第2話 破滅を呼ぶギフト
贈り物(ギフト)。
それは神様からの贈り物。
誰にも等しく与えらえれる能力の総称。
能力はスキルとも呼ばれ、それぞれ様々な属性に大別される。
誰にでも等しく与えられるから、誰にでも等しく成功と不幸が訪れる。
ペイパルスト王国の王都イザニアに住む十二歳の俺が、スキルを覚醒させる授与式に参与したのは夏のある日だった。
その日の王都には海からの涼やかな風が吹き抜けていて、無限に続く可能性を感じさせてくれた。
授与式は神々の王ダーシェの神殿で行われる。
それは特別なものかというとそうでもなくて。
人だけでなく、獣人のような亜種族も、エルフのような妖精も、魔族のような異種族も等しくギフトを持って生まれてくる。
人間の場合は十二歳になったらそこにいって神官から覚醒の儀式を施してもらうことになる。
ほぼいつもやっているようなものだから、半ば平常化された神殿の中で感慨深いものを感じているのは親と、その対象者である子供だけだ。
俺は周りの空気を読みながら、そんなことを頭の片隅で考えていた。
その時の意識は順番待ちの自分ではなく、幼なじみのとある少女に向けられていた。
エルメス・スレイズホルム。
王国宰相を代々輩出してきた、名家スレイズホルム侯爵家の跡取り娘にして、俺の一番気になる美少女。
それが、白銀の髪と真紅の瞳を持つ‥‥‥十二歳にしては外観のふくらみがもっと年長の少女たちのように立派に成長したエルメスの印象だった。
俺は鏡のように磨き抜かれた足元の黒い大理石をじっと見つめる。
目の前に垂れ下がった水色の髪、黒の瞳に、ぼさーっとした特にこれといって特徴のない顔立ち。
兄たちは王国騎士団でそれぞれ騎士や騎士長を勤めていたり、聖騎士になっているというのに、俺の全身には筋肉というものがない。
どれほどトレーニングを積んでも、なぜか筋肉がつかないのだ。
おかげで家人たちからは貧弱と蔑まれ、兄弟姉妹からは将来を案じられる始末。
両親に至っては「おまえには期待していないから、それなりのギフトを戴いてこい」とハッパをかけられた。
とはいえ、嫌われているわけでもなく。
「いいか、イニス。人には相応の分というものがある。お前がもし騎士に向かないのであれば、文官として生きればそれでいい」
代々、王国騎士団長を輩出してきた俺の実家、レイドール伯爵家にはすでに相応しい後継ぎがいて、俺に対して両親が向ける期待度はそれほど高くない。
長兄ダレンが数世紀に一人しか現れないと言われる聖騎士のギフトを授かったから、家は安泰なのだ。
その意味で、俺は他の家督を継がなければいけない連中よりも、幾分心を軽くしてこの場に挑んでいた。
だからこそ罪が科されたのかもしれない。
少なくとも、剣士か。もしくは重騎士くらいの‥‥‥スキルをくれたらそれでよかったのに。
俺に与えられたスキルは、破滅を呼ぶものだった。
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