理不尽教師に反抗してみた結果…

maise

髪の毛に厳しすぎる先生編

「おい! 立花たちばな! なんだその髪の毛は!」

「はい?」

 ここはブラック学園。その教師である鬼山先生に、立花愛佳たちばなあいかは呼び止められた。



「だから! その髪の毛はなんだと聞いている!」

「なにって…普通の髪の毛じゃないですか。染めてないですよ? なんの問題が?」

 愛佳の髪の毛はいたって普通のショートボブ。結ぶことができない長さなので、おろしてある。

 一見何もなさそうな髪型なのだが、先生はなぜか怒っている。



「違う! そののことだ! 何か香水でもつけて、男を誘おうとしているのだろう! 色気付くんじゃない!」

 髪の毛が香るなんて、シャンプーをしてもなることなのに……

 しかも匂うといっても、一般の人間なら頭に顔を近づけて嗅いだらほんのわずかにわかる程度の匂いだ。愛佳はあまりにおいのしない、その代わりものすごい治す作用のあるものを選んで買っていた。

 あまりにも理不尽な物言いに呆れた愛佳は、面倒くさいが説明することにした。


「違いますよ。寝癖を治せるスプレーみたいなものをつけて、寝癖を治しただけです。香り付きなのはしょうがないじゃないですか。」


 いたって冷静に話した愛佳とは裏腹に、みるみる顔を赤くして怒る先生。

「それが色目を使っているというんだ! こっちに来い!」

 そう言い放つと同時に愛佳の腕を掴み、無理矢理水道水に頭を突っ込み、濡らした。


 しばらくその状態で愛佳を離さず、制服もぐしょぐしょに濡れたところで、ようやく先生が離した。

「これに懲りたら二度とそんなものつけてくるんじゃないぞ!」

 先生は、そう言って去っていった。




「……はぁ、あの先生にはとことん困ったもんだ。黙らせてしまうか!」

 夜、愛佳は濡れた髪の毛を拭いて、ベッドに寝っ転がりながら呟いた。

 この程度のいやがらせや理不尽に、愛佳の心は乱れない。






 ……だが、17歳の少女のいたずら心に火がついた。


「どうしよっかな……あまりひどくても、問題になっちゃうし……そうだ!」

 ひどい仕打ちをされたというのに、希望に満ちた表情の愛佳は、早々に眠りに落ちた。





 次の日

「おい! 立花! なんだその髪の毛は!」

「はい?」

 昨日も見たような光景に、愛佳は笑いを必死に堪える。

 愛佳は先生に言われた通り、スプレーをかけてこなかった。




 ……その代わり、寝ぐせも直さなかった。

 当たり前と言ったら当たり前かもしれない。だが、

 先生が言うほど、愛佳は寝ぐせが付きやすく、さらに治りにくい髪質なのだ。しかも、寝ぐせのつき方が尋常じゃない。少年漫画の主人公にも引けを取らない。


「だから! その髪の毛はなんだと言っている!」


「何って? 先生のおっしゃられたように、寝ぐせを治せるスプレーをかけずにきたんですが……」


「いくら何でもそれはないだろう! 寝ぐせを言い訳にして、身だしなみを整えるのを怠ったな!」

 そう言ってくる先生に、愛佳は反撃する。

「先生がスプレーをかけさせてくれなかったじゃないですか。」

「寝ぐせなんて水で直せ! 水で!」

 そう言ってまた水道まで連れて行かれた。

 昨日と同じくらいの時間、水道水に頭を突っ込まれたのだが、それでも愛佳の寝ぐせは治らなかった。

「ふざけるな! どうして寝ぐせを直さない! そんなことだからおれがこんなことをしなくてはならなくなるんだ!」

 と、謎の逆切れ。


 そうしてしばらく突っ込まれた。三十分くらいたっていたかもしれない。

 ありえないかもしれないが、そこまでしないと愛佳の寝ぐせは治らないほど、つよかった。


「……わかってくれました? こんなにやらないと、寝ぐせは治らないんです。だから、あのスプレーを使わせてください。」

「はぁ? そんなこと、許可するわけがないだろう! お前は教師をなめているのか? 三十分くらいやれよ!」

 あまりにも理不尽な言いっぷりだが、愛佳は冷静だ。

「……わかりました」

「わかるなら前からやっとけよ!」





 次の日

「おい! 立花……なんだ……その……髪の毛は……」

「はい?」

 セリフは同じだが、言い方が違う。戸惑っている声だった。

 それもそうだろう。愛佳の髪の毛は……




 ……びしょびしょなのだから。

「なんで濡れている!」

「先生が昨日、水で治せとおっしゃったので。朝二時からやっていたんですが、なかなか寝ぐせが治らず、登校する時間になってしまったので、そのまま来ました。」

