例のブツ

@Kanichan_jam

第1話

パーティ編のおまけ話



「あの…俺と、踊ってもらえませんか」


珊瑚を差し出しながら、ぼんやりと言う魚人族の青年、アレル。

目の前に立つ、薔薇色の髪を持つ女性はフ、と笑い、その珊瑚を受け取った。

「ええ、喜んでお受けするわ。ただ…」

女性はアレルを上から下までじろりと眺めながら、クス、と妖艶に笑う。


「服が随分と乱れているのに、女性を誘うのね?」


「え? わ、ほんとだ…」

そう言われて改めて自分の格好を見回す。ズボンに仕舞われていたシャツの裾が飛び出していたり、胸元のリボンが緩んでいたり。

直そうとしてあわあわと服を触ってみるが、そもそもがどのような状態だったのかが思い出せなくなっていた。ラベアに着方を教えてもらっていたはずなのだが。

アレルが慌てる様子を、女性は可笑しそうに笑って眺める。そしてしばらくすると、一歩近づいてアレルの胸にトン、と手を置く。

「仕方ないわね。こっちへおいでなさい、私が直してあげる」

「え、で、でも…」

「すぐ終わるわ。それとも…公衆の面前で脱ぎたいの?」

そんな風に揶揄われ、アレルは戸惑いを隠せない。そんな様子すら笑いながら、女性はアレルの手を取って程近くの茂みに入っていった。


空に遠く、ダンスパーティーの音楽が響いた。






「あ、あのっ!?ちょ、何するんですか!?」


しばらく歩いた先で、アレルは地面縛り付けられていた。

ドン、と突き飛ばされたかと思うと、そのままふわりと体が浮き仰向けに寝かされる。慌てて起きあがろうとすると、何処からか伸びた植物の蔓がアレルの四肢や胴を絡め取り、大の字に寝た状態から動けなくなった。

「何だこれっ…動けな…ぐぎぎ」

「ふふ、可愛い。観念なさいな、私の蔓はとっても頑丈なのよ」

楽しそうにいいながら、女性はアレルの胸に手を置いた。するとその手に呼び寄せられるように、袖や裾から入った蔓が服の中を這い回って進む。

「わっ!?ちょ、っふ……何っ!?」

今までに味わったことのない不快感に、身体をビクン、と跳ねさせる。もぞもぞと肌を這う細い蔓の刺激に、思わず吐息が小さく漏れる。

「ひッ……は、放しっ…ぅあっ」

「身を委ねなさい。気持ち良くしてあげる」

「き、きもち…? …ひッ!!」

突然、アレルの身体がびくんっ!と大きく跳ねた。そしてそのまま、身体を強張らせて震える。

「な、なに?なに!?」

困惑した顔はどんどん赤らみ、その目には涙が浮かび始める。

表面的には、何も起きてはいない。ただその服の中で、蔓はアレルの性器に集中し始めていた。細い蔓がうねうねと急所に近づき、触れるか触れないかの位置で蠢く。時々ひらひらと当たる蔓が、むず痒いようなくすぐったいような感覚を湧き上がらせた。

縛られたままのたうち回るアレルを目の当たりに、それすら悦びなのか女性は嬉しそうに目を細めた。

「何が分からないの?ほら、言ってご覧なさいな」

「あっ、あ!……あ、っつい、熱いッ!なんか、何かっ…チンコ、がッ…ふぁあッ!!」

湧き上がる不明な熱にのたうち回りながら、喚くように言う。

こんなもの経験したことがない。

下腹部の奥深くから、茹だるような熱さがフツフツと湧き上がる。それが下半身をジンジンと刺激して、むず痒い感覚が抑えられない。

「そう、此処ね?」

女性がパチン、と指を鳴らす。すると、ズボンのベルトが1人でに外れ、ボタンもチャックも何かに操られるようにするりと解けていく。

全てが解かれると、ポロン、と控えめに陰茎か飛び出してくる。高揚しているせいか赤く火照っているそれを見て、女性はますますニイ、と笑みを深めた。

「可愛いわ、素敵よ」

そしてもう一度パチン。音が鳴ると、蔓は女性に捧げるように、その胸の高さまでアレルの体を持ち上げた。

熱を帯びてヒクヒクと震えるそこが、女性の息が掛らん位置まで突き出される。

「…はっ、はあっ…た、っ…助け、て……こわい、俺…何がっ…」

「怖い?いいえ、何も怖くなんかないわ」

女性は陰茎にそっと手を添えると、豪華な料理を目の前にしているか如く愉悦の表情を浮かべた。


「これから貴方が体験するのは、極上の快楽なんですもの♡」


歌うようにそう言うと、女性が舌を陰茎にそっと這わせた。


「っひイッ!!??」


新たな体温が、敏感な表皮にねとりと触れる。アレルは身体を大きく跳ねさせるが、女性はそのまま舌をゆっくりと動かした。

「あッあ!?ああぁあっ…ううッやめぇッ…!!」

ズリズリと無遠慮に熱い舌が這う。ヌルヌルと唾液で滑りを得ると、長いそれは屹立の側面をなぞり、亀頭との境目をクリクリと擽る。

「ひッ…ぅあッ! あ!!ッあぅ、ああぁッ…〜〜〜ふぅッ♡く、ぅああっ♡」

やがて、アレルの声にも色が混じり始める。

初めてのその感覚が、『快楽』と身体が認識し始める。甘い痺れが脳を震わせ、アレルの潤んだ瞳が溶け出しそうに熱を帯びた。

その間にも舌は、根本から先端へ、先端から根元へと、唾液を塗りつけるように這っていく。通った場所から熱が消える度に、体の底から新たに熱が生み出されていく。

「ふ、くぅッ…!は、はぁっあ…♡」

「ね?何も怖くなんかないでしょう?」

女性が顔を上げ、アレルの顔を覗き込む。熱にとろける顔を、さらさらとした手袋の細指が撫ぜた。

「気持ちいい、って言ってご覧なさい」

「へ、ぁ…?」

「坊やの身体は今、私に良いようにされて『快楽』を覚えているところなのよ。きちんと覚えさせてあげるために、言葉にしてみなさい。 ほら」

女性の手がするりと身体をなぞり、アレルの胸から腹部、臍上を通り、未開発の陰茎に到達する。湧き上がる熱のままに勃起しているそれを、女性はキュッと優しく握り込んだ。

「ッ!!」

アレルは思わずビク、と身体を強張らせる。先程から湧き上がる甘い痺れが強くなった。

「ぁ…ッ、あ、の……俺っ、おれ…!」

「ほら、言って?」

手袋をしたままの手が、陰茎から漏れるヌルつきを纏ってズル、と陰茎を扱き始める。

「っあぁッ♡!! く、ひぁっ…ううぅっ、ううーーーッ♡」

「言って、坊や」

「やぁっ!!は、ふゥッ…くぅッあーーーッ♡」

「ほら、早く」

「ああぁっ♡ あ、あ、あっ…くぅうあッ♡」

舌とは違う、さらさらとした刺激に身悶えする。身を捩ろうと手を握ったり開いたりしようと、その我慢ならぬ刺激は薄まってはくれない。

脳が溶け出してしまいそうな熱と痺れに、思考が出来なくなっていく。だらしなく開いた口から、アレルはただ喘ぎ声を漏らした。


「言いなさい、『気持ちいい』って」


そんな中で聞こえた声が、頭の中で反響する。それがどんな意味を持つかも、アレルはもう考えられなかった。


「……ッ、♡ あ………っ、き、もち………い……♡」


その言葉を吐いたら、最早陥落。


「いい子ね」

女性はアレルの汗ばむ額にキスをすると、握り込んだ手を早めた。


ズル、ニュル、ズッ…


「ッッッ! あーッ、あぁっ♡やっ、きもちい!気持ちいいっ…♡ふあ!あああっ♡」

それを快楽だと、自ら脳に叩きつけながら喘ぐ。

強請るように腰をくねらせ、女性の手を追い快楽を貪った。

「そうよ、私に委ねなさい♡」

「あぁッ♡ うぅ、ッあーーーっ!♡」

叫ぶように喘ぎ快楽に溺れる。

「ふふ、頃合いね」

女性はたまらなく愛おしいものを見るように瞳を歪め、また足元に顔を近づけた。


「さあ、美味しい一杯を頂戴♡」


美しく紅で彩られた唇が開かれると、ダラダラとだらしなく涎をこぼすその陰茎をーーー


ぱく、と咥えた。


「へ、あ…」

気の抜けた声。

「…」

そして次の瞬間、アレルは激しく体を揺さぶった。


「…ッ、う、ああッー!ああああああああーーーーーーーーッ!!♡♡♡」


熱い、熱い、熱い。

熱が駆け巡る。痺れが徐々に、確実に大きくなり、全身を支配していく。最早自分の意思では指一本動かせないような、そんな感覚に陥った。

「ああああっ♡ あつ、イッ!♡やあっ、きもちい、気持ちいいっ…あーーーッ!!♡」

「ン、…」

じゅぷ、じゅぷと水音を激しくしながら、アレルの陰茎が飲み込まれる。そのまま食べられてしまいそうな恐怖と、下腹部から渦巻く快楽がない混ぜになって…アレルの脳内は、もう形を成していない。

「きもちいいッきもちいいッッッあああああぁあぁあっーーーー!!!♡」

熱い口内がヌルつき、唾液と先走り液がミキサーされる。凸凹とした口蓋、時々当たる小さな歯、そして絡みつく舌。

半狂乱になり、アレルは涙さえ流しながら頭を振る。汗ばむ額に前髪が張り付くが、それすら気にしていられない。その快楽を示すように、尾びれが忙しなくクネクネとうねった。

