クーデレな彼女はSNSに勝てない。
むこうみず太郎
クーデレな彼女はSNSに勝てない
「おう、おはよう。
「おはようございます。‥‥‥
「今日の宿題やったか?」
「ええ。」
「きょ、今日の宿題なんだったっけな‥‥‥?」
「後でご友人に教えていただくべきかと。」
「今日は文芸部に出るのか?違うなら一緒に帰ろうぜ?」
「わかりました。」
「‥‥‥。」
「‥‥‥。」
俺が話しかけるのは
俺はリア充のはずだ。でも俺の勘違いだったのかもしれない。そう思い始めた付き合ってから一ヶ月の今日このごろ。
トークアプリの連絡先も交換していなければSNSも使っていなくて使えない。俺らは本当に現代の日本人カップルなのだろうか?
それに高校で直接あってもそっけない。俺が何を聞いても絶対に一文で返ってくる。話しかけてこないからまったく話が盛り上がらない。しかもずっと無表情だから怖い。
俺たち、一ヶ月立ってもデートしたことないんだぜ‥‥‥?うふふあははだなんて夢のまた夢‥‥‥。ABCの卒業どころか、一切の接触をしたことがない。あ、でも楓のよく触っているぬいぐるみ風のキーホルダーを拾ったことが‥‥‥、いや、それを接触にいれちゃ駄目だ!!それを入れたら俺の何かが終わる!!
__俺達はなんで付き合っているんだ?
ここまで聞くと、楓が俺に興味がないように思われるがそれは違う。クラスメイトだった楓から告白してきたのだ。楓は結構クールな感じのかっこいい系美少女で、そのロングストレートの黒髪が似合う俺の好みドンピシャの女の子だ。
前から気になっていた俺はすぐさまオッケーしたのだが‥‥‥、話が違う!!
もっと、こう、なんだ!?クールな美少女が俺にだけちょっとデレて、それを俺が愛でるというこのラブラブクーデレ計画が台無しじゃないか!!というか!!楓のそれはクーデレじゃない!!クール:100、デレ:0だ!!これのどこがクーデレなんだ!?
でも、俺はまだ好きだし、『別れよう』だなんて言えないしな‥‥‥。
*****
〈別れるべきだろ!?お前、それは付き合っている意味はねーよ。〉
夜、DMで相談したクラスの友人にそう返ってきて、やっぱりか‥‥‥、と落ち込む。
〈でも、俺は好きなんだよ。楓のこと。もっとお互いを知る機会がほしい、というか
なんというか‥‥‥。〉
〈‥‥‥まあ、秋庭さんだしな。俺、秋庭さん笑ったことないわ。〉
〈俺もねーよ。というか先に見たら殺す。〉
〈‥‥‥これだけ聞いたらラブラブなのにな。〉〈ご愁傷さまww〉
その人を馬鹿にしたようなDMにブロックしてやろうか悩んでしまう。
〈まあ、あんな美少女を手放したくない気持ちもわかる。やっぱりSNSかトークアプリ入れてもらって話すのが一番いいんじゃないのか?〉
〈でも、連絡先の交換のタイミングがつかめない。〉
〈おいおい。それぐらい頑張れよ。秋庭さんに告ってもらったんだろ?じゃあ今度はお前の番だろうが。〉
〈それもそうか。〉
*****
次の日の放課後、一緒に下校しているときに俺は早速楓に話をつけに行った。
「というわけで、トークアプリでもSNSでもいいから交換しねーか?」
「‥‥‥。」
珍しく黙って俯いた楓に不安になってくる。
「い、嫌ならいいんだ!!」
「い、嫌じゃないですけど‥‥‥。」
と、これまた珍しくはっきりしない言葉で楓が俺の手首を弱々しく握った。
Foooooooooooo!!!初めての接触だあ!!!じゃないんだよ!!俺!!
「スマホ、貸してください。こ、交換しましょう。」
「本当に嫌ならいいんだぞ?」
「い、嫌じゃないんです!!ただ、ちょっと‥‥‥、変な返事したらすみません。」
なるほど。今まで乗り気じゃなかったのは返事の仕方が変なのが怖かったのか‥‥‥。俺に気遣ってていうことだろ?うむ。可愛い。俺の彼女。
「スマホの時間に制限とかあるか?」
「できれば10時以降はやめてほしい、ですね。あとは大丈夫です。」
「オッケー!」
楓がカバンから取り出したスマホに表示されたQRコードを読み込みながら答える。2文以上喋ってくれてる‥‥‥!!‥‥‥こんな会話らしい会話をしたのは告白のとき以来かもしれない。普通に嬉しい。
「早速今日帰ってから送るな。」
「はい。」
あ、元に戻ってしまった‥‥‥。手首を掴んでいたても離れてしまったし‥‥‥、残念。
*****
「さーてと、何送るかな?」
と、自宅に帰った自室でスマホのトークアプリを開いた。最初は無難に〈よろしく!〉と言っているマスコットのスタンプを送った。
「これを機に彼氏専用のスタンプでも買うかな。」
などとぶつくさ呟いていると、ピコンッという通知音が聞こえてきて俺のニヤケが止まらない。
さて、どんな感じになるかな。楓のことだから、まあ事務的に『宜しくお願いします』だな。
そう思いながら、トークアプリを開くと‥‥‥、
「な、何いいいいいい!?!?」
なんと可愛らしい女の子スタンプで『えへへ♡よろしくっ!』と来たのだ。え、何!?めちゃくちゃ可愛いし、なんならその女の子が楓に似ていて想像ができてしまうのだが。心臓に悪いな!!このスタンプ!!
