短編
三崎馨
余韻
とある冬の何の変哲もない日。その日は仕事も休みで家でゆっくりしていた。
炬燵に入り机の上にのっている竹を織り込んだような造りの籠へと手を伸ばしみかんをつかむ。
隣では子供たちが炬燵でうつ伏せになりテレビへ向かって横になり有名な某レースゲームをしている。七歳の長男と五歳の長女では実力の差があるため、どうやら長男の圧勝らしかった。仕方のないこととはいえ、負けたことに悔しさを覚えている長女と勝ったことを喜び恥ずかしげもなく煽っている長男。
喧嘩にならないだろうか、と心配し見守りながらみかんの皮をむく。すると横から長男を叱る声がする。勝ったとしてもそんな風に言うものではないと妻が言う。長男はしゅんとして「ごめんなさい」と言った。
一安心と机の上に置いてある煙草を手に取り、ライターを使って火をつける。すると妻は私を叱りに来た。子供たちがいるのだから煙草は控えなさいと。私は「ごめんなさい」と言った。それを見ながら子供たちが私がむいたみかんを食べながら笑っている。さっきまでの険悪な雰囲気は無くなったようだ。それにつられて私と妻も笑い出した。
***
監督のカットの掛け声とともに私は現実へと戻ってくる。
ひと時の幸せな夢に身を投じていた。横にはすでに子供役だった子たち二人が楽しそうに会話している。妻役の女性はその様子を微笑ましく見ていた。夢から覚めた私はこれが現実なのだと再認識しスタッフに挨拶しスタジオを後にした。
***
冬の寒い風が吹く。私は寒さ対策としてコートを羽織り出てきたビルを後にする。この後は特に仕事はなくそのまま帰ろうと帰路に就く。すれ違う人々が忙しなく歩く中、私は一人ゆっくりと歩く。ふと立ち止まり空を見上げるとしんしんと雪が降ってきた。私はポケットから煙草を取り出しライターで火をつける。私には子供たちも煙草を止める妻もいない。それが当たり前だったのに今日はそれが空しく、そしてさみしく感じてしまう。きっと先程の撮影のせいだろう。私はおもむろに煙草の煙をふぅーと吐き出し。
「家族、か・・・・・・」
そう呟いた。
短編 三崎馨 @Kaoru_Misaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます