十二月三十一日
小学校三年生の時、初めて同じクラスになった。三学期末の国語の授業で自由にテーマを決めて調べ学習をすることになった時、私は歳不相応ながらに『天然痘の治療法発見までの道のり』について調べていた。なぜそれにしたのか、今でも訳が分からない。一方で当時、清水(そう、まだ清水と呼ばれていた頃)は『地球上で一番速いもの』を調べていた気がする。当然、それは光だった。
小学校六年生の時、最後に同じクラスになった。歳の離れた弟のことを、皆は「たっつん」と呼んでいた。いや、もしかしたら「タッツン」だったのかもしれない。この時もまだ清水と呼ばれていた。
次に会ったのは中学三年になってから、塾でのことだった。この時には清水は生徒会の副会長になっていて、あろうことかその役職に見合わない風紀を乱す、およそ某AV男優を指すあだ名──「しみけん」と呼ばれていた。意味が分からなかった。そして、それを宿命づけられたことのように自然に受け入れている清水の姿がそこにあった。
勝てない、と思った。いや、人望や境遇という点で最初から勝つことなんて出来なかったのになんでそう思ったのかは分からなかった。ずっと皆が知っているままの「清水」はいつの間にか「しみけん」になって舞台に登場し、神の祝福を受けるが如く、副会長に当選した。薄汚れた名で呼ばれる奴に、清き一票を投じたことを悔やむにはもう遅かった。おめでとう、と思った。
「雷は空から落ちる時、なんでギザギザになるか知ってる?」
「えっ知らない」
「それはね……」
小学校三年生の時、唯一披露できた知識を「すごいね」と清水に褒められて嬉しかったことだけを覚えていて、それは当然、図鑑の受け売りでしかなくて。それでも嬉しかったのは、いつだって「何を言ったか」より「誰が言ったか」に重きを置く文化だからだった。
だから今、私みたいな人間が言ったって清水にとって何の意味も成さないかもしれないことを──いや、内省的なことを言うのはよそう、せっかくのめでたい日なのだから。
誕生日おめでとう。そう言いたかった。
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