「ま、まあ『よろしく』っていうスタンプが他になかっただけだろう。」
そう思って、俺は次なるメッセージを送る。
〈明日の美術って何がほしかったんだっけ?〉
もちろん、明日ほしいのは絵の具と新聞紙なのはもう知っているがこうやって話題提供しないとなかなか話ができないんだよな‥‥‥。まあ、また『友達に聞いてください』って言われるだろうし、あ、今ピコンッてきた。
〈明日の美術?忘れちゃったの?しょうがないな〜〉〈明日は絵の具と新聞紙、雑巾だよ!〉〈忘れたら先生に怒られちゃうから気をつけてね!〉
‥‥‥え?
手が止まってしまったトーク画面に追加で
〈そういえば、今週の日曜日空いてる?〉〈遊園地行こうよ!!〉〈デートデート♡〉
あ、明日って雑巾も欲しかったんだ‥‥‥。
‥‥‥。
まじであなた秋庭楓さんですか!?別人じゃなくて!?俺は今、彼女彼女詐欺にあっているのではないのか!?
で、デート!?か、楓とぉ!?それも楓の口からぁ!?
〈もちろん、空いてるよ!〉
〈よかった!楽しみにしているねっ!!〉
とメッセージ上は元気に返事しつつも俺の脳内はこんがらがっている。駄目だ!!こういうときは戦略的撤退だ!!友達に相談する!!
〈__ってな感じのやつが来た。え?これって詐欺!?〉
とDMするとすぐに返事が来た。
〈安心しろ。詐欺だ。〉〈じゃなきゃ、俺はお前を許せそうにない‥‥‥!!〉〈これがギャップというやつか!?〉〈秋庭さんがそんな内容いうなど‥‥‥。( ゚∀゚)・∵. グハッ!!〉
と連続で来た。
〈お、俺はなんて返せばいい!?駄目だ!テンパって訳わかんねー!!〉
〈もう。もうこれはあれだろ!!〉
〈あれって?〉
〈『俺のどこ好きになった?』って聞くんだよ!!〉
〈よく分かった!お前もテンパっているのがよく分かった。〉
〈なあ、ものは相談なんだが‥‥‥、〉
〈なんだよ。〉
〈秋庭さんを俺にくれ!!〉
‥‥‥既読スルー+ブロックした。ふざけんな!このやろう!!
とりあえず、俺は落ち着くことにした。そうだ、落ち着くんだ!!俺!!友人のことをあんまり真に受けるなって!!楓が多少浮ついていたっておかしくないだろ!?今のこれだってただ楓が会話らしい会話をしただけじゃ_、
〈俺のどこが好きになった?〉
送信ボタンを押したときにハッとした。何俺送ってんだよおおおおっっっっっっ!!!!
でも、気にかかるのも確かなんだよおおおおお!!!告白されて付き合ったはいいけど、’’あれ?こいつ本当に俺のこと好きなのかな?っていうか俺なんかのどこが好きなの!?’’ってずっと思っていたのは間違いない。間違いない、けど‥‥‥。
あああああああああああああっっっっっ!!!!!
女々しすぎたか!?流石の楓も『は?女々しい。キモ。別れよ。』ってなっちゃうのかなあああ!?!?
あああああ!!!失敗だああああああああああ!!!
しかも既読はついているのに全然返信来ねええええええええええ!!!全部あいつが、あいつが悪いんだあああああああああああああっっっっっ!!!!くっそ!!
あー、好きだったのに‥‥‥。早かったな‥‥‥。別れるの‥‥‥。
あー、やばい。もう‥‥‥、お別れか‥‥‥。
「あああああああああああああああああああ!!!!!!嫌だあああああああああああああああああ!!!!っ!!」
楓じゃなきゃやだあああああああああああああああ!!!!
情緒不安定すぎるが、許してほしい。楓が初めて付き合った相手なんだよど畜生!!
ベッドにもたれて脱力する。はー。
「そうちゃ〜ん?ご飯よ〜?あとうるさいわよ〜?」
「はいはい。」
リビングからお袋の声がして、立ち上がる。
充電なくなってきたし、充電器つけてから行くか、とスマホをもったときにピコンッという音がなる。
さっきDMをブロックした友人からトークアプリで謝罪文でも来たのかとアプリを開いた。
「んんっ。ごほごほっ!!」
が、名前を見て思わず咳き込む。楓だ。えっ、これって別れのメッセージ!?恐る恐るトーク画面を開く。
「ひえっ!?」
『別れましょう』という短文を予想していた俺は思わず奇声をあげる。
‥‥‥めっちゃ長文。
やっぱり別れのメッセージか‥‥‥?早かったな‥‥‥。そう思いながら長文を読む。とりあえず読まないことには始まらない。
〈爽太さんの好きなところ、ですか?たくさんありますよ。まず一年前に私が定期券を落としたのを覚えていますか?そのときに爽太さんが渡してくれたんです。そのときにその気持がとっても嬉しくて‥‥‥。好きだなってずっと爽太さんのこと見ていたんです。改めて好きです。この間、ようやく勇気をもって告白しても、私、照れちゃって‥‥‥。いつも話題提供してくれているの爽太さんだから私も頑張って話そうとしても爽太さんの前だと話せなくて‥‥‥。私なんかと付き合って楽しいのかな、ってすごくネガティブになってしまっても爽太さんの声を聞くだけでとっても幸せで!!‥‥‥とても面倒くさい女なんです。私。明るい爽太さんとは不釣り合いなのはわかっているんですけど、好きなんです!!爽太さんのこと!!〉
「ふぇ?」
これは‥‥‥、なるほど。ドッキリか。
〈好き。〉
ドッキリ‥‥‥。
〈会いたい〉〈会いたいです。爽太さん‥‥‥。〉
「ぐあああああああああああああああっっっっっ!!!」
いや、もうドッキリでもいい!!!好き!!単純に好き!!しかも本心がしれて嬉しい!!
こ、これは‥‥‥、返事を返さなくては!!返さなくては男が廃れるというものだ!!
と、人差し指がスマホの画面に触れる前に‥‥‥、
「ご飯よ?聞こえてなかったの?」
と母親が部屋の中に乱入‥‥‥。Oh‥‥‥。
「い、いやっ!!今トークアプリで会話を‥‥‥!!」
「あとでにしましょう?そうちゃん。ご飯冷めるし、お父さんも待っているわよ?」
「うう‥‥‥。じゃあ、スマホを持っていって‥‥‥。」
「そうちゃん?」
ニコリと殺気を迸らせている母親に俺は家訓を思い出した。
「食事の際は?」
「何も持ち込まず、団欒する‥‥‥。」
「よろしい。」
ごめん。楓‥‥‥。母さんが強すぎた‥‥‥。男が廃れた‥‥‥。
*****
その後、俺は食事、更には早く終わらせろという母の圧力に屈し、歯磨き、風呂を最速でこなし、ようやく自分の部屋に戻れた。
「こ、これで‥‥‥、返信が!!」
返せる!!楽しくトーキング出来る!!今までろくな会話ができなかったんだ!!今までの分を取り戻すように日常会話から
そう思いながら俺はトークアプリを開き‥‥‥。
「ふぇ?」
またもや奇声をあげた。
〈10時になりましたので本日の会話は終了させていただきます。〉
と、楓から来ていたからだ。
‥‥‥え?
そういや、言っていたな‥‥‥。『できれば10時以降はやめてほしい』って。
いや、でも今は10時過ぎてすぐだ。少しぐらい大丈夫だろう。
そう思って俺は
〈俺も会いたい。〉
とだけ入れた。
既読はすぐについた。
すぐに返事が返ってくるかな?と思っていた。
‥‥‥思っていた。
*****
ただいま、十二時。‥‥‥未だ返事来ず。
「来ねー‥‥‥。」
最初は照れているのか?はは!可愛いハニーだ!!とか余裕ぶっこいていたけど、こうなってくると事情は変わる。マジで10時以降は連絡を取らないつもりだ‥‥‥。
俺は諦めて動画を見ていたが‥‥‥、既読スルーされたままだ。
もう寝るかな‥‥‥、とため息をついて布団をかぶった。あー、最後に返信がほしかった、
ピコンッ。
な‥‥‥。
‥‥‥ん!?ぴ、ピコンッ!?なんと!!返事が来た!!
俺は驚きながらスマホのロックを解除する。
トークアプリが起動する時間を待つその時間が何時間にも感じられる。
さあ!!いよいよ俺たちは会話を!!
〈拗ねるなって。わざわざブロックするなって。〉
__友人からの連絡だった。
ふざけんな友人A。お前が出る幕じゃないんだよおおおおおおおおおおおっっっっ!!!期待させんなああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!
クーデレな彼女はSNSに勝てない。 むこうみず太郎 @mukoumizutaro
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