったから何度も見せるのを要求した。
しばらくしてようやく折れた母親からスマホを受け取りメールを開いた。
『柳晴希に関わるな』
『自分を見つめ直せ母親面の偽善者』
『三日以内に死なないと柳晴希を殺す』
言葉が出てこなかった。節々に俺を使った精神攻撃は確かに母親には効果的だった。
しかしこの内容。盟友Xは俺を知っていて一連の殺害予告をしている。
目的は俺なのか?
この時俺はとんでもないことに気がついてしまった。
『差出人:パラサイト』
パラサイト。以前奇怪な電話をよこした不審な人物だ。そもそも人物なのかすら判明していない。
全身の鳥肌が立ち、血の気も引いて今にもガクッと倒れそうなめまいに襲われる。
その後俺と母親が冷静を取り戻すのに三十分を費やした。
スマホを手に取り検索エンジンに「殺害予告を受けたら」と投げかけた。
「犯罪行為であり警察の捜査の対象だが軽視して動かないケースもある。警察が動かない場合は刑事告訴などの手段を検討しましょう。弁護士に相談、依頼をするのがおすすめ」
難しい内容だが無理矢理にでも頭に詰め込んだ。
「で、どうする?」
正直今の母親が頼りになる状態だとは思えなかったがこれからについて整理したかった。
こんなこと経験はないし自分の考えには自信を持てなかった。
しかし母親は俯いて何も言わず、殻に籠った状態になってしまう。
「とりあえず送られたメール全部スクリーンショットして。明日警察行こう」
小さく頷く母親をリビングに置いて浴室へ体を連れた。
小学一年生の頃に父親とは離婚し、それ以前にも酷い喧嘩が続いていた。
だからヒステリックな母親は見慣れていたしある程度の耐性があった。
母親のヒステリックも通院を重ねていくうちにかなりマシになった様にも感じる。
それでもやはり窮屈さを感じて俺はリビングから逃げ出してしまった。
深い罪悪感とそんな母親を嫌悪する気持ち。俺が憎むべきは今は盟友Xの筈なのに。
浴室を出て真っ先に確認したのは母親の安否だった。
過去に自殺未遂にまで及んだトラウマがあるからだ。
放心状態。何を話しても上の空。そんな風に感じた。
そのまましばらくの時間を共にした。交わす言葉は少なかったが家族の絆なんて臭いものを感じた。
俺達の心は次第に落ち着きを見せた。そのまま俺達はリビングで眠りについた。
「急やけど今日会えん?」
翌日、早朝に目覚めた俺は収まらない不安を落ち着かせるために健人に連絡を取った。
返答があるまでの三時間、ぼーっとスマホを眺めていた。
「いいけどどうしたん?」
「暇やからついつい。夜でいい?」
そのためすぐに返事を送ることが出来た。
「ええで。七時に駅で」
「おけ」
そんなやり取りを終えた頃丁度母親が目を覚ました。
警察に行くと自分で言い出した反面面倒くさい気持ちが勝ってきていた。
支度を始める母親を横目に寝ているフリを始めた。
しばらく続けているうちに俺は眠りに捕まってしまった。
目を覚ますと母親は家を出ていた。
リビングのテーブルに「警察に行ってくる」と書き残されていた。
時刻は午後一時四十二分。まずは空腹の相手をすることにした。
電気ケトルに感覚で水を注ぎ込み蓋を閉じてスイッチを押す。すると電気ケトルは動物の呻き声の様な音を鳴らし水をお湯へと変え始めた。
「俺の何倍も優秀」
飼っている動物を愛でる様に撫でてやった後キッチンのカゴに入ったカップ麺を一つ手に取った。
開封して作り方を軽く読んだ後お湯が沸くのをただただ待ち続けた。
三分の退屈の後、そこそこの味のラーメンを平らげた。
約束の時間にはまだまだ早いので少し小説を書くことにした。俺に似合わぬ恋愛の小説を。
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