 ちなみに本当に二時からやっている。

 さも当然かのように言うその態度にイラっと来たのだろう。先生は顔を真っ赤にして、

「こっちにこい!」

 と言って、愛佳の腕を引っ張った。


 連れて行かれたのは、体育倉庫でも、相談室でもない……



 ……保健室だった。

「先生。バスタオルを一枚ください」

「あら……愛佳ちゃん、濡れちゃってるじゃない。じゃあこのタオルを使って」

 鬼山先生が言うと、保健室の増手ましてしん先生が、素早く渡した。


 そのタオルを愛佳に渡し、

「ふけ」

 と言った。

 予想外の行動に、愛佳は一瞬目を見開いた。だがすぐに、

「いやです。寝ぐせがまだ治りきっていないので。だから今日も学校でさらに治そうと……」

「いいからふけ!」

 そう怒鳴る鬼山先生に愛佳は驚きに口が開きっぱなしになる。

 そんなことを一切気にせずに鬼山先生はタオルを指さしている。驚きながらも愛佳は頭の水分をふき取った。

 やはり、愛佳の寝ぐせはなおってくれていない。

「だからいったじゃないですか。先生がおっしゃったとおり、スプレーは使っていません。先生の嫌いなにおいもありませんよね? 学校が水浸しにもならないように、水分は全部制服に入れてきましたし、変な目で見られないように誰にも見つからないところを通ってきました。見られたのは鬼山先生ただ一人ですよ?」

 愛佳はわざと不服そうな表情でいう。

「そんなこと関係ない! 今を何月だと思ってるんだ! お前が風邪ひいたらどうするんだ!」

「え……?」

 予想外の怒りに一瞬ひるむが、よく考えてみたらこれが普通の先生の対応ではないだろうか。しかもこの先生は、昨日、おとといとずっと頭を無理やり突っ込んで治そうとしていたではないか。

「お前が寝ぐせがひどいのはよくわかった。水でも治らないこともよーく分かった。だからもういい。寝ぐせはなおしてきていい。だからそういうことをするのはやめろ。」

 珍しくちょっとしおらしくなっている先生にわずかに罪悪感をおぼえた。だがここで引き下がるわけにはいかない。この程度の反省だったらまた同じようなことを別の生徒にと思いうだろう。

 深刻な顔で言う先生に合わせて、愛佳もしゅんとした演技をして言う。

「先生、お心遣いありがとうございます。ですが、私、男に色目使っているわれるの、いやなんです! 色目を使うという生々しい言葉をあえて使っていただくことで、私のことの深刻さを教えてくださったというのに……それにお応えできないなんて、とてもできません! 今度は一時から起きます。できなかったら徹夜してでも水で治します!」

「いや、そこまで」

「でも、そうしないと寝ぐせが治せません。学校の名前もかかっているので寝ぐせはどうしても直さなきゃですし……だからやっぱり一時からやりますね!」

 そう涙ながらにいうと、先生がことの深刻さ(笑)に気が付いたらしく、必死で訴えかける。

「そんなことするな! お前がもし寝不足で倒れたら心配する人が何人いると思ってるんだ!」

 愛佳は笑いそうになるのをこらえて必死で涙を流す。

「もういい、使っていい! スプレー使っていいから……俺が悪かった。本当に、だから、だから、本当に自分の体を大事にしてくれ……」

 この鬼山先生をほかの生徒が見たらどうなるだろうか。きっと目が飛び出すだろう。

 ちょっと意地悪しすぎたかと思い、愛佳はさらに演技を進めることにした。

「……でも……」

「いい。色目を使っているなんて言って本当に悪かった。この仕事のストレスをお前にあたっていた。本当にもうしわけない。そもそもほかの先生からは何も言われてないし、染めているわけでもないから使ってもいいんだ」

 仕事のストレスを生徒にあたっている先生も先生だが、そんなストレスな環境になっているこの学校はどうなるのだろうか。

 そう疑問に思うが、今に始まったことではない。

「……ありがとうございます」

「体調が悪くなったら今日は無理せず早退しろ」

「はい」

 そう言ってこの事件は解決した。



 次の日

「えー、本日をもって鬼山先生はブラック学園から離れることとなりました。皆さん寂しいとは思いますが、鬼山先生から教わったことを忘れないように」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理不尽教師に反抗してみた結果… maise @maise-oreo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る