そして、ジンジンと押し寄せる痺れの波が徐々に、徐々に大きくなるのを感じる。

「あっ、あああッ!!♡な、何かっ…やだっやだァッ!!♡」

ぐちゃぐちゃになる思考の中、何か恐ろしいものがにじり寄る感覚に恐怖を訴える。女性は、慰めるようにアレルの腹を撫でた。

「大丈夫よ、怖がらないで」

「でっ出る!!何かッ…放してぇッ!!」

潤む瞳で懇願するように女性を見る。しかし口内の責苦は止まらない。


じゅぷ、じゅぷ、じゅぷ…


「あっああうっあううううッ」


じゅぷ、じゅぷ、じゅぷ…


「やぁッ♡ あっあっ…ああぁッ」


ドクン、ドクン。

鼓動が大きくなる。痛いほど脈打つ。


もう、限界だ。


「うあぁーーーーーーーッッッ!!」


熱が、吐き出される。

腰が跳ね、全身が抑えようのない痙攣に襲われる。

溶けた思考がそのまま流れ出ていくように思え、目の前が真っ白に染まった。


「…ふふ、美味しい」


満足げな女性の声を遮る、ドクドク、という音、血が激しく流れる音がする。耳元でうるさく跳ねる鼓動が自分のものであると気付いた時、アレルの意識が身体に戻る。

途端に呼吸の仕方を思い出したように、ハアハアと息が荒くなる。身体の強張りが解け、今度は逆に力が入らなくなる。くたりと重力に身を任せた。


しかし、そこが終わりではなかった。


「…ッ!!!???」

ヌル、と熱い舌が、再び股間にまとわりついた。

「なっァ…!?」

「うふ。メインディッシュは此処からよ」

女性はうっとりとした表情で、未だ力を失わない、白い体液の付着したそれを舐め上げた。

「やっ、もう!!も、無理…」

「いいえ、此処からよ」

女性が陰茎をぱくり、とまた咥える。ジュルジュルと吸い上げられる感覚は、達したばかりの身体には拷問に等しかった。

ぐじぐじ、チロチロ、ジュルジュル。

「ふッ、ふぅッあううッ♡」

与えられ続ける、快楽。

どれだけ暴れようとも、絡み付いた蔓が放してはくれない。

「やだっも……もれ、るッ!♡漏れる、からッ…!」

溶けそうになる下半身、辛うじて認識できた感覚を訴えるものの、女性は一向に口を離そうとはしない。

亀頭をザラザラとした舌が擦り上げる。裏筋をずにゅる、となぞる感覚。

「ッも、………ダメだっ、おねが…あ、ッ離してぇッ♡」

アレルの懇願に、女性は耳を貸さない。

「さあ、どうぞ♡」

促す声と共に、ぢゅう、と一際強く吸いつかれる。

そして。


「…あ、」


漏れ始めてしまえば、もう止められない。


「ううぅうッ…あああっアーーーッ!♡♡♡」

ぷしゅ、と溢れ出したものを、女性は美味しそうにごくごくと飲み込んでいく。

身体の中の水分を全て吸い出されてしまうような感覚に、アレルの意識は遠のいていった。




「うふふ、御馳走様♡」

満足げに口を離した女性は、人差し指で唇を拭う。


にんまりと、深い緑色の瞳を歪めた。


「何をしている」

茂みの奥の暗闇から、低い声が刺すように言った。

女性は瞳だけをそちらに向け、ふぅ、と悩ましげなため息をついた。

「やだわ、これからがお楽しみだったのに。昔から妨害だけは得意なんだから」

そう言う女性のそばを、ヒュンと何かが横切った。すぐそばの木の幹に、ナイフと青いバラの造花が突き刺さった。

女性は首元に目をやると、ひとつ欠けてしまったバラを見てクス、と笑った。

「あらあら…随分とお怒りじゃない、珍しい。お気に入りの子を横取りされたのがそんなに癪に触ったのかしら?」

「黙れ」

暗闇に覗く深い紫の瞳が、ギッと鋭く睨み付ける。

草を掻き分けるヒールの音。


闇の中から、女性と全く同じ姿の影が現れた。

ただ違うのは、その影の瞳の色。


「去ね、アーマリス。お前の居ていい場所じゃないんだよ」

紫の瞳の影にそう言われる女性、アーマリス。彼女は緑の瞳を細めて美しく笑う。

「まあ…そんな下手な変装でよく人前を歩けるものね。魔力を隠そうともしてないなんて。

それに元はと言えばあなたが私の姿を悪用しようとしてるからでしょ、***?」

名を呼ばれた影は、不快そうな表情で天に向かって指で菱形を描いた。淡く紫色に輝く魔法陣が、影の姿を包んでいく。

薔薇色の髪は色を失い、小柄な体は引き伸ばされていく。白い上着に黒いスキニーズボンの姿に戻った影は、眉間に皺を寄せた。

魔女、カベルネ。この町でそう呼ばれる彼女は、何処からか取り出した杖をアーマリスに向けた。

「去ねと言っている。これ以上居座るなら容赦しない」

「相変わらず野蛮ねぇ」

「三度目は無い」

ルネの周囲にフォン、と魔法陣がいくつか現れる。そこから覗くのは、鋭く尖ったガラス片。浴びればただでは済まない先端がギラリとアーマリスを捉えた。

「…はいはい、分かりました。邪魔者は退散するわ」

アーマリスは宙に手のひらを差し出し、球体を撫でるような手つきで魔法陣を呼び出す。

丸い魔法陣が形を変え、豪奢な装飾のついた箒になると、その上に優雅に腰掛けた。

細い腕がしなやかに動くと、地面でぐったりと倒れ込んだアレルに向けられる。


「あとは、お好きにどうぞ♡」


そう一言残して、霧が消えるようにしてアーマリスは去った。

ルネは改めて、意識を失っているアレルを見遣った。

服は霰もなく肌蹴られ、顔は汗やら涙やらでぐちゃぐちゃに濡れている。そしてズボンから覗くそれに、吐き気がするほどの嫌悪を覚えた。

「阿婆擦れが!」

ルネはアレルの顔面に向かって足を上げると、吐き気を振り払うように強く蹴りつけた。

ゴン、と強い音共に、アレルの顔の前に魔法陣が浮かび上がる。すると1人でに服の乱れが正されていき、身体のベタつきが乾き上がるように消えていった。

今のアレルを通りすがりの者が見ても、酔っ払いが倒れているとは思えど襲われたと思う者はいないだろう。

「…チッ!」

普段より大きな舌打ち。

汚いものを拭うようにブーツの底を地面に擦り付けると、ルネはその場を静かに後にした。



遠くでぴろぴろ貝の奏でる音楽が聞こえる。


パーティは、まだまだ続く